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「オープン球話」特別編 
八重樫幸雄が読者の質問に答える!後編

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【八重樫幸雄の「オールタイムベストナイン」を発表!】

――では、前回に続いて読者からの質問に答えていただきます。前回は「歴代ヤクルトベストナイン」を伺いましたが、今回は東京都の「かずちゃん」からの、「歴代ベストナインを教えてください」にお答えいただけますか?

八重樫 これも難しかったけど、まずは先に発表しますね。

1(中)福本豊(阪急)
2(右)蓑田浩二(阪急)
3(一)王貞治(巨人)
4(三)長嶋茂雄(巨人)
5(捕)古田敦也(ヤクルト)
6(左)若松勉(ヤクルト)
7(二)辻発彦(西武)
8(遊)宮本慎也(ヤクルト)
9(投)江夏豊(阪神)

 前回の「歴代ヤクルトベストナイン」と一緒で、今回も「自分の目で見たことがある選手」を基準に選びました。

―― 一番、二番の福本&蓑田は阪急黄金時代、三番、四番の”ON”は巨人V9時代ですね。そして古巣のヤクルトからは3名で、ピッチャーは阪神時代の江夏さんというラインアップです。選考はスムーズでしたか? 難しかったですか?

八重樫 ONはやっぱり外せないですからね。この2人はなんの問題もなかったです。迷ったのは、ライト・蓑田、セカンド・辻、ショート・宮本。このあたりかな?


読者の質問に答えた八重樫氏

 photo by Hasegawa Shoichi

――具体的に、誰との兼ね合いで迷ったのですか?

八重樫 ライトに関しては高橋由伸(巨人)が捨てがたいんですよ。守備も打撃も、チームに対する影響力も含めたトータルで考えると、ひょっとしたら由伸のほうが上かもしれない。でも、1970年代の阪急の外野陣は本当に鉄壁だった。ヤクルトが初優勝した1978(昭和53)年日本シリーズの相手が阪急だったけど、福本&蓑田の外野陣は本当に脅威でしたから。そのイメージが強く残っているので蓑田を選びました。

――では、セカンドとショートについては?

八重樫 セカンドは辻と山田哲人(ヤクルト)とで迷いました。バッティングを含めたら山田を選ぶべきかもしれない。でも、西武黄金時代の辻の守備も鉄壁でしたからね。これも、1992(平成4)年の日本シリーズで、辻の守備でヤクルトが負けた印象が強く残っているせいかもしれないけど(苦笑)。ショートに関しては、守備だけでいえば慎也ではなくて、阪急の大橋(穣)さん。トータルで考えて慎也にしたけど、それでも迷うぐらい大橋さんの守備は天下一品でしたね。

【現役最強キャッチャーは……】

――神奈川県の「勇者マサヒコ」さんからは、「現役時代、対戦していちばんすごいと思った投手は誰ですか?」という質問です。「歴代ベストナイン」の結果を見ると、阪神時代の江夏さんが最強投手でしたか?

八重樫 阪神時代の江夏さんは手も足も出ないほどすごいピッチャーでしたよ。スピードというよりはキレですね。回転数がほかの投手とはまったく違いました。それにコントロールが抜群。あれだけ狙ったとおりに投げられるピッチャーは、江夏さん以外にはいないんじゃないかな? のちに南海から広島に移籍して再び対戦したけど、広島時代は経験で抑える技巧派になっていましたね。でも、阪神時代の江夏さんはもう本当にすごかったです。

――続いて、東京都の「ヒロシ」さんからの質問です。「現役選手の中で、リードも含めて総合的にスゴイと思う選手は誰ですか?」とのことですが……。

八重樫 現役では、広島の會澤翼はいいキャッチャーだなと思いますね。



昨年のプレミア12を戦った(左から)會澤翼、小林誠司、村田善則コーチ、甲斐拓也 photo by Kyodo News

――ぜひ、その理由を教えてください!

八重樫 去年のプレミア12だったかな。侍ジャパンでのリードを見ていて、「いいリードをしているな」と思ったんだよね。シーズン中はオーソドックスな配球が印象的だったのに対して、データがあるのかどうかはわからないけど、セオリーどおりではなく相手打者の様子を見ながら、丁寧なリードをしている印象があったんだよ。

――具体的に印象に残っているシーンはありますか?

