2019-20シーズンのリーガ・エスパニョーラ。6月4日に19歳になった久保建英(マジョルカ)の進撃は目覚ましい。「久保の活躍は喜ばしいよ」 マジョルカのビセンテ・モレーノ監督は言う。「私は、彼を”久保爺さん”と言っている。それは久保が年…

 2019-20シーズンのリーガ・エスパニョーラ。6月4日に19歳になった久保建英(マジョルカ)の進撃は目覚ましい。

「久保の活躍は喜ばしいよ」

 マジョルカのビセンテ・モレーノ監督は言う。

「私は、彼を”久保爺さん”と言っている。それは久保が年齢以上に老成しているからだ。いつも明確なアイデアを持ち、視界が開けている。また、重要な選手でありたいという気持ちが強く、入団した時と比べて、まったく違う選手に成長している。プレーヤーとして、あらゆる側面で改善している。とてもいい未来が待っているだろう」



今季は残り11試合。1部残留を目指すマジョルカの久保建英

 手放しに近い賞賛である。

 2019年、FC東京での成長・進化も信じられないほどだったが、スペインでもその曲線の角度は落ちていない。

「マジョルカはリーガ最弱の戦力で、2部、1部と2シーズン続けて昇格したチームだけにチームの絆は分厚く、極端に守備重視」という見方が一般的だ。

 久保が失敗したとしても、エクスキューズになる要素ばかりだった。だが、彼は圧倒的な技術力でチームメイトを納得させた。攻撃の旗手として、強靭な精神力でチームを引き上げ、軽やかに壁を乗り越えたのだ。

 単純に考えても、18歳の日本人選手がリーガ1部でポジションをつかんでいることは奇跡と言える。少なくとも前例がない。久保は歴史を作っているのだ。

 では、19歳になった久保の来季ベストチームはどこか?

 コロナ禍によるリーグの中断を経て、6月11日のセビージャダービーで再開したリーガは残り11試合となる。その結果次第で、久保の価値は大きく変動する--。

 いずれにせよ、レアル・マドリードが所有するパスを手放すことは考えられない。その点、噂されたフランスのパリ・サンジェルマン移籍の可能性は低いだろう。移籍金3000万ドル(約33億円)は、安すぎる。

 ただし、久保をレアル・マドリードに復帰させるのは、現状ではタイミングとして早いのかもしれない。トップでの出場機会は十分にあるが、外国人枠を使うことにもなり、継続的に試合を重ねるには、もう1シーズン、スペイン国内のクラブで”武者修行”したほうが得策だろう。国外のクラブも視野には入るが、オランダやフランスではリーグのレベルが落ちてしまい、それはドイツでも変わらない。国内で、マジョルカ以上の戦力のチームになる公算が高い。

 攻撃的な志向の強いチームスタイルのレアル・ソシエダ、ベティスの名前は、移籍候補先として世間をにぎわしてきた。2チームともボールプレーが基本で、有力と言える。

 久保が、バルセロナのように主導権を握るチームで、存分にその能力を発揮できるのは間違いない。受け身になった時の守備など、戦術レベルは上がっているものの、やはり最大の魅力は攻撃に入った時のプレーにある。マジョルカでは24試合出場で3点を記録しているだけでなく、チーム最多の3アシストと攻撃面の貢献が際立つ。

「久保のドリブルはメッシに並ぶ」

 先日、スペイン大手スポーツ紙『アス』が、「90分間でのドリブル回数」で久保がリオネル・メッシと並び、5.4回でリーガ最多であることを記事にしている。また、リーガで10番目に多いファウルを受けており、それは「怖い選手」であることを証明する。その攻撃力は、今やリーガ有数だ。

 レアル・ソシエダは、ノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴールを中心にポゼッションを展開し、久保にとって最適の攻撃型チームと言えるだろう。ただ、レアル・ソシエダはマドリード復帰が噂されるウーデゴールを慰留する動きがある。単純に久保と交換とはいかないかもしれない。

 レアル・マドリードはルカ・モドリッチの放出やエドゥアルド・カマビンガの獲得などの動きがある。さらに、ストライカー確保が彼らの優先課題。現時点では、不透明なことが多すぎる。

 とは言え、今の久保はチームを選ばないだろう。どんなチームであれ、適応するだけの力を身につけている。過去に多くの日本人選手が持っていた、天才肌の選手特有の脆さ、悲劇性がまったくない。跳び抜けたパーソナリティと卓抜とした技術で状況に適応し、次のステージに入ってしまう。艱難辛苦が進化の触媒で、まるで漫画のキャラクターのようだ。

 結論を言えば、マジョルカ以上のチームなら、どこでもいいのではないか。リーガ1部に頭を抱えるような愚将はいない。たとえ日本人選手を多少差別するような監督であっても、久保はそれを覆して殻を破るだけの剛直さを持っている。

 6月13日の再開戦で、マジョルカは本拠地ソン・モイスに首位を走るバルセロナを迎え撃つ。現在は18位で降格圏(20チーム中、3チームが降格)。残留のためには負けられない。今季のバルサは失点が多いだけに、つけ入る隙はあるだろう。シーズン前半戦には、アウェーで5-2と、メッシのハットトリックで蹴散らされたが……。

 久保はメッシの度肝を抜く一発を決めることができるか。今はマジョルカを1部に残留させることが使命だ。