野球の新たな視点を提案する“プロウト(プロの素人)”お股ニキが選ぶスラッター4傑

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第2回 スラッター】

 野球界には“魔球”と呼ばれるボールがある。日本では伊藤智仁の高速スライダーしかり、上原浩治のスプリットしかり。メジャーに目を向ければ、マリアーノ・リベラのカットボール、ティム・ウェイクフィールドのナックルボールが有名だ。ピッチャーがマウンド上で魔球を操り、打者を手玉に取る光景を目にし、胸のすく思いをする人も多いだろう。

 現役の中にも、他を圧倒する“魔球”の持ち主はいる。では、誰の何を見たらいいのか……。そんなアナタの声に応えるのが、野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏だ。新連載「お股ニキが選ぶ3+1・MLB編」の中で、各球種における「球界トップ3」を独断と偏見でピックアップ。トップ3は外れたが要チェックの「プラス1」を加えた4投手を解説とともにご紹介していく。

 第2回は、打者の手元で急激な変化を見せる「スラット型スライダー」だ。スラットとは、縦のカットボールとも縦の高速スライダーとも言えるボールのこと。軌道や速度は4シームに近いが、高速で真逆に鋭く曲がり落ちるため、打者は対応しきれず。空振りや凡打に倒れてしまい、なおかつ見逃してもストライクとなりやすい。近年のメジャーでカギを握る球とも言える「スラット型スライダー」。お股ニキ氏が選んだ4投手とは。
(データソースはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

【1位】ジャスティン・バーランダー(アストロズ)右投
回転効率28.9% 平均球速86.9マイル(約139.9キロ) Spin Axis 11:14 2611回転 
空振り率24.0% 投球割合28.25% 被打率.119 ピッチバリュー/100:3.4

 2011年以来8年ぶり2度目となるサイ・ヤング賞に輝いたアストロズのエース、バーランダー。21勝、300奪三振、防御率2.58を記録した投球を支えていたのが、スラット型のスライダーだ。スライダーではメジャー最多の127奪三振、被打率.119と圧倒的な数字を残した。

 シュートしながら浮き上がる4シームと対になるスピードと軌道を持ち、ジャイロ回転でカクッと沈む88マイル(約141.6キロ)ほどのこの球を、バーランダーはさらに磨きをかけていた印象だ。高いリリースポイントから投げ下ろすこのスライダーは、変化量を見ると重力による自然落下より約16センチも小さい。だが、上から投げ下ろし、かつジャイロ回転がかかっているため、曲がり始めてから鋭く大きく変化し、落ちるように見える。これこそが「スラット」そのものであり、分かっていても打てないクラスの魔球だ。

 バーランダーのピッチングはシュートライズする4シームと対になるスラット、パワーカーブ、そこに時折チェンジアップを織り交ぜるという王道そのものでもある。

2年連続CY賞・デグロムが誇る圧倒的なピッチングの源泉

【2位】ジェイコブ・デグロム(メッツ)右投
回転効率31.3% 平均球速92.5マイル(約148.9キロ) Spin Axis 11:26 2454回転 
空振り率18.7% 投球割合32.0% 被打率.186 ピッチバリュー/100:2.1

 2年連続サイ・ヤング賞に輝いた“人外”の異名を執るデグロム。そのスライダーは反則とも言える程の魔球である。時速93マイル(約150キロ)に近いカットボールのようなスピードでわずかに曲がり落ちるため、ストレートだと思って手を出した打者のバットを紙一重でかすめて空振りを奪う。リリースポイントや軌道、投げ方が4シームに近いのもポイントだ。

 投手から見てボールの右斜め下を切るように投げるこのスライダーは、ホームベースの左下を狙えばややスライドしながら曲がり落ち、ベースの右端を狙えばジャイロシンカーに近い変化をして、ゾーンの中に入っていかない。右打者の外角はもちろん、左打者のインローにはバックフットで落とし、アウトコースにはバックドアで多くの見逃しをリスクなく奪う、デグロムの圧倒的な投球の源泉となっている。

【3位】フランキー・モンタス(アスレチックス)
回転効率28.2% 平均球速87.1マイル(約140.2キロ) Spin Axis 10:37 2509回転
空振り率14.8% 投球割合25.0% 被打率.167 ピッチバリュー/100:2.8

昨シーズンは6月に薬物規定違反は発覚し、80試合の出場停止処分が科されるまで9勝2敗、防御率2.70と好投していたモンタス。時速100マイル(約160.9キロ)の速球に加え、スプリットを覚えたことで一気に投球の幅が広がったが、元から良かったのが、このスラット型スライダーだ。

 ジャイロボールとも、縦スラとも、カットボールとも言えるボールで、平均球速87マイル(約140キロ)と高速のまま手元でカクッと落下。打者のバットは空を斬り、バットに当たったとしてもゴロになる。モンタスやバーランダーのスライダーこそ、私が個人的に最も好むタイプのスラッターだ。

 100マイルの速球にスラットと新しく覚えたスプリットを加えた「スラット・スプリット型投球」を手に入れたのだから、圧倒的な活躍も頷けるというものだ。怪我なく1年投げきれば、将来的にはサイ・ヤング賞も狙える実力の持ち主だ。

忘れてはならないダルビッシュのスラッター、昨年中盤以降に大きく進化

【プラス1】ダルビッシュ有(カブス)右投
回転効率33.5% 平均球速85.4マイル(約137.4キロ) Spin Axis 8:09 2661回転 
空振り率16.3% 使用割合19.21% 被打率.174 ピッチバリュー/100:2.65

 スラッターで忘れてはならないのが、我らがダルビッシュである。MLBでも最もえげつない速球の1つに数えられるダルビッシュのカッターだが、実際にはハードカッターや縦に落ちるものなど複数の種類を使い分ける。その中で縦に変化するものが、このスラッターだ。さらに、昨年中盤以降は落差を大きくして、復活させたハードカッターとの対比をより鮮明にさせた。

 落差が増したスラッターにはややトップスピンがかかっており、高速カーブのようでも、縦スライダーのようでもある。以前はカクッと落ちるように変化したが、新しいものはトップスピンがかかる影響で軌道に丸みを帯びている。カーブの要素が増えたため空振りはわずかに減ったが(変化は大きければ空振りが増えるものではないことに注意。特にカーブは空振りを奪いにくい)、前に飛ばされてもゴロが多い。空振りでストライクがとれて、バットに当たってもゴロになりやすい、カウント球として最高クラスの品質を誇った。

 様々な球種を多彩に投げ分けられる変化球の天才・ダルビッシュ。特にカッターの投げ分けは、神の領域に到達していると言える。

※回転効率:総回転数のうちボールの変化に影響を与える回転数の割合。

※Spin Axis:回転軸の傾き 時計盤の中心にボールがあると考えて“時間”で表記。例えば「6:00」の場合、ボールは投手からホーム方向へ12時から6時へ下向きの回転(トップスピン)をすることを示す。「12:00」の場合は6時から12時へ上向きの回転(バックスピン)、「3:00」の場合は9時から3時へフリスビーのような右向きの回転(サイドスピン)、「9:00」の場合は3時から9時へ左向きの回転(サイドスピン)となる。

※ピッチバリュー/100:その球種が生み出した得点貢献(期待失点の減少)を、100球投じた場合の平均に直したもの。例えば、ある投手の4シームが2.00ならば、「4シームを100球投げることで平均よりも2点の失点を減らした」ことになる。(お股ニキ / Omataniki)