八重樫 決勝の韓国戦です。先発の山口俊(当時巨人)がピリッとしなかった試合。韓国打線は山口対策がバッチリで完全に狙い打ちされていた。で、稲葉(篤紀)監督がアッサリ見切って継投策をとったんですが、會澤は二番手以降の投手との呼吸がバッチリだったよね。

――山田哲人選手の逆転スリーランもあって、侍ジャパンが優勝した試合ですね。この試合は先発・山口のあと、高橋礼(ソフトバンク)、田口麗斗(巨人)、中川皓太(巨人)、甲斐野央(ソフトバンク)、山本由伸(オリックス)、山﨑康晃(DeNA)と7投手の継投でしたが、すべて會澤がリードしていますね。

八重樫 それぞれの投手の持ち味を上手に引き出していましたね。特に8回表の山本とのコンビは最高でした。長打を打たれないように、相手打者の苦手なコースを執拗に攻めていた。接戦のゲームだと、どうしても無難なリードになりがちなんだけど、山本のストレートを信じた大胆なリードが効果的でしたね。初回に打たれた経験、失敗が試合中にきちんと整理されていたんだと思います。

――侍ジャパンではソフトバンクの甲斐拓也も注目を浴びていますが、甲斐選手はいかがですか?

八重樫 甲斐が注目されているのは、やっぱり「甲斐キャノン」ですよね。あの肩は、確かにすごい。でも、投手とのコミュニケーション能力やリードを含めてトータルに考えると、會澤がよかったと思いますね。逆に言えば、甲斐はまだまだ伸びしろがあるということです。

【球種別の歴代最強投手は誰だ?】

――続いて、東京都の「かずちゃん」さんからです。この方は、「歴代ベストナイン」を質問された方です。本来なら違う方の質問を採用すべきでしょうが、個人的にもぜひ伺いたく、お聞きします。「対戦した投手、受けてきた投手の中で、球種別ですごかった投手を教えてください」ということなんですが、ぜひお答えください!

八重樫 なるほど、確かに面白い質問だね。まずはストレート。スピードでは村田兆治さん(ロッテ)。キレとコントロールでいえば、さっきも言ったように阪神時代の江夏豊さんですね。次に、スライダーは2人います。小さいスライダーで言えば阪神の若生智男さん。僕が若い頃に対戦したんだけど、インサイドからカット気味に曲がってくるんですよ。当時はカットボールなんてなかったから衝撃的でしたね。

――では、大きいスライダーは?

八重樫 スライダーといえば伊藤智仁(ヤクルト)だったと言われているし、僕もそう思うけど、個人的に印象に残っているのは平松政次(大洋)さんのスライダーはとても大きくて本当に打ちにくかったです。

――平松さんと言えばカミソリシュートが有名ですが、スライダーもすごかった?

八重樫 うん、本当にすごかった。決め球のシュートを生かすには逆方向に曲がるスライダーが効果的だけど、平松さんの場合はスライダーもすごかったよ。で、カーブも2人いるんです。大きく曲がるカーブは今中慎二(中日)。彼の場合はストレートが速いから、あのカーブには手こずったよね。一度、キュッと止まって、そこからスピードを落とさずにシュッと曲がってくるんですよ。

――ではもうひとり、カーブの使い手は?

八重樫 もうひとりは北別府学(広島)ですね。彼の場合も途中で止まるようなカーブだけど、今中みたいなスピードはない。でも、コントロールが絶妙で、本当に手を焼きました。あっ、「2人」って言ったけど、もうひとりいました。阪神の江本(孟紀)さんもいいカーブを投げていましたよ。江本さんって長身で手が長いでしょ。それで猫背気味に、しかも極端にクロスステップして投げてくるから、右打者としてはとても厄介でした。

――続いてはシュート。これはやはり平松さんでしょうか?

八重樫 そうですね。平松さんと、あとは安仁屋宗八(広島)さんかな? そうそう、巨人時代の西本聖もシュートはすごかったですね。でも、西本の場合は途中からシンカーを覚えたんです。それ以降は、かつてのようなシュートの切れ味はなくなったような気がしますね。このシンカーは左バッターには有効だったけど、新しい球種をマスターしたことで、もともとのシュートの威力は落ちたような気がします。

――では、フォークはいかがですか?

八重樫 フォークはストレートに続いて村田兆治さん、そして佐々木主浩(横浜)ですね。2人とも、ものすごい落差のフォークを投げていました。

――じゃあ、最後にナックルやパームなどの特殊球で印象に残っている投手は?

八重樫 ナックルボーラーは印象に残っていないんだけど、ナックルカーブは阪神のキーオがいい球を投げていましたね。ナックルボールほど大きく揺れるわけじゃないんだけど、それでも小さく揺れながらカーブのように曲がってくる。これも、それまでは見たことのない変化だったので面食らいました。外国人投手といえば、元巨人のライトがいいチェンジアップを投げていましたよ。当時としては珍しいボールだったので、ヤクルト打線はみんな打ちあぐねていました。僕も初めて見る変化に驚きましたね。

(つづく)