「やっぱり来たな」と思った。ケガで「大丈夫か……」と不安に思った時期もあったが、あのアンダーハンドが使えないわけがない。…

「やっぱり来たな」と思った。ケガで「大丈夫か……」と不安に思った時期もあったが、あのアンダーハンドが使えないわけがない。

 西武3年目の與座海人(よざ・かいと)は、6月7日の中日との練習試合で4回を投げ4安打1失点と好投したのに続き、14日のロッテ戦でも6回途中まで2安打2失点。しかも5回までノーヒットに抑える完璧なピッチングをやってのけ、開幕ローテーションに名を連ねた。



初の開幕ローテーション入りを果たした西武3年目の與座海人

 身長173センチの小柄なアンダーハンド。しかも球速は130キロ前後なのに、スライダー、カーブ、シンカーを交えたピッチングに打者はうまくタイミングを取ることができず、詰まり、泳がされ打ち取られていく。

 フルスイングさせないから、打球に力はなく、芯でとらえたとしても外野の定位置あたりで打球が失速する。

 ロッテとの試合では、荻野貴司、ブランドン・レアード、レオネス・マーティンをクリーンアップに据えたベストメンバーに対し、堂々のピッチングを披露。打線が一巡しても自分のタイミングで與座のボールをとらえた打者はいなかった。

 投手の仕事とは、突き詰めれば打者のタイミングを外すことだ。もちろん点を取られないことは大前提だが、打者に気持ちよくバットを振らせない。そういう意味で、與座のピッチングはまさに”投手の仕事”をまっとうしていた。

「このピッチャーはプロの世界でもやっていける」

 そう思ったのは、大学時代の與座のピッチングを見た時だ。

 2017年6月、全日本大学野球選手権大会。岐阜経済大のエースとして石巻専修大戦に先発した與座は、9イニングをわずか111球、1安打10奪三振(2四球)で完封勝利を飾った。しかも7回二死までノーヒット、唯一打たれたヒットもボテボテの内野安打だった。東京ドームで見たその日のピッチングの見事さは、いまだ鮮烈な記憶として残っている。

 とにかく体がよく動いていた。まさに”躍動感”という言葉がピッタリとはまるピッチングで、マウンドに立つ與座はものすごく大きく見えた。

 クイックモーションのような素早さから思い切り腕を振って投げ込んでくるから、実際の球速よりもはるかに速く見えた。スコアボードの球速表示は120キロ台後半でも、おそらく打者の体感速度は140キロを超えていたのではないだろうか。

 変化球も強くて速い腕の振りから放たれるため、スライダーもホップしながら横滑りしているように見える。初めて対戦する打者にとってはすべてが”魔球”だったに違いない。

 事実、石巻専修大にはプロ注目の小野侑宏(ゆきひろ)というミートセンス抜群の好打者がいた。この天才バットマンが最後までタイミングを合わせられず凡打を繰り返す姿を見て、野球界にまたすばらしいアンダーハンド投手が出てきたものだと胸が躍ったものだ。

 與座がすごいのはボールだけではない。誰にもわからないようにテイクバックの大きさを微妙に変え、踏み込んでいく際のスピードにも強弱をつける。右打者にはプレートの一塁側を踏んで、左打者に対しては三塁側から投げる。そうすることで懐を突くボールに角度をつけ、外のボールは打者の目から遠い空間にラインをつくる。ひっそりと仕掛ける”隠しワザ”。それがなければ9イニングずっとタイミングを外し続けられるわけがない。

 沖縄生まれの選手特有のバネを生かしたフィールディングにバント処理。この隙のなさこそ、與座の真骨頂である。

 プロ1年目の10月に右ヒジのトミー・ジョン手術を受け、育成選手契約という試練を味わった。昨年秋に支配下登録選手に復帰し、今が一番、野球が楽しい”伸び盛り”の時期だろう。

 與座のような投手を得意とする打者は、おそらく皆無に等しい。ほとんどの打者が「嫌だなぁ」「打ちにくいなぁ」と、ネガティブな印象を持っているはずだ。それだけでも十分なアドバンテージである。

 とはいえ、プロの投手としての経験が浅く、技術的にもまだまだ幼い部分を残している。それでも、厚かましいほどの勝負度胸で並み居るプロの強打者たちをきりきり舞いさせてくれるに違いない。

 高橋直樹、永射保、松沼博久、牧田和久……西武に代々伝わる”アンダーハンドの系譜”。そこにしっかりと名を刻んでいけるのか、いよいよ本当の意味でのプロ生活が始まる。