プロ志望という選択が引き合わせた、父とスカウトとの数奇な再会

 第102回全国高校野球選手権大会の中止が決まり、約1か月。代替大会、引退試合、上の舞台、将来の夢……。球児たちも気持ちを切り替え、新たな目標に向かってそれぞれのスタートを切っている。新型コロナウイルスは彼らから何を奪い、何を与えたのか。Full-Countでは連載企画「#このままじゃ終われない」で球児一人ひとりの今を伝えていく。

 昨秋の関東大会を制し、神宮大会で準優勝。近年課題だった投手力を整え、春夏の甲子園でも上位進出が期待されていた健大高崎。全国制覇の夢はついえたが、県独自のトーナメントが決まった群馬大会、甲子園での選抜出場校招待試合に向け、練習の日々を送っている。

 相次ぐ大会中止によりプレーを披露する場がなく、懸念されていた3年生の進学先も、青柳監督はじめ関係者の尽力でおおよそが決定。後は思う存分、最後の夏に3年間の集大成を見せるのみという状況のなか、ただ一人、今も進路に不安を抱える選手がいる。

 エースの下(しも)慎之介投手(3年)はこの冬、高校卒業後の進路を大学進学からプロ志望へと切り替えた。コロナ禍による自粛明け後、初登板となった6月20日の練習試合では、7球団のスカウトが見守るなか青藍泰斗を相手に5回4失点と精彩を欠いた。久々の登板は苦い思い出となったが、一方でこんな出会いもあった。

「父は高校途中に怪我でプレーをあきらめたんですが、小中時代に元日本ハムの高橋憲幸さんとバッテリーを組んでいたんです。高橋さんは今年から日本ハムのスカウトになられていて、この前の練習試合でも来られていた。父は電話を受けて(球場に)駆けつけて、二人でずっと話してた。家に帰ると、いつもは寡黙な父が『ありがとう。お前のおかげで久々にあいつと話せたよ』と握手を求めてきて……。うまく言えないですけど、うれしかったです」

 自身が引き合わせた運命的な再会に多少思うところはありつつも、過度な期待はしていない。下が今感じているのは、久々の実戦の機会で結果を残せなかったことへの漠然とした不安だ。

甲子園は最後のアピールの場、“意地悪な質問”にドラフト候補が出した率直な答え

「プロは小さいころからの夢。秋の結果から進路をプロ一本に絞ったんですが、最近は不安な思いも大きい。みんな大学進学が決まるなか、自分だけが10月(のドラフト)までソワソワしてるような感じで……。自分が選んだ道が間違ってないと思いたくても、それを証明する機会がない。それでも、誘いをいただいた大学さんを断ったからには最後までアピールを続けたい」

 他のナインの進路が決まるなか、下にとっては群馬大会、甲子園での招待試合は紛れもないアピールの場。最後の夏、3年生全員で臨むというチームの方針も理解しつつ、将来のためには数少ない実戦の場で自らの能力を最大限に誇示しなくてはならない。“意地悪な質問”と前置きしつつ「甲子園では完投したいか」と率直な疑問をぶつけると、実に誠実な答えが返ってきた。

「自分にとっては、本当に残り少ないアピールの場。単純に投手として、1つしかないマウンドを誰にも譲りたくないという気持ちもあります。でも、試合が始まったら進路が決まってるかどうかは関係ない。全員が出て勝てればそれが一番だし、自分が投げて勝てるのならそれでもいい。それを決めるのは監督さんで、そこにどっちが上とか下とかはありません。将来がかかっていることは頭の片隅に置きつつも、たぶん試合になったらそんなのは全部吹っ飛んじゃいます」

 自らが選んだ進路と、父への感謝、そして信頼する仲間への思い。様々な葛藤を抱え、一人のドラフト候補の最後の夏が始まる。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)