イタリアサッカーがついに再始動した。リーグ戦再開に先駆けて、延期されていたコッパイタリア準決勝のセカンドレグが行なわれた。 復活の第一章に選ばれたのが、ユベントス対ミランだった。ここ数年イタリアサッカー界に君臨する不動の王者ユベントス…

 イタリアサッカーがついに再始動した。リーグ戦再開に先駆けて、延期されていたコッパイタリア準決勝のセカンドレグが行なわれた。

 復活の第一章に選ばれたのが、ユベントス対ミランだった。ここ数年イタリアサッカー界に君臨する不動の王者ユベントスと、かつての栄光を追い求めるミラン。イタリアを代表する2つの強豪の激突で幕開けする予定だった。



再開初戦となったミラン戦では不発に終わったクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス) photo by AP/AFLO

 しかし――待ちに待った試合の割には、正直、あまりにも魅力のない内容だった。3カ月の沈黙を破る試合にはもう少し別のものを期待していたが、見るべきものはほとんどないに等しかった。テンポは悪く、アピールするものもなかった。

 ユベントスはドゥグラス・コスタ、パウロ・ディバラ、クリスティアーノ・ロナウドの3人が初めて一緒にスタメンを飾ったが、スター選手たちだけでは間延びしたしプレーを埋めることはできなかった。ロナウドのPKはゴールバーを叩き、ディバラのプレーは散発的だった。

 一方、ミランのスター、ズラタン・イブラヒモビッチは出場停止で家にいた。スタジアムに入れる人数が厳密に限られていたので、スタンドにも入れなかったのである。

 結局、試合はスコアレスドローに終わり、ファーストレグがサン・シーロで1-1だったことから、アウェーゴールを決めていたユベントス決勝へと駒を進め、ミランは敗退した。この結果は近年の両チームを象徴しているようでもある。ユベントスはクラブ幹部による審判への買収・脅迫行為が発覚して2006-07シーズンにセリエBからスタート、2007-2008シーズンにセリエAに復帰すると、2011-12シーズンから8季連続でイタリアの覇者となった。

 一方のミランはヨーロッパのトップからずるずると滑り落ち、オーナーや監督が目まぐるしく変わり、チーム内に平穏はない。

 ミランにとっては痛い敗戦だっただろう。目標としているヨーロッパリーグ出場権へのひとつの道が断たれてしまったからだ。あとはリーグで6位までに入るしかない(現在ミランは7位)。

 それにしても試合の雰囲気は、どこか非現実的だった。トリノのアリアンツスタジアムには、サポーターの大歓声の代わりに選手たちの声だけが響いていた。

 多くの細かい点も普段とは違っていた。選手たちはピッチに1チームずつ入らなければいけないし、試合前の握手もない。ゴール後のハグは禁止された(まあ、そんな状況にもならなかったが)。たとえレッドカードを出されても(ミラン前半17分、アンテ・レビッチが危険なプレーで一発退場となった)、審判に抗議をするのにもソーシャルディスタンスの1メートル50センチを守らなければいけない。試合自体のルールも変わり、途中交代が5人まで認められ、延長戦はなくなり、既定の90分が終われば即PK戦となる。

 ミランはトリノまで2台のバスに分乗し、選手はずっとバラバラだった。チームスタッフやコーチはピッチの外にいなければならなかった。ベンチに行く者はマスク着用が義務付けられ、チームメイトとも距離を置いて座らなければならなかった。

 我々メディアにも多くの制約があった。実際に試合を見ることができる記者は10人。記者室、ミックスゾーン、会見室はすべて閉鎖されていた。こうしたいつもと違う状況が、選手たちをまごつかせたこともあるだろう。

 ミランの選手たちは医療従事者への感謝を込めたワッペンをユニホームの袖につけていた。彼らはこの新たな時代のヒーローだ。虹のデザインに「すべてはうまくいく」の文字。これはコロナと戦うイタリアのスローガンでもあった。

 試合前には3人の医療従事者がピッチに招かれ、コロナで亡くなったすべての人の追悼のため、そして今も戦っている人々への感謝のため、1分間の黙とうが捧げられた。彼らの目も、そしてそれを囲む22人の選手らの目も、一様に光っていた。この3カ月のイタリアの苦しみを彼らはその肩に感じていたろう。

 幸いにも、その翌日に行なわれたもうひとつのコッパイタリア準決勝、ナポリ対インテル戦は、見応えのあるものだった。いつもは熱いナポリサポーターで埋め尽くされるサンパオロスタジアムは静まり返っていたが、それでも前日の試合より心に響くプレーが見られた。

 ファーストレグで、ホームで負けていたインテルはベストメンバーで勝負に出て、多くのシュートをナポリゴールに放った。

 しかし、ナポリのGKダビド・オスピナの好セーブにことごとく阻まれてしまう。もしかしたらラウタロ・マルティネスの頭はすでにバルセロナに行っていたのかもしれない。ロメロ・ルカクもそれをカバーすることはできなかった。

 一方のナポリは、ドリース・メルテンスだけで十分だった。ナポリを決勝に導くゴールを決め、同時にこれは彼のナポリでの122ゴール目となり、マレク・ハムシクの記録を抜いてチーム歴代最多ゴールとなった。試合は1-1で終わったが、決勝に進出したのはナポリだった。

 試合後、ナポリの監督ジェンナーロ・ガットゥーゾは微笑んでいた。彼はこの数日前、妹を37歳の若さでなくしていた。この試合にかける特別な思いがあったろう。また、ロッソネロ(ミラン)のハートを持った彼にとって、インテルを破ることは常に特別な喜びなのだ。

 これは本当のサッカーではないと言う者もいる。確かにそれも一理ある。本物のサッカーが見られるようになるにはもう少し時間が必要だ。チームも選手もすっとコロナに翻弄されてきた。しかし、重要なのはこうして公式戦が始まったことだ。最初の一歩がなければ何も始まりはしないのだから。