リーガに挑んだ日本人(17)「コミュニケーション力の不足」 リーガ・エスパニョーラに挑んだ日本人たちは当初、そこで苦しんでいた。他のヨーロッパの国々より、スペインはその点での要求度が高かった。「スペイン語は喋れて当然」の前提だったのだ。「プ…

リーガに挑んだ日本人(17)

「コミュニケーション力の不足」

 リーガ・エスパニョーラに挑んだ日本人たちは当初、そこで苦しんでいた。他のヨーロッパの国々より、スペインはその点での要求度が高かった。「スペイン語は喋れて当然」の前提だったのだ。

「プレーの適応力」

 次に、それが重くのしかかった。Jリーグ以上のプレー強度の中、技術を出さなければならない。それは生半可なものではなく、適応できないと、すぐに失格の烙印を押された。一度、構想から外れてしまうと、語学のハンデはさらに浮き彫りになった。

 ふたつは絡み合っていたわけだが、どちらもクリアしたと思っても、不運に泣かされるケースもあった。



今季はここまで24試合に出場、3得点の久保建英(マジョルカ)

 その点、久保建英(マジョルカ)という日本人選手は、あらゆる面をクリアしたスーパープレーヤーと言える。「リーガに挑む日本人」として、改善点はあっても、不安点はひとつもない。その存在は革命的だ。

 2019年6月、FC東京の久保は18歳になって、レアル・マドリードとの契約を結んでいる。

 プレシーズンはトップチームに帯同。関係者の評価は、チーム内で1、2を争うほどだった。セカンドチームであるカスティージャに残って、トップデビューを狙うのもひとつの手だったが、本人の意志で1部リーグでのプレーを求め、マジョルカへの期限付き移籍を選択した。

 そして2019-20シーズン、久保は24試合に出場し、3得点を記録している。昨年11月にビジャレアル戦で初ゴールを記録し、その前の試合から8試合連続先発出場。その後、途中交代が続いたことで、「限界」を唱える声もあったが、チームの不振と久保のプレーを混同した"中身のない批判"を自らの力で一蹴した。コロナ禍でリーグが中断する前の3試合は2得点でエースの風格だった。

「Tirar del carro」

 それはスペイン語で「荷車を引く」という意味から転じ、「先頭に立って引っ張る」という表現になる。言わば勝利をもたらすエースで、久保にふさわしい称号だ。

 スペイン語が堪能な久保には、コミュニケーションの問題など存在しない。2011年8月から2015年3月まで、バルセロナの下部組織ラ・マシアで過ごした時もそうだったが、彼の強気なパーソナリティは周囲も面食らうほどだった。マジョルカでもチームメイトとのコミュニケーションは良好。豪放磊落な性格で、一目置かれる存在だ。

 プレーに関して、マジョルカではもはや"適応"を越えている。久保自身イコール戦術に近い。彼がチームの主人としてプレーをけん引している。

 今年3月、エイバル戦の3点目は顕著だった。77分、久保は自陣から敵陣に強引なドリブルで切り込み、3人のディフェンスを前にしても怯んでいない。これは止められたが、再び味方が奪い、つながったボールを再び受けると、2人に立ちふさがれるも、今度は回りこむ味方を囮に、利き足ではない右足を振り切り、鮮やかなシュートを決めた。

 久保の気迫と剛胆さが波状攻撃を生み、自らの一振りで敵の息の根を止めたのだ。

 1部クラブで日本人が主力になることは、容易なことではない。そもそも、過去に確実にその域に達したのは乾貴士(エイバル)のみ。それを18歳でやってのけるとは、末恐ろしい。

 マジョルカは2年前まで2部B(実質3部)にいたチーム。戦力的にはリーグ最弱と言える。守備を重視した戦い方で1部に引き上げたビセンテ・モレーノ監督には、古参メンバーへの配慮もあったはずだ。

 しかし久保は、実力でポジションを勝ち取った。来季はレアル・マドリードへの復帰、中堅クラブへの期限付き移籍、パリ・サンジェルマンのような強豪クラブからの接触などさまざまな可能性があり、引く手あまただ。

 では、その行きつく先とは――。レアル・マドリードだけでなく、世界の強豪でプレーし、スペイン代表として世界王者にもなったシャビ・アロンソに訊ねたことがある。

「『才能はあるか?』と聞かれたら、『間違いなくある』と答えるだろうね」

 シャビ・アロンソは、その所見を明かしている。

「チームを勝たせる貢献ができるか。そこがカギになる。でも、"違いを出せる選手"ではある。焦らず、じっくりと前に進むべきだ。持っている才能をピッチで出せるようになったら、自ずと結果は出る。ただ、マドリードでプレーするのは簡単ではない。周りの要求はすごく高いし、満足してもらえることはないからね。重い責任を背負ってプレーできるか。そのメンタリティが必要だ」

 第27節終了時点でマジョルカは18位(20チーム中、3チームが降格)。残りは11試合だ。

「今シーズンの我々の運命は"苦しみ"である」

 開幕からモレーノ監督が宣言していたように、最後までぎりぎりの勝負になるのは間違いない。

 久保の使命は、マジョルカを1部に残留させることだろう。難しい仕事だが、それに立ち向かうことが、成長の触媒となる。一流の選手は、厳しい条件をクリアすることで、周りがひれ伏す力を得るものだ。

 なにより、久保は肝心な場面でゴールを決めるなど、運の強さを持っている。剛直で人を食ったしたたかさがあって、脆弱さと悲劇性がない。運命を切り開く男の闊達さというのだろうか。

 リーグ戦再開後、最初の試合は本拠地ソン・モイスでの"古巣"バルサ戦となる予定だ。
(つづく)