写真:アフロ

井手口陽介、西村拓真、遠藤渓太、中村敬斗――。Jリーグのコアなファンなら、この文字列の意味を説明せずとも分かってくれるかもしれない。これは2016年以降にJリーグYBCルヴァンカップのニューヒーロー賞を受賞した選手たちだ。

大会が「Jリーグヤマザキナビスコカップ」と呼ばれていた時代までさかのぼると、1996年の名波浩、斎藤俊秀を皮切りに長谷部誠、原口元気、宇佐美貴史と受賞者リストに新旧の代表プレイヤーが名を連ねている。

■"ちょうど良いステップ"

ルヴァンカップはグループステージ、プレーオフステージをへて決勝トーナメントへ、と進んでいく大会だ。グループステージは平日、Aマッチデーの開催が多く、若手にチャンスが与えられやすい。加えて「満年齢21歳以下の日本国籍選手を1名以上先発に含める」という規定もあり、若手の登竜門としての意味合いが強い。

試合は最高のトレーニングで、どんな素晴らしい才能も公式戦を経験しなければ磨かれない。出場機会を増やすならJ2以下のクラブに期限付きで移籍するのも一つの方法だし、勉学を考えて大学に進学する逸材もいる。そんな選択肢がある中で「21歳未満でJ1クラブと契約している選手」は相当なエリートだ。日本サッカーのレベル上昇を考えると、20歳前後のプレイヤーがルヴァンカップに出場する、先発でプレーすることがまずすごい。

受賞時の年齢を見ると長谷部は20歳。受賞年は04年で、彼がプロ入り3年目を迎え、Jリーグベストイレブンにも選ばれるなどブレイクを果たしたシーズンだった。

彼は06年のリーグ制覇、07年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇に大きく貢献し、08年1月にドイツ ブンデスリーガのヴォルフスブルクへ移籍する。日本代表にも定着し、10年のW杯南アフリカ大会から3大会連続で代表のキャプテンを任された。アスリートとしていわゆる早熟タイプでなかったが、Jリーグカップを一つの足がかりとしてブレイクし、さらなる高みへ登りつめた例だ。

若手は変化が早く、控えが主力、代表へ一気に駆け上がっていくケースもある。逆の視点から見れば、チャンスを掴めないままだと逸材の旬はすぐ終わる。もちろん1年で2ステップ、3ステップを一気にクリアする怪物もいるが、"段差"につまずく選手もそれなりにいる。

ルヴァンカップの出番を得るための競争もタフだし、プライムステージや決勝まで進めば1試合の重さはリーグ戦以上ともなる。一方で若手の起用を促すレギュレーション、リーグ戦から短い間隔で試合が組まれる日程などリーグ戦との違いがある。才能はあるのにキャリアが乏しい選手にとって、出番を得やすい大会であることも事実だ。ルヴァンカップは逸材にとって"ちょうどいいステップ"となりやすい。


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■ルヴァンカップが世界への足がかり

しかしこの5年、10年間で有望株のキャリアパスには激しい変化が起こっている。かつてはまずJ1で主力となり、日本代表に入り、それから海外へ行く定番のストーリーがあった。それが最近は"J1→海外移籍→日本代表"という順序に変わった。さらにJ1の主力とまでは言えない段階で海外に出るタレントも増えている。

板倉滉は97年1月生まれで、16年5月25日のベガルタ仙台戦が"プロ初出場初先発"だった。センターバックとして出場した19歳の彼は、仙台のエース・ウイルソンと互角に渡り合い、プロとして次に進む一つの手がかりを得た。

彼は翌17年にリーグ戦、ACLも含めて出番を増やし、18年は仙台への期限付き移籍。ここでレギュラーを掴むと、19年1月にマンチェスター・シティ(イングランド)と契約を果たし、レンタルでFCフローニンゲン(オランダ)へ渡った。同年6月のコパ・アメリカでは日本代表としてプレーした。同世代が新入社員になるのとほぼ同じタイミングで、ヨーロッパに渡り、フル代表入りも果たした。

19年のニューヒーロー賞受賞者である中村敬斗は、出世のスピードがさらに速い。17歳でプロ契約を済ませた彼は、年齢的に大学1年生世代となるプロ2シーズン目のルヴァンカップで大活躍。計5試合に出場し3得点を挙げ、7月にはもうFCトゥウェンテ(オランダ)へ移籍していた。

■逸材が輝く貴重な場

ルヴァンカップは今も昔も登竜門だが、世界への登竜門へと進化を遂げた。ともに既に帰国しているが、17年にニューヒーロー賞を受賞した西村拓真は翌夏、16年の井手口陽介は翌シーズン終了後に海外のクラブへ移籍している。選手のキャリアは直線でなく"ジグザグ"なケースが多く、それぞれの道があっていい。宇佐美貴史のようにドイツから帰国して迎えた最初の大会でニューヒーロー賞を受賞した例もある。

その他にも中島翔哉や南野拓実、久保建英をはじめとして、今では何十人という日本のサッカー選手がヨーロッパの主要リーグに迎えられ、武者修行を積んでいる現状はポジティブだ。ただしその分、彼らの成長を我々が日本でじっくり見守る時間的余裕は徐々に減っている。

昨今の傾向を見るとなおさら、逸材は今のうちに見ておきたい。今日ルヴァンカップでプレーしている魅力的な若手が、明日になったらもう手の届かない環境に飛び立つーー。そんな現象が当たり前のように起こるからだ。

「男子、三日会わざれば刮目して見よ」の金言が如く、若人たちの成長は速い。ルヴァンカップは逸材たちが放つ一瞬の煌めきを確認する貴重な場だ。

文=大島和人

放送情報

ルヴァンクラシックス/中村俊輔GOALS

放送日時:2020年6月13日(土) 6:30~ 他

チャンネル:スポーツライブ+

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