アメリカで始まったベースボールも、当初の野球は「先に21点を取ったほうが勝ち」 野球は9人でやるスポーツ。これは野球の「…
アメリカで始まったベースボールも、当初の野球は「先に21点を取ったほうが勝ち」
野球は9人でやるスポーツ。これは野球の「いろはの」“い”と言っても良い初歩的な知識だが、なぜ9人になったのか、説明するのはなかなか難しい。これまでいろいろな解釈が行われてきたが、納得できる説明は今のところない。
野球の先祖に当たるゲームができた時点では、選手数はまちまちだった。イングランドで始まった「ラウンダース」は、投手と捕手以外に最低4人の野手が必要とし、野手の上限は7人とした。つまり6人から9人でやるスポーツだった。またラウンダースから派生した「タウンボール」の選手数は9人から11人だった。さらに野球の遠い親戚と言われるクリケットは11人でやるスポーツだ。
アメリカでは、野球の始まりは1839年にニューヨーク州のクーパーズタウンで当時20歳前後だったアブナー・ダブルディが仲間を集めて始めたのが最初だということになっている。このときダブルディが始めた「ベースボール」の選手数は1チーム11人だったと言われている。
では、いろいろあった選手数が、9人に落ち着いたのはなぜか?
一つにはゲーム運営者側に「試合時間を短くしたい」という思いがあったことが大きいだろう。イギリスのクリケットは、時間無制限で最長5日間もかかることがあった。クリケットは貴族のスポーツであり、時間の長さは問題にならなかった。
アメリカで始まったベースボールも当初、野球は「先に21点を取ったほうが勝ち」というゲームだった。しかし、アメリカでの野球は、東部の勤労者階級に普及した。長々と試合をする余裕はない。そこで今度は先発メンバーが全員打ち終わると攻守が交代し、これを2回繰り返すと試合終了というスタイルに変わった。
諸説あるが、その過程で選手数が11人から9人になったとではないかと考えられている。11人より9人の方が、攻守交代が短くなる。11人制では外野を4人、内野を5人で守っていたが、これを1人ずつ削減した。しかし、そのルールでは一方の攻撃が延々と続くことになる上に、時間短縮にもそれほどつながらなかった。攻守交代を早くして、展開を面白くするために3アウトチェンジとなり、9イニング制になったのだ。
野球は「3」という数字に縁が深いスポーツ?
野球は「3」という数字に縁が深いスポーツだ。打者が投球を3回空振りすると三振でアウトになる。3つのアウトでチェンジ。さらに3の3倍の9イニングで試合終了。そして出場する選手も9人。野球が「3」という数字を大事にするのは、アメリカがキリスト教の一派であるプロテスタントの国だからという説もある。東方の三賢人、三位一体(神と子と精霊)、三大祭(クリスマス、復活祭、精霊降臨祭)などキリスト教にとって「3」は神聖で重要な数字なのだ。
だからアメリカのナショナル・パスタイムである野球は「3」と、その派生である「9」を大事にするようになった、という理屈だ。こじつけのような印象だが、今でもこういう説明をする人がいる。
ただ、1973年以降、野球は「10人」でやるスポーツになりつつある。この年に、アメリカン・リーグが「指名打者制(Designated Hitter)」を導入したのだ。これによって野球は8人の野手と1人の指名打者と1人の投手でプレーする「10人のゲーム」になった。
いまだにMLBのナショナル・リーグ、NPBのセントラル・リーグ、日本の高校野球などは指名打者制を導入していないが、世界のプロ、アマの野球の大半は、指名打者制を導入している。MLBとNPBでは、指名打者制を導入していないリーグと導入しているリーグの間で交流戦(インターリーグ)が行われているが、いずれも指名打者を導入しているアメリカン・リーグ、パシフィック・リーグが勝ち越している。
野球は9人でやるより10人でやる方が強いのか? 最近になってナショナル・リーグ、セントラル・リーグでも指名打者を導入する構想が出てきているが、伝統的に「3」「9」を大事にしてきた野球にとって歴史を動かす話だと言えるかもしれない。(広尾晃 / Koh Hiroo)