サッカースターの技術・戦術解剖
第11回 セルヒオ・ブスケツ

<バルセロナのボス>

 4-3-3システムの中盤の底、アンカー、ピボーテ……このポジションの第一人者がセルヒオ・ブスケツだ。



パスをつなぐバルセロナの中心としてプレーするブスケツ

 ブスケツは、バルセロナにおける典型的な「クワトロ」(数字の4)である。

 ヨハン・クライフが監督に就任した時に確立されたポジションで、「4」はポジション番号制の時の背番号だ。クライフの母国であるオランダは、DFの右から順番に番号を振っていく習慣があり、4番は4バックの左側のセンターバック(CB)の背番号だった。

 ところが、バルセロナでは3-4-3を採用していたため、この4番のポジションが上がって中盤の底のポジション番号になった。この時、クライフ監督は「もっとも重要なポジション」と言う4番に、ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)を抜擢している。

 グアルディオラは、当時このポジションをやれるような選手とは見られていなかった。ディフェンスラインの前でボールを刈り取る役割を果たすには、華奢すぎると思われていたのだ。

 ところがクライフの考え方はまったく違っていて、4番は攻撃のためのポジションだった。DFからボールを預かって前方へ配球する、後方のビルドアップの中心となる、その役割を果たすのにフィジカルの強さは関係がなく、ボールを失わず確実に味方へ届けられる技術を重視していたのだ。奪ったボールは渡さない、簡単に蹴らない、そのための4番だった。

 現在のバルセロナは4-3-3ベースだが、このポジションの役割は変わらない。GKからでもショートパスをつないでいくバルセロナのスタイルに対して、相手は何とか奪ってチャンスにつなげようとする。

 そのため、とくに中盤の底の選手は背後から寄せられてもボールを失わず、背後の相手をかわせる技術が必須である。ワンタッチでフリーな味方につなげばプレッシャーはかわせるが、そのフリーな味方がいないこともあるからだ。ボールと背後の相手を同時に見ることはできないので、このボールの受け方は簡単ではない。

 ブスケツは肩越しに寄せてくる相手を見て、ボールをコントロールしながら相手の動きを感じて、巧みに逆をとるのがうまい。長い足をしならせて足裏でボールを引いてかわすのが、彼の十八番だ。

 多くのパスはブスケツを経由し、ブスケツは最も多くのパスを出す。バルセロナの組み立ての中心であり、チームの”ボス”だ。いつ、どこへパスを出せばいいかを熟知している。ハーフスペース(サイドと中央の間のエリア)に潜んでいるリオネル・メッシへもっともいいタイミングでパスをつけられるのもブスケツだ。

 自分がボールを受ける前から、メッシがどのタイミングでどこに立つかを予測している。そしてその一瞬を逃さず、ワンタッチでメッシの足下にボールをつける。これは受け手のスペースが狭いので、他の選手に使うのは危険な「メッシ専用」のパスだ。セオリーだけでなく、選手の特徴に応じたパスを出すことができるのもブスケツの長所である。

<レジスタの歴史>

 英国ではディープ・ライング・プレーメーカーとも呼ばれる。直訳すれば「深い場所に置かれたプレーメーカー」だ。イタリアではもう少しシンプルにレジスタ(司令塔)。

 ブスケツのほかにもシャビ・アロンソ(スペイン)、アンドレア・ピルロ(イタリア)、ジョーダン・ヘンダーソン(イングランド)、アクセル・ヴィツェル(ベルギー)、マルコ・ヴェラッティ(イタリア)といった名手の名が挙げられる。

 このポジション自体は古くからあった。2バックシステム時代からセンターハーフとして存在している。ただ、解釈はチームによって異なっていた。

 1930年の第1回ワールドカップでアルゼンチン代表として準優勝、4年後にイタリア代表で優勝したルイス・モンティはこの時代の代表的なセンターハーフだ。配球もうまかったが、頑強なモンティの本領は守備。ハードマークでならした。

 イングランドはWMシステム(FWからDFまでが「WM」を描くように配される)を発明した時にセンターハーフを下げて3バックにしているので、センターハーフのポジションはなくなっていたが、中央ヨーロッパや南米は2バックのまま、しばらくセンターハーフを残した。オーストリアのエルンスト・ハッペルは攻撃型センターハーフとして有名だったし、ブラジルではボランチと呼ばれて組み立てのうまい選手が起用された。

 その後、システムが変化しても、深い位置でゲームをつくるタイプは存在した。50年代はハンガリーのヨゼフ・ボジク、60年代にはスペインのルイス・スアレスなどが活躍。70年代にはリベロがこの役割を果たすようになり、フランツ・ベッケンバウアーが代表である。

 一方で、ほとんど守備専門のタイプも多く、70年代に活躍したイタリアのロメオ・ベネッティには、「手斧師」という恐ろしいネックネームがついていた。相手のプレーメーカーやセカンドトップをマークして潰す役割である。

 早くからハーフバック2人体制になっていたイングランドも多くの名手を輩出したが、「深い場所に置かれる」というより、双方のペナルティーエリアの間を広く動くダイナミックなMFが伝統的だろう。「ボックス・トゥ・ボックス」と呼ばれるタイプだ。ボビー・チャールトン、スティーブン・ジェラード、フランク・ランパードなどがあげられるが、レジスタという感じではない。

 主にディフェンスラインのスクリーン役として機能していたポジションに、組み立てのうまい選手を起用したのがクライフ監督で、その後にカルロ・アンチェロッティ監督(現エバートン監督)がミランでピルロをレジスタとして開花させた。

<ブスケツはバルセロナ仕様>

 189cmの長身でリーチが長いブスケツの守備は、的確な読みでプレッシングからすり抜けてくる相手を捕捉する。攻撃で詰まった時にバックパスを受けるためのポジションが、守備時にはほぼそのままハイプレスの出口封鎖になっている。

 ただ、ブスケツは足が遅いしパワーもあまりない。前へ出て守るのはうまいが、広いスペースをカバーするには不向きだ。バルセロナではCBのハビエル・マスチェラーノがカウンターへ対処していた時があった。マスチェラーノはアルゼンチン代表ではブスケツのポジションでプレーしていて、守備力とスペースをカバーするスピードがあった。

 ボール支配力のあるバルサではブスケツが適役だが、守備の時間がそれなりに長いチームならマスチェラーノのほうが適している。このあたりはチームのスタイルとの兼ね合いで決まってくる。ブスケツはバルセロナやスペイン代表ですばらしい選手だが、別のチームに行っていたらそうでもなかったかもしれない。