中国・上海で開催されている「上海ロレックス・マスターズ」(ATP1000/10月9~16日/賞金総額545万2985ドル/ハードコート)のシングルス準決勝で、第1シードのノバク・ジョコビッチが第15シードのロベルト・バウティスタ アグー…

 中国・上海で開催されている「上海ロレックス・マスターズ」(ATP1000/10月9~16日/賞金総額545万2985ドル/ハードコート)のシングルス準決勝で、第1シードのノバク・ジョコビッチが第15シードのロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)に4-6 4-6で敗れるという番狂わせが起きた。

 この日、センターコートにあたるスタジアムコートでプレーしたジョコビッチは、金曜日の準々決勝で行ったように鼻歌は歌わなかった。彼はラケットを叩きつけ、シャツを引き割き、フラストレーションを露わにしていた。

 一方、第2シードのアンディ・マレー(イギリス)もまた、もう一つの準決勝で、ジル・シモン(フランス)に対して彼なりの怒りを見せていたが、次第に落ち着きを取り戻し、6-4 6-3の勝利を収めて、今年10度目の決勝に進出した。

 今大会で過去に3度優勝しているジョコビッチは、準々決勝で予選勝者のミーシャ・ズベレフ(ドイツ)に対してなんとか勝ったあと、2日連続で著しく調子を崩しているところを見せた。彼はごく普通のボレーをミスし、そのグラウンドストロークは不正確で、合計29本のアンフォーストエラーをおかした。彼はまた、手にした9本のブレークポイントのうち2本しかものにできないという、通常は勝負強い彼らしからぬものを見せていた。

 対ズベレフ戦でのジョコビッチは、ミスをおかしても肩をすくめるだけで、落ち着きを保とうと努め、ときには怒りがあふれないようにするため、鼻歌を歌いさえした。しかしながら、この新しい振る舞いは土曜日の準決勝ではまったく見られなかった。

 ジョコビッチは、第1セットを落としたあとにラケットを叩きつけて粉々にし----のちにボールガールからタオルを受け取ると、自分で破片の掃除をしたが----ほかのポイントでは、怒りのあまり自分のシャツを引き割いたりした。

 彼はまた、ライン・ジャッジや、破いたシャツを着替えたときに受けたタイム・バイオレーションについて、主審のカルロス・メルナルデスと繰り返し言い争った。彼は試合が終わったあとにさえ、審判との会話を続け、試合後の記者会見でそのことについて文句を言った。

 「彼(メルナルデス)はショーのスターだった。それが今日、彼がそうありたいと望んでいたものなんだ」とジョコビッチ。

 ジョコビッチは今週、コート上で感じるプレッシャーを減少させようと努めていること、自分を精神的に憔悴させた、すべてを征服した数年の後に、テニスへの内なる喜びを再発見したことについて繰り返し話していた。彼は土曜日の敗戦のあと、この新しい試みはまだまだ発展途上にある仕事だと認めた。

 「今日は、ことが自分の望まない方向に進んでしまう類の日だった。でも、これもまたレッスンだ。毎日が学びの場なんだ」とジョコビッチは言った。

 あまり四苦八苦することに慣れていなかったジョコビッチにとって、今年の夏はレッスンだらけだったと言えるだろう。全仏オープン優勝のあと、彼はウインブルドン3回戦でサム・クエリー(アメリカ)に驚きの敗戦を喫し、リオ五輪ではフアン マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)に初戦で敗退させられ、全米オープン決勝ではスタン・ワウリンカ(スイス)に、自信を喪失させられるような負け方をしている。

 また、肘と手首の故障もあった。これは通常、健康を維持してきたジョコビッチにとって、あまり馴染みのないことだ。

 しかしジョコビッチは、これらのチャレンジが乗り越えられないものであるとも、より深い下降線に続くものであるとも思っていない。

 「遅かれ早かれ経験しなければいけなかったんだ」とジョコビッチは言った。「何年もの間、常に絶え間なく、最高に高いレベルでプレーし続けることなどできないのはわかっていた。でも、これをもう経験したっていうのはいいことだ。これから先の時期に、よりよくなることができるだろうからね」。

 マレーはジョコビッチが今、経験していることに共感を感じることができるだろう。そして彼はジョコビッチが今の流れを逆転させる方法を見つけ出すに違いないと確信してもいる。

 「彼が成し遂げた多くのこと、ここまでの圧倒的な覇権のあとだけに、そう思うよ。2年の間、ほとんど毎週のように決勝に進出するというのは、本当に多大な努力と仕事を必要とすることだ」とマレーは言った。「彼が精神的に少し疲れていたり、全仏でやってのけたことのあとに、成し遂げるべき次のことを見つけようとしているというのは、おそらく、ごく当然のことなんじゃないかな」。

 マレー自身、シモンに対して第1セットで3度にわたってサービスゲームを落とし、やや苦労していた。彼もまた、判定ミスについて審判に繰り返しつっかかっていた。しかし彼は、そのような気を散らす出来事を脇に押しやり、シモンのサービスを6度ブレークして、ストレートで勝利をつかむことに成功した。

 マレーはここ10試合で一度もセットを落としていない。彼はまた、決勝で対戦することになったバウティスタ アグートに対して2勝0敗の戦績を誇っている。

 クレーが得意な他のスペイン人選手たちと比べ、バウティスタ アグートはハードコート上で不器用になる選手ではない。実際、バウティスタ アグートは、マレーより多くの大会に出ているとはいえ、今年、ハードコートでマレーよりも多くの勝利を挙げている(バウティスタ アグートの37勝に対して、マレーは34勝)。

 「彼のゲームスタイルゆえだと思う。彼は両サイドから、非常にフラットにボールを打ってくる」とマレー。「それは典型的なスペイン人のテニスではない。それが彼を助けているんだと思うよ」。

 一方、ジョコビッチを倒し、決勝進出を決めたバウティスタ アグートは、「すごくうれしいよ。これは僕のキャリアでもっとも重要な試合だったかもしれない。最後は競って、試合を終わらせるのは容易ではなかった。タフな試合だった。自分のサービスでの3つのマッチポイント。少しナーバスになっていたが何とか対処することができた」と試合を振り返った。

 「ナーバスになり、プレッシャーを感じながら楽しむのは容易ではないが、なかなかうまくできている。今週を通して僕はすごく集中しているし、いいテニスをしている。いいプレーができているときは、より楽しめるものだよ」。(C)AP(テニスマガジン)