6月19日、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた日本のプロ野球がシーズン開幕を迎えました。一方、メジャーリーグは労使双方が報酬を巡って対立中。先日、メジャーリーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーがトニー・クラーク選手会専…

 6月19日、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた日本のプロ野球がシーズン開幕を迎えました。一方、メジャーリーグは労使双方が報酬を巡って対立中。先日、メジャーリーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーがトニー・クラーク選手会専務理事とトップ会談を行ないました。



現在日米通算2549奪三振をマークしているダルビッシュ有

 その内容によると、開幕希望日は7月19日。レギュラーシーズンは60試合とし、選手の報酬は試合数に応じた日割りで全額支払うことを提案しました。それに対し、選手会は70試合に試合数を増すことを希望。複数の球団のトレーニング施設で新型コロナウイルス感染者が発生し、まだ予断を許さない状況ではありますが、アメリカも少しずつシーズン開幕に向けて前進しようとしています。

 従来の162試合でなく60〜70試合程度の短縮シーズンとなった場合、日本人選手の成績や記録にどんな影響を与えるのでしょうか。各選手の現状を見ていきたいと思います。

 まずはニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手。2014年のメジャーデビュー以来、田中投手は6年連続でふたケタ勝利をマークしています。これは、2010年〜2014年に黒田博樹投手の残した5年連続を上回る日本人最長記録です。

「日本人初ということで、すごくうれしく思います。大きなケガもなく、しっかり投げて来られたのが、達成できたひとつの要因かなと思います」

 達成時、田中投手はこう喜びを噛みしめていました。

 シーズンふたケタ勝利の回数で最も多いのは、日本人メジャーリーガーの「パイオニア」である野茂英雄投手の7回。田中投手はこの記録にも、あとひとつと迫っています。

 しかし、レギュラーシーズンが60〜70試合程度となると、たとえ無敗で勝ち星を積み重ねても、せいぜい7、8勝止まりでしょう。7年連続ふたケタ勝利の記録は途絶えることになり、野茂投手に並ぶ7度目のふたケタ勝利も来年に持ち越しとなりそうです。

 それでも田中投手は、野茂投手の123勝、黒田投手の79勝に次ぐ日本人歴代3位のメジャー通算75勝をマークしています。60〜70試合程度でも開催されれば、黒田投手を抜いて歴代2位に浮上する可能性は大いにあるでしょう。

 次はシカゴ・カブスのダルビッシュ有投手。昨年は日本人として野茂投手に並ぶ4度目の年間200奪三振を達成しました。しかし今年が短縮シーズンで開幕すれば、5度目の年間200奪三振は来年以降に持ち越しとなるでしょう。

 ダルビッシュ投手は現在、日米通算2549奪三振をマーク。日本人投手の通算奪三振(日米通算を含む)ランキングを見ると、歴代10位の石井一久投手の2550奪三振にあと1個で並びます。今シーズンが無事に開幕すれば、石井投手を抜くのは間違いないでしょう。

 ちなみに歴代9位は、西鉄ライオンズで活躍した「鉄腕」稲尾和久投手の2574奪三振。あと25個で並ぶので、こちらも射程距離圏内です。

 今オフにミネソタ・ツインズに移籍した前田健太投手は、広島東洋カープ時代の97勝と、2016年にロサンゼルス・ドジャース移籍後の47勝を合わせて日米通算144勝をマーク。節目となる日米通算150勝まで、あと6勝です。

 レギュラーシーズンが60〜70試合程度だと、今季6勝を記録するのはかなり厳しいと思います。しかし、前田投手にとって日米通算150勝はあくまで通過点。以前から「日米通算200勝を成し遂げたい」と明言しています。

 日米通算200勝を達成しているのは、黒田投手(203勝)と野茂投手(201勝)のふたりだけ。選手として脂の乗っている時期に短縮シーズンで登板機会が減るのは残念ですが、超一流投手にとって最終ゴールのひとつである200勝をぜひとも達成してほしいです。

 シアトル・マリナーズの平野佳寿投手は2018年、メジャーデビューしたアリゾナ・ダイヤモンドバックスで日本人最多記録を塗り替えるシーズン75試合登板を達成。2019年は8月中旬に右ひじの炎症で負傷者リスト入りしながらも、2年連続で60試合以上の登板をマークしました。

 新天地シアトルに移籍した今季は中継ぎ、もしくはクローザーとして期待されています。本来ならマリナーズの大先輩である「大魔神」佐々木主浩、大塚晶文、岡島秀樹に次ぐ日本人4人目の「デビューから3年連続60試合登板」を視野に入れていましたが、短縮シーズンでは達成不可能でしょう。

 一方、打者ではロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手。2018年のメジャーデビューから2年連続で「15本塁打&10盗塁以上」をマークし、シカゴ・ホワイトソックスの井口資仁選手(2005年、2006年)以来、日本人ふたり目の快挙を成し遂げました。

 今季は前人未到の3年連続を期待されていたのですが、60〜70試合ほどで達成するには「40本塁打&30盗塁」くらいのペースで量産しないと「15本塁打&10盗塁以上」には届きません。今季は2年ぶりに二刀流として復帰する予定なので、さすがに今季は厳しい数値だと思います。

 しかし大谷選手には、2年連続サイクルヒット達成の可能性があります。1908年以降、メジャーリーグでサイクルヒットを複数回達成した選手は計27人います。そのうち、2年連続で記録達成したのは、殿堂入りしているジョージ・シスラー(1920年、1921年)ら4人しかいません。

 大谷選手は昨年6月13日、出場31試合目で日本人初のサイクルヒットを達成しました。ジョー・マドン監督が「マイク・トラウトと同じ存在」と高く評価する大谷選手なら、今季が60〜70試合程度になっても史上5人目の偉業を達成してくれそうな夢があります。

 いずれにせよ、今年が短縮シーズンになれば、日本人選手の成績や記録に多大な影響を及ぼすことになるでしょう。そう考えると、イチロー氏の現役時代に短縮シーズンとなるような出来事が起きなくて、本当によかったと思います。

 メジャー通算3089安打をはじめ、ピート・ローズのメジャー通算4256安打を超える日米通算4367安打、さらにはメジャー記録の10年連続200安打など、イチロー氏はメジャー19年間で多くの金字塔を打ち立てました。そう考えると、ストライキやコロナ禍もなく、通常どおりシーズンが行なわれる幸せを、あらためて実感します。