福田正博 フットボール原論

■1月にザルツブルクからドルトムントに移籍後も、驚異的な得点力で話題となっている19歳のハーランド。福田正博氏が、そのストライカーとしての能力を分析、今後の見どころについて語る。



加入半年でゴールを量産した、ドルトムントのハーランド

 今季急成長を遂げている、ドルトムントのアーリング・ハーランド(ノルウェー)。ブンデスリーガ再開初戦でゴール。5月27日のバイエルン戦でケガを負い、その後の3試合はスタメンから外れたものの、復帰後の31節でも得点を決め、1月のチーム加入以降のゴール数を11に伸ばした。

 19歳にして彼ほど安定感のある選手は、ほかにはなかなか見当たらない。驚異的な得点力の高さがクローズアップされているが、それはストライカーとしての基本を、試合のなかでしっかりと繰り返しているからだ。

 ドルトムントは3バックを敷き、左右MFにアクラフ・ハキミとラファエル・ゲレイロという攻撃的な選手を置いている。ハーランドは中央で起点となって、クサビの縦パスをしっかり受けてサイドに流す。そして、そこからゴール前に入ってくるボールに合わせるのが抜群にうまい。

 ここで勘違いしてほしくないのは、ハーランドがサイドからのボールを、194cmの長身を生かしたヘディングでゴールを量産しているわけではないことだ。

 体型から不器用なイメージを持たれがちだが、ハーランドは相手DFライン裏のスペースへの抜け出しもできるし、足元の技術も高い。ステップを細かく踏めるため、いつも両足が地面についている感じで体のバランスが崩れにくく、来たボールにすぐ足を合わせられる状態にある。シュートも足の振りがコンパクトで速く、しなやかなで強烈なシュートが打てている。

 そして、なによりすばらしいのは、ゴール前でのポジショニングだ。相手DFの前に出ると見せかけて背後を取ったり、その逆の動きをしたりといった駆け引きをしながら、抜群のタイミングでシュートを打てるポジションに入る。

 こうしたプレーを、1試合通じて何度も繰り返すことができる。だからこそ、シュートチャンスは増え、ゴール数も増えていくというわけだ。

 ヴィッセル神戸でプレーしたダビド・ビジャ(スペイン)は、こうした動きや駆け引きを「点を獲るためのストライカーの基本」と言っていた。日本人選手なら興梠慎三(浦和レッズ)や佐藤寿人(ジェフ千葉)がこの部分に長けていて、最近では若年層の指導から、動きや駆け引きの重要性を教えるようになってきた。

 しかし、それでもまだヨーロッパとの意識の差は大きい。コンスタントに得点を獲るためには不可欠なものだけに、もっと多くの日本人選手にゴール前のポジショニングへの意識を高めてもらいたいと思う。

 また、コンスタントに得点を決めるには、パスの出し手との呼吸を合わせることも重要だ。ゴール前での動きがすばらしくても、得点に結びつかないFWは、ここに難があるケースが少なくない。

 パスの出し手というのは、視線を上げた瞬間に受け手が動き出したり、走っているとパスを合わせやすい。だが、受け手が止まっている状態から動こうとしても、これになかなか合わせられないものなのだ。だから、パスの出し手が頭を上げて視線を確保したタイミングで、受け手が動き出したり、手でボールの欲しい場所をアクションすることが大切になる。

 これを実践するには、普段の練習から味方を観察してクセを把握し、「こう動いたら、ここにパスをほしい」といった、コミュニケーションを重ねることに優る道はない。特別な近道はないだけに、ハーランドも練習から連係力を高める努力をしているはずだ。

 もうひとつ、ハーランドの見逃せない特長は、クサビのパスを受ける技術の高さだ。

 足元に入ったボールをワンタッチで味方に落とす。ドルトムントではサイドにいる味方に正確に送れるので、相手DFの意識がサイドへと移り、その間にゴール前へと入って動き出しで主導権を握れている。

 このポストプレーの技術の高さは、FWが評価されるために不可欠な要素だ。これは体が大きいからうまくできるというわけではない。日本人選手と体格的にほとんど変わらない175cmのビジャも、クサビのパスを受けるのがうまかった。

 それはヨーロッパでは子どもの頃から、縦方向へ攻める意識が高いことに起因しているのだろう。

 日本の場合、子どものサッカーでも、Jリーグでも、ボールを失わないようにすることを気にしてか、横パスが多い傾向がある。しかし、ヨーロッパでは小さな頃から縦パスを強く意識していて、FWはクサビの縦パスを受けて攻撃の起点になれなければ、試合で使ってもらえない。必然的にポストプレーの技術を高める環境がある。

 こうした特長でゴールを量産するハーランドは、FWにしては珍しい堅実性も備えた選手だ。ゴールを量産できるストライカーは、王様になりやすいもの。ズラタン・イブラヒモビッチしかり、クリスティアーノ・ロナウドしかり、リオネル・メッシしかり。ひとたび攻撃になれば、「俺のところによこせ」と言わんばかりにプレーして結果も出すが、守備にはエネルギーを使わない。

 その点、ハーランドはチームのために守備でも一生懸命にボールを追いかけるため、監督とすれば計算の立ちやすいFWだ。

 まだ19歳のハーランドも、王様になる可能性はあるものの、彼のこれまで歩んできたキャリアを見ていると杞憂に終わりそうに感じている。各国のビッグクラブからのオファーも届いていたなかで、ザルツブルクからドルトムントに移籍した決断から、自分自身を冷静に客観的に分析できているのが伝わってくるからだ。

 10代でビッグクラブから声がかかれば、ほとんどの選手がそちらを選択する傾向が高い。しかし、ハーランドは出場機会を確保できる環境を優先してドルトムントを選択した。「試合に出られないと成長が止まってしまう」からだ。

 堅実な選択ができるのは、父親も元プロサッカー選手で、子どもの頃から厳しい世界で生き抜く難しさを垣間見てきたからかもしれない。彼自身が現在のサッカー界のなかで、どういう立ち位置にあるかをしっかり分析できているからでもあるだろう。そして、こうしたメンタルは、プレーにもよく表われていると思う。

 ただ、ひとつ課題があるとすれば、それはあまり派手さがないことかもしれない。ハーランドはセオリーどおりにプレーしてゴールを量産する。それはすごいのだが、人々が魅了される華やかさとは、危なっかしさと同居している部分もあるからだ。

 ドルトムントならネイマールも評価している20歳のジェイドン・サンチョ(イングランド代表)がそうした華やかな選手だろう。自分で仕掛けて局面を打開するが、好不調の波もあり、そこが魅力でもある。
 
 ハーランドは、華々しさでは現時点ではほかの選手に一歩譲ることになるかもしれないが、彼が次代のスーパースター候補のひとりであるのは間違いない。

 ブンデスリーガは6月27日でシーズン終了を迎えるが、今後もハーランドから目が離せない日がつづきそうだ。