連載「女性アスリートのカラダの学校」第4回―月経サイクルとコンディショニングの関係 スポーツを習い始めたばかりの小学生、…

連載「女性アスリートのカラダの学校」第4回―月経サイクルとコンディショニングの関係

 スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける「THE ANSWER」の連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。第4回は「月経サイクルとコンディショニングの関係」について。

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 私は女性アスリートや女子大学生を指導する際に必ず、「毎日、基礎体温を記録してほしい」「いつ生理が来るかを把握してほしい」と口を酸っぱくして伝えています。それはなぜか? 女性アスリートは自分の月経サイクルを知ることで、トレーニング計画をセルフマネジメント(コンディショニング)できるからです。

 私がこれまでに行った調査によると、「月経サイクルによってコンディションの変化を感じますか?」というアンケートに対し、「はい」と答えた学生は約80%(約1700人中1400人)に上ります。また、JISS(国立スポーツ科学センター)がオリンピアンを含む630人の女性アスリートに行った調査でも、月経サイクルによってコンディションの変化を「感じる」と答えた人は全体の91%。以上のことから多くの女性アスリートにとって、月経サイクルとコンディショニングは密接な関係にあるとわかります。

 女性の体は月経のサイクルに伴い、排卵を境に女性ホルモンの分泌量が多くなる「黄体期」と少なくなる「卵胞期」に分かれます。女性ホルモンには「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2つがあり、これらが急激に増減することによって、生理的・心理的なコンディションに変化が生じると報告されています。

 月経サイクルに伴う不調は月経随伴症状といわれ、生理前と生理中に現れるケースがほとんど。体調の変化は感じても競技への影響までは感じないという選手もいますが、下腹部痛や頭痛、腰痛といった痛みや、吐き気やむくみなどにより、トレーニングの質が落ちやすくなります。逆に生理後の数日間はコンディションがよくなるので、トレーニングボリュームをアップするにはベストタイミングです。

 また、生理による不調はネガティブ思考になる、自己肯定感が低くなるなど、ココロに現れる場合もあります。自分を責めがちになったり、涙もろくなったり、イライラしたり……。ときにはチームメートや指導者、家族とぶつかることもあり、自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。このような精神的な症状も、月経随伴症状の一つ。女性ホルモンの変化が感情を調節する機能に影響するためです。

 でも、抑えられない感情も「女性ホルモンのせい」とわかれば気持ちが楽になります。私は基本的にはポジティブな性格ですが、時々、自己嫌悪に陥ったり落ち込んだりします。考えてみると「あ、生理前か!」というタイミングが多いんですね。月経サイクルによる症状だと自覚するだけでも、「自分や相手が悪いわけじゃない。今は生理前だからこんな気持ちになるんだな」と割り切れるし、前向きな気持ちに切り替えられます。

トップ選手ほど基礎体温を測り、月経サイクルをしっかり把握

 コンディショニングに必要なのは、自分の体調の波を知り、「じゃあどうすればいいのか?」と考えることです。月経のサイクルによって、体調の変化があるのか、ないのか? あるとしたらいつ頃、どんな症状が起きるのか。それがわかっていれば、例えば痛みが心配であれば事前に痛み止めを用意する、長めの入浴や念入りにマッサージをしてむくみに対処するなど、自分なりに工夫しながら、少しでもよいコンディションに持っていくことができます。

 事実、私がこれまで見たり、話したりしてきた女性アスリートたちは、トップの選手ほど、きちんと基礎体温を測っていますし、月経のサイクルもしっかり把握しています。

 大切なのは、生理による不調や痛みにフタをしたり「調子が悪くても仕方がない」とただ諦めたりするのではなく、自分の体を知り、向き合うことです。そして、よきタイミングや体にあった方法で、痛みや不快感のコントロールをする。この力が身に付くと、どんな日も練習や試合にベストで取り組めるようになりますし、パフォーマンスアップにもつながりますよ。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。