最悪の時期は過ぎたようにも見える、だが、いまだにアメリカにおける新型コロナウイルスの猛威は衰えていない。それでも、3月からストップしていたスポーツが少しずつ再開されようとしている。 2020年のNTTインディカー・シリーズは、当初の予…

 最悪の時期は過ぎたようにも見える、だが、いまだにアメリカにおける新型コロナウイルスの猛威は衰えていない。それでも、3月からストップしていたスポーツが少しずつ再開されようとしている。

 2020年のNTTインディカー・シリーズは、当初の予定から約3カ月遅れとなる6月6日、シーズン最初のレースをテキサス・モーター・スピードウェイで開催した。経済活動再開に極めて積極的なテキサス州とあって、レースには州知事も姿を見せた。



インディカー・シリーズ第1戦、決勝進出を逃した佐藤琢磨

 アメリカで人気の高いNASCARのストックカー・レースは、5月中旬にいち早くレースを再開させている。インディカーはNASCARに遅れること半月、公式戦を開催するアメリカで2番目に早いシリーズとなった。

 ちなみに、野球のメジャーリーグはシーズン開始に至っておらず、ゴルフのPGAはシーズン再開(6月11日)をインディカーの1週間後に設定した。バスケットボールとアイスホッケーは3月でシーズンを打ち切っており、フットボールは秋からがシーズンだ。

 アメリカではスポーツのライブ中継がテレビでまったくない状況が続いていた。

 そんな中で、テキサスでのインディカー開幕戦は、東部時間の午後8時、中部時間の午後7時からというゴールデンタイムに開催。三大ネットワークのひとつであるNBCでライブ放映され、高視聴率を獲得している。

 ウイルスの感染拡大を引き起こさぬよう、インディカーは地元自治体の協力も得て、イベント開催に万全を期した。

 まずはレース・ディスタンスを200周(300マイル)とし、48周短縮。プラクティス、予選、決勝までを土曜日1日で行なうコンパクトなスケジュールにすることで、参加者同士の接触時間を短くした。

 レースの1週間前、テキサス州は経済活動再開のステップをもう一段階進め、会場の規模に応じた数のファンを入れてスポーツイベントを開催していいと発表した。だが、主催者のインディカーとサーキットは協議の結果、無観客でレースを行なうことにした。

 各チームのクルー、レース運営に関わるスタッフはいずれも参加人数を通常よりも減らし、サーキットに入る全員がマスクの常時着用を義務付けられ、ソーシャルディスタンスの保持を徹底するよう指示が出された。

 エントリーは24台あったが、レースを走ったのは23台だった。予選で壁にマシンをヒットさせた佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)が、マシンの修理が間に合わずに決勝出場を果たせなかったのだ。

 メキシコ湾とメキシコ国境に面するテキサス州はすでに夏。ナイトレースだというのに摂氏30度という暑さの中で戦いが繰り広げられた。

 今年のインディカー・レースは、コクピットを覆うエアロスクリーンを装着したマシンで争われる。

 昨シーズンまで使用していたマシンのコクピット部に堅牢なフレームをマウントしてウィンドウに装着。ドライバーの安全性は飛躍的に向上した。しかし、30kg近い重量増で、マシンのキャラクター、ハンドリングが変化した。

 さらに開幕戦の延期決定後、アメリカはほぼ全州で外出禁止令が出された。サーキットを使ったテストや風洞実験はできなくなり、出場チームはそれまで行なってきた数少ないテストでのデータを解析し、シミュレーターを利用してテキサス用のマシン・セッティングを施すこととなった。

 その結果、チップ・ガナッシ・レーシングがエンジニアリング部門の能力の高さを発揮。5回のシリーズタイトル獲得歴と現役最多勝利数を誇るスコット・ディクソンが、その経験もフルに活かして圧倒的パフォーマンスを披露し、優勝を飾った。

 200周のうちの157周をリードしての圧勝は、彼にとっての通算47勝目、テキサスでの4勝目となった。また、ディクソンの連続優勝記録は16シーズンへと伸ばされ、AJ・フォイトに並ぶ18シーズンでの勝利という記録も打ち立てた。

 ポール・ポジションを獲得したのは昨年度シリーズ・チャンピオンのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)。昨年のテキサスのウィナーだが、今年はマシンのセッティングがタイヤに負担をかけるものとなっていたため、ディクソンを相手にトップをキープすることができなかった。

 重量の増えたマシンでの初レースであることなどを考慮し、今回のレースではタイヤ1セットで走れる最大周回数が35周に制限される特別ルールとなっていた。それでもペンスキー勢はタイヤの消耗が早く、ニューガーデンは3位でのゴールが精一杯だった。

 ディクソンはレース後、次のように語った。

「世界がかつてない特別な状況下にあるなか、すばらしい結束力を発揮してくれたチップ・ガナッシ・レーシングに感謝したい。今夜の僕らのマシンは速く、攻めの走りを続けることができた。

 スタンドにファンがいないのは本当に残念だ。みんなと一緒に勝利を祝いたかった」

 勝因については「3週間前からホンダのシミュレーターで行なった開発のおかげで勝てた。コーナーの入口と出口でのマシンを安定させたかった。特に、ターン1とターン2で、マシンの動きを昨年よりおとなしくさせることを目指した。より大きな弧を描いて走れるよう、シミュレーターでトライを重ねた」と明かした。

 琢磨は、昨年のテキサスでのポールシッター。今年最初のレースがテキサスとなるのは、ある意味で大きなチャンスでもあった。

 しかし、プラクティスで6番手につけていた彼は、予選アタックのウォーミングアップ・ラップ2周目にターン1でクラッシュ。コーナー入口で走行ラインがややアウトになった直後、マシンは浮き上がったかのようにコントロールを失い、アウト側のウォールに激突した。

 今回は予選とレースのインターバルが短く、チームの懸命の作業をもってしても、マシンの修復は決勝スタートに間に合わず、琢磨の2020年開幕戦出場はならなかった。

「レースを戦うことができず、すべてのファンのみなさんに申し訳なく思っています。予選でのクラッシュ後、メカニックたちはマシンの修復に必要なあらゆる作業に取り組んでくれました。

 いつもであれば、メカニックたちはレースまでに素早くマシンを修復してくれたでしょうが、今回はスケジュールを短縮した1デイイベントだったために、レースまでの時間が不十分で間に合いませんでした。最後の最後まで懸命の作業を続けてくれたメカニックたちに心からお礼を申し上げます。

 レースまで8カ月待ち続けて、そこからさらに3週間待たされることになったので、とてもガッカリしています。今日はかなり落ち込んでいますが、これから3週間は集中力を維持し、より力強くなって第2戦に臨むつもりです」(琢磨)

 シーズンの開幕が3カ月ほどズレ込んだインディカーは、7レースがキャンセルされたが、6レースの日程を動かし、3レースをダブルヘッダーに変えることで、全14戦で争われることになった。

 104回目の開催となるインディアナポリス500マイル・レースは8月23日に決勝レースを行なう。第2戦はインディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースで、7月4日に決勝が行なわれるGMRグランプリ。こちらも無観客での開催になる。