こんな対決あったのか!高校野球レア勝負@甲子園第6回 2014年夏平沼翔太(敦賀気比)×香月一也、正随優弥、福田光輝(大…

こんな対決あったのか!
高校野球レア勝負@甲子園
第6回 2014年夏
平沼翔太(敦賀気比)×香月一也、正随優弥、福田光輝(大阪桐蔭)

 2014年夏、第96回全国高等学校野球選手権大会準決勝。試合前から灰色の雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうな空模様にもかかわらず、大阪桐蔭と敦賀気比という屈指の好カードを見ようと、甲子園には47000人の大観衆が詰めかけていた。

 敦賀気比は、準々決勝までの4試合で62安打を放った強力打線と、2年生エース・平沼翔太(現・日本ハム)の安定感あるピッチングがかみ合い、1回戦から危なげなく勝ち上がってきた。



大阪桐蔭に6回途中12失点と打ち込まれた敦賀気比の2年生エース・平沼翔太

 そんな勢いのある敦賀気比を相手に、大阪桐蔭の主将・中村誠(現・日本製鉄かずさマジック)はこんなゲームプランを練っていた。

「とにかく先行されないこと。向こうはとにかく打ってくるし、打線に切れ目がない。それに対して、自分たちは守備でリズムをつくって攻撃につなげてきたので、まずはしっかりリズムをつくっていこうと思っていました」

 ところが、そのゲームプランは試合開始早々から崩れてしまう。

 1回表、敦賀気比は2番打者からの4連打で1点を先制し、なおも満塁から6番・御簗翔(おやな・しょう)が満塁ホームラン。いきなり5点を奪う怒涛の攻撃で、大阪桐蔭の出鼻をくじいた。

 予想もしなかった展開に、大阪桐蔭の中村は絶望感を抱いたという。

「正直『無理やろう』って思いましたね。チームメイトとも『終わりやな』って話していましたから。でも、(1番打者である)自分がまず出塁すればと......そのことばかり考えていました」

 中村は準々決勝の健大高崎戦でも決勝打となる2ラン本塁打を放っており、打撃の調子は上向いていた。そしてこの試合でも、初回に反撃ののろしとなるソロ本塁打。このキャプテンの一打をきっかけに、大阪桐蔭はこの回3点を返した。中村が振り返る。

「平沼くんはカットボールがいいので、そこをしっかり見極めるようにしていたのですが、実際に打席に立つと『あれっ?』と思うほどボールが走っていませんでした。初回に3点も取れたので、ネガティブな気持ちは完全になくなりました」

 一方の平沼は、中村に本塁打を打たれ明らかに動揺を隠せずにいた。5点の援護をもらってのマウンド。普段なら強気に攻めるはずが、王者・大阪桐蔭のプレッシャーでいつもの投球ができない。

 2回裏にも、二死から中村を四球で歩かせると、2番・峯本匠(現・JFE東日本)に2ランを許し、試合を振り出しに戻された。

 その直後の3回表、御簗がこの日2本目の本塁打となるソロを放って、大阪桐蔭に傾く流れをなんとか引き戻したが、平沼は完全に平常心を失っていた。

 この年の大阪桐蔭は、例年のようにスター選手がいるわけでも、超高校級のスラッガーがいるわけでもなかった。それでも中村を筆頭に、3番・香月一也(現・ロッテ)や4番・正随優弥(現・広島)といった好打者が揃い、派手さはないが試合巧者ぶりが目立つチームだった。事実、初戦の開星戦では4安打に抑えられながらも勝利を収めている。



敦賀気比戦で3安打3打点と活躍した大阪桐蔭の3番・香月一也

「西谷(浩一)監督から『大会中に成長できないと優勝はない』と言われていたんです。甲子園ではずっとしんどい試合ばかりで。でも、そういう展開の試合に勝てたら、さらに成長できると思っていました」(中村)

 その言葉どおり、大阪桐蔭ナインのなかには「まだまだいける」という自信が満ち溢れていた。それを体現したのが4回裏の攻撃だ。

 先頭の8番・福田光輝(現・ロッテ)の安打を皮切りに、正隨のタイムリー、5番打者の2ランなど、打者一巡の猛攻で一挙5点を奪ってみせた。一気に試合の主導権を握った大阪桐蔭だったが、強打を誇る敦賀気比打線に対し「どれだけ点差を広げても、気は休まらなかった」(中村)と選手たちに慢心はなかった。

 事実、5回表に2点、7回にも1点を返されるなど、じりじりと追い上げられたが、「この試合を絶対にものにする」という大阪桐蔭の意地が敦賀気比に反撃を許さなかなった。試合は15−9で大阪桐蔭が勝利し、決勝へと駒を進めた。

6回途中12失点でマウンドを降りた平沼は、試合後、アルプススタンドの応援団にあいさつを終えると、膝に手をつきうなだれた。東哲平監督に抱きかかえられても、その場から動くことができなかった。

「自分のせいで3年生の夏を終わらせてしまいました。自分の力不足です......」

 平沼はどんな質問に対しても「力不足」としか返せなかった。今まで味わったことのないプレッシャーを感じ、恐怖心と戦いながらマウンドに立っていたのだろう。

「このままでは日本一になれないということだけはわかりました」

 平沼はそう言い残して甲子園を去った。

 それから約7カ月後、翌年春のセンバツ準決勝で敦賀気比は再び大阪桐蔭と対戦。平沼は大阪桐蔭打線を4安打完封し、見事リベンジを果たした。そして決勝でも東海大四を3−1で下し、悲願の全国制覇を達成したのだった。

 2014年夏の"壮絶な打撃戦"は、平沼をさらに大きくした一戦となったのは間違いない。