たとえば代表チームのスタメンは、監督が交代すれば半分入れ替わる可能性がある。選手選考は代表監督の主観に委ねられている。一方、「あの選手より、こっち選手のほうがいいんじゃない?」とは、よく抱きがちな感想だ。監督の視点がどれほどフェアでフラッ…

 たとえば代表チームのスタメンは、監督が交代すれば半分入れ替わる可能性がある。選手選考は代表監督の主観に委ねられている。一方、「あの選手より、こっち選手のほうがいいんじゃない?」とは、よく抱きがちな感想だ。監督の視点がどれほどフェアでフラットだったとしても、これはサッカー界からなくならない話でもある。

 それは肝心の選手の調子が一定していないからだ。その出来、不出来にはバラツキがある。80点の日もあれば100点の日もある。60点の日もあれば120点の日もある。100を超えてしまう場合もあるから厄介だ。平均値を実力だとすれば、その数値を探ることは簡単ではない。

 関係しているのは精神的なノリだ。ノッているか否か。調子を左右するポイントは高揚感にある。そしてそれを後押ししているのがスタジアムの雰囲気だ。振れ幅はガラガラのスタンドより満員のスタンドのほうが大きい。



Jリーグ再開に向けて練習する水沼 宏太、大津 祐樹ら横浜F・マリノスの選手たち

 ブンデスリーガに続き、無観客で再開したプレミアリーグやラ・リーガの試合を見ていて思うことは、80点の試合が目立つことだ。スーパープレーも少なければ、凡プレーも少ない。平均的なプレー、高揚感に欠けるプレーが目立つ。

 パッと見ただけではわかりにくいが、たとえば中断期間中にWOWOWで放送されていた過去のクラシコやEUROの名勝負シリーズと見比べれば一目瞭然。違いは鮮明になる。

 バルセロナやレアル・マドリードなど、選手の技量が圧倒的に高いチームは、パスワークを重視する傾向が強い。そして、濃くない、あっさりとしたプレーが目立つ。相手との関係でいえば、極力、競り合いを避けている。身体を寄せるプレーが少ないのだ。

 ボールを保持する側は、相手に接触する前にボールを離そうとする。必然的にドリブルは減る。逆に言えば、ドリブルをすれば効果がある。ディフェンダーは身体を強く接触させなければならない状態に置かれる。

 マジョルカ戦で、リオネル・メッシが相手に囲まれながらもドリブルでスルスルと前進するシーンがあった。従来ならディフェンダーはもっと早い段階で身体を寄せていたはずだ。2人目、3人目のディフェンダーもしかり。本来より2割減という感じで対応に出ていた。

 当たりは弱くなっている。上体と上体を寄せ合うショルダーチャージはサッカーらしい正当な接触プレーと言えるが、そうしたシーンは激減。反則の数も減っている。イエロー、レッドの数も減っているものと思われる。

 その分、増加しているように見えるのが足を使っての引っかけだ。通常なら腰が引けたプレーそのものになるが、相手を止めなければならない時に手っ取り早い手段として、つい足が出るケースが目立つ。

 スペインのリーガでは、ハイタッチやツバ吐き、握手、倒れた相手に手を差し伸べる行為は、禁止されているというが、頻繁に見かける。頬を寄せ合うシーンさえ見られる。習慣として定着してしまっているのだろう。

 感染リスクが高そうな行為を見ると心配になるが、プレーそのものは、いまのご時世に対応できている。よくも悪くも常識的だ。変にファイトする選手はいない。

 あっさり淡泊ながら、きれいなサッカー。泥臭くないのだ。なにより競り合いが少ない。空中戦も少ない。ハリルホジッチが「日本人に足りない要素だ」とうるさく言っていた「デュエル」が、いまは特段求められていない状態にある。

 間もなく再開されるJリーグで示される傾向も同じだろう。パスサッカーを得意分野にする日本人選手には、馴染みやすい環境かもしれない。

 ただし、問われるのはパス回しの質だ。パスコースの多いサッカー。展開力に富んだサッカー。つまり攻撃的サッカーをするチームが有利になると見る。

 具体的に言うならば、どれほどピッチを広く使えるかだ。真ん中に固まらずサイドを有効に使えるか。レアル・マドリード等の試合を見ていてつくづく思うのは、パスの質と正確性だ。中長距離のパス、とりわけサイドチェンジには目を見張るものがある。

 サイドアタッカーの足元に、寸分違わぬパスがスパッと収まるシーンをよく見かけるが、これなどは日本ではまだまだ拝みにくいプレーだ。キックは乱れがち。受け手の選手もトラップに時間を費やす。

 技術的な問題もさることながら、その重要性が追求されていないことのほうが問題だ。それぞれのキック、トラップの技術が上がらない理由でもある。

 さらに、サッカーそのものが攻撃的ではなく、全体の陣型がクリスマスツリー型になりがちなことも拍車を掛ける。パスサッカーを好む一方で、サイドチェンジの必要性に乏しい守備的サッカーを、多くのチームが実践してきた不幸を恨まずにはいられない。

 そうしたなかで、ドリブラーがどれほど勇気を持ってプレーできるかにも注目したい。昨季のMVP仲川輝人(横浜F・マリノス)はコロナ禍の中にあっても猪突猛進できるのか。

 とはいえ、観衆の応援に背中を押されることがない選手に、過度な頑張りを求めるのもナンセンスだ。100%の力を満足に発揮しにくい状態にある選手を後押しできるのは監督だ。その力が真っ先に問われることになる。

 選手の交代枠も通常の3人から5人に拡大された。交代の機会そのものは3回に限られるが、これに給水タイムが加わるので、監督が試合に関与する機会は大幅に増えることになる。いわゆる戦術的交代を披露するには、もってこいの設定だ。

 間もなくシーズンオフに入る欧州と違い、Jリーグはこれからシーズンが始まるようなものだ。先は長い。交代枠をフルに活用し、使える選手の数を増やすことができるか。層を厚くすることができるか。これもまた監督に求められる能力になる。今季の結果は監督の力に比例するような気がしてならない。