中断中、胸に響いたサポーターからの声 サッカーJリーグは6月27日にJ2が再開、J3が開幕、7月4日にJ1が再開する。サポーターにとっては待ちに待った瞬間を目前に、複数のメディアによって構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」はJリーグ全…

中断中、胸に響いたサポーターからの声

 サッカーJリーグは6月27日にJ2が再開、J3が開幕、7月4日にJ1が再開する。サポーターにとっては待ちに待った瞬間を目前に、複数のメディアによって構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」はJリーグ全56クラブの主力選手、クラブ幹部、スタッフをインタビュー。「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE -」と題した企画で、開幕、再開を熱く盛り上げる。

 THE ANSWERではJ3ヴァンラーレ八戸、FW上形洋介を直撃。昨季のチーム得点王は「今季はエゴイストになる」と宣言。昨季以上の得点量産でチームをJ2昇格へ導くつもりだ。

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「(2月以降)先が見えない状態が続いたので、リーグの日程が決まったときは素直にうれしかった。久々の全体練習でも選手間にコンディションの大きなバラつきは見られず、チームとしての戦い方を合わせる時間に(集中して)使えている。いい状態にあるのかなと思います」

 4月からの自主トレ期間を経て、5月25日に全体練習を再開したヴァンラーレ八戸。八戸での2シーズン目を迎えた上形は、開幕を1週間後に控え、チーム状況について穏やかな口調で話し始めた。

「全体練習ができない期間は、選手間で密に連絡を取り合い、互いが持つ知識を自主トレーニングに生かし、状況を共有してきた。チーム練習ができない分、個人の成長につながるトレーニングに向き合えたので、プラスになった期間だと思います」

 向き合ったのはそれだけではない。突然、「試合」という舞台を失ったことで、サッカー選手としての人生を改めて振り返る時間となった。恐らく、多くのスポーツ選手がそうであったように。

「人生の中心だったサッカーができない状況が続き、僕らがプレーできるのは当たり前のことではないと痛感した。改めてサッカーができる喜びを知ったし、感謝する気持ちを持つことが出来ました」

 大きかったのは、SNSを通して届いた、サポーターたちの声だった。『(試合がなくなり)何のために今を頑張っているかわからない』。その中の一つの言葉に、胸が震えた。

「確かに僕たち選手もツライ。でも、週末のサッカーの試合を見に行くことを楽しみに、毎日を頑張っている人たちも、ツライ想いをしているんだと感じました。

 僕のプレーで元気をもらえたという言葉は、これまでも何度か頂いていましたが、改めてサッカーは人に元気を与えることが出来るのだと知った。そのことで今まで以上に、スタジアムに足を運んでくれる人、テレビで観てくれる人たちのために、一試合一試合、全力で取り組もうという気持ちになりました。

 プロである以上、勝つことも大事。しかし勝ち負け以上に大切なこともある。僕はそこにもこだわっていきたい」

目標のJ2昇格へ「今季はゴール前ではエゴイストになりたい」

 時を同じくして、節目となる出来事がもう一つあった。3月23日、第一子となる長女が誕生。父親となり、心持ちが変った、と話す。

「生まれたばかりの長女は、当然、自分のパパがどういう仕事をしているかはわかりません。やっぱり、娘にはカッコいい姿を見せたい。パパはサッカー選手なんだと理解できるようになるまで、頑張ろうという気持ちが沸き上がりました」

 娘にミルクを与える姿も動画でアップされていたが、最近は僕の手から飲んでくれなくて寂しい、と上形。「日焼けしちゃったせいか、ちょっと怖いみたいです(笑)」。

 さて、八戸は2018年、J3のライセンスを取得。19年、J3に参戦するチームは補強にあたり、栃木SCから上形を獲得した。八戸は10位でシーズンを終了したが、上形自身はチームトップの11得点を記録。とはいえ、「いい結果を残した」と単純に言えるほど順調だったわけではなかったようだ。

「シーズン当初はスタメンでの出場が続いたが、途中からベンチスタートが多くなり、正直、精神的にきつい時期もありました。流れが変わったのは、頭を動かすより体を動かそう、と気持ちを切り替えてからです。まずは自主練を始めた。しばらくすると体が動くようになり、途中出場からゴールを決められるようになった。僕はこれまで、途中出場から得点することができない選手でしたが、シーズン終了時には総得点の約半数を途中出場で決めていました。悩んだ時期もあったが、結果的には成長できたシーズンだと思います。

 一方、中口監督からは、『(ゴール前では)もっと自分で脚を振れ』と言われています。これまではいい形でボールが回ってくると、自分もいい形でつなごうとしがちだったが、やはり自ら決めるのがFWの役割。今季はゴール前ではエゴイストでありたい」

 自身に課した目標は、昨年を上回る得点。チームとしては勿論、自動昇格圏内だ。

「中口監督になり、選手も入れ替わり、サッカーが変わった。今は、僕たちのサッカーがどのぐらい通用するのか楽しみです。今季は攻撃も守備もアグレッシブ。FWの僕がゴールまで守備に回ることもあれば、DFの選手がゴール前まで点をとりにいくこともある。推進力を持ったチームになっていると思います」

 リモートマッチ後も、しばらくは入場制限付きの試合が続く。スタジアムで観戦できるのは限られたサポーターとサッカーファンだけとなるが、現地に足を運べない分、他チームの試合をテレビで観戦するファンも増えるだろう。また、コロナ禍を経て、人々の行動も確実に変化している。J2、J3といったチームは、新たな地元ファンを獲得するチャンスともいえる。

「そうですね、今季は多くの人にヴァンラーレを知ってもらえるよう、いいサッカーをみせたい。J3ならではの魅力? ……何だろう、僕はJ2でプレーした経験もありますが、J2はシーズン後半になると、降格争いもかかってくるし、すごく試合がかたくなるんですよね。でも、J3には降格がない分、最後までかたくなることがない。実際、5-3などJ1、J2ではなかなかないスコアの試合が結構、ある。悪く言えば大味。でも、よく言えばエキサイティングな試合が多い点が魅力です」

 今季のチームスローガンは「無限大」。全員の力で前へ、前へ。八戸は推進力を体現するサッカーで、無限の可能性に挑む。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。