世界進出も視野に入れる東京ヴェルディ・eスポーツチーム「パイオニアであれ」 東京ヴェルディが1969年に創設されて以来、連綿と受け継がれてきたフィロソフィーのひとつだ。ヴェルディはその言葉を体現するかのごとく、2016年にJリーグクラブ…



世界進出も視野に入れる東京ヴェルディ・eスポーツチーム

「パイオニアであれ」

 東京ヴェルディが1969年に創設されて以来、連綿と受け継がれてきたフィロソフィーのひとつだ。ヴェルディはその言葉を体現するかのごとく、2016年にJリーグクラブとして初めてeスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)部門を設立した。

 ビデオゲームにおける対戦を競技として捉えるeスポーツ。デジタルエンタメとして近年盛り上がりを見せており、2018年には「eスポーツ」という単語が流行語大賞のトップテンにランクインした。

 だが、ヴェルディがeスポーツチームを設立した2016年はまだ、eスポーツの存在すら広く知られていなかったタイミングである。それでも新しい可能性にいち早く飛び込んだヴェルディ。そこに恐れはなかったのか。新たな一歩を踏み出すきっかけは何だったのか。eスポーツチームを担当する松本聡氏はこう語る。

「チーム設立の狙いは大きく2つありました。『若者とのタッチポイントを作ること』、そして『ボーダーレスで世界進出すること』です」

 2013年の調査によるとJリーグ観戦者の平均年齢は39.5歳で、年々約0.5歳ずつ上昇傾向にあった。サッカークラブだけで50年、100年と歩み続けた場合、若年層との接点が減少していくことは明らかだった。

 そこで、若者とのコミュニケーションの媒介としてヴェルディが目をつけたのが”ゲーム”だった。

「当時の調査の結果からも、若者がよくゲームに触れていることがわかっていました。ゲームをプレーするだけでなく、プレー動画や大会の配信を視聴したり、実際にイベントに参加したり、非常に能動的にゲームに触れている層も多かったのです」

 また、ゲームにおけるオンライン対戦の進歩も肌で感じていたという。通話を伴ったオンライン対戦は、単なる遊びの道具ではなくコミュニケーションツールとしての一面も持つようになったのだ。これらさまざまな要素を持ち合わせたeスポーツは、若者との接点を増やしたいヴェルディにとって魅力的な市場にほかならない。

 では「ボーダーレスで世界進出」とは何だろうか。ヴェルディは、そこにビデオゲームならではの魅力を見出しているという。

「まさに先日、ヴェルディ所属選手であるy0ichiro(よーいちろう)がスペイン1部のエイバルのeスポーツチームと対戦しました。通信速度によるラグなど技術的な課題はあるのですが、日本とスペインを繋いで対戦できる点はeスポーツならではです」

 約50年前に東京ヴェルディ(当時の読売サッカークラブ)が創設された時も世界進出の旗を掲げてクラブを立ち上げた。「舞台はビデオゲームになりましたが、eスポーツチームも『世界に出ていく』という同じ遺伝子を持っています」と松本氏は熱っぽく語る。

 だが先例もないなか、まったく新しい業界へ挑戦することに恐れはなかったのだろうか。

「『パイオニアであれ』『ファーストペンギンでいよ』がクラブに脈々と受け継がれているフィロソフィーです。50年前の日本のスポーツ業界は野球一色でした。しかし、メキシコオリンピックで日本代表が銅メダルを獲ったことを受けて、1年で日本初のプロサッカーチームを作ると決心したのがヴェルディの原点です。当時から『開拓者であろう。失敗を恐れずにチャレンジするべきだ。決心したら進んでいく』との考えがあるので、eスポーツチームの設立も理解を得やすかったですね」

『ウイニングイレブン(ウイイレ)』や『FIFA』などのサッカーゲームを軸にeスポーツチームを運営していることも、従来のクラブファンからの支持に繋がったという。ヴェルディ所属の選手が味の素スタジアムで「eJ.LEAGUE」(※)への出場報告を行なった際は、自然とスタンディングオベーションが起こったという。先日行なわれたエイバルとの親善試合も、YouTubeでの配信にはヴェルディのファンから多くの応援コメントが寄せられていた。
※2018年から『FIFA』『ウイイレ』などを用いて行なわれているeスポーツ大会

 eスポーツチームを設立してから、チームの追い風となる出来事にも恵まれた。ヴェルディが抱える選手がプレーするサッカーゲーム『ウイニングイレブン』が、2018年のアジア競技大会でデモンストレーション競技として選ばれ、2019年には茨城国体の文化プログラムとして採用されたのだ。

 これらを機にeスポーツにおけるトッププレーヤーが可視化され、より広く認識された。ゲーマーたちが目指すべき存在――ピラミッドの頂点が生まれたのである。

「1993年のJリーグ開幕時に、人々がラモス瑠偉選手(現 東京ヴェルディチームダイレクター)や三浦知良選手(現横浜FC)、北澤豪選手に憧れたように、トッププレーヤーの存在はスポーツの裾野を広げるために欠かせません」

 大会やイベントなどに参加するのはもちろんだが、一方でeスポーツの普及活動にも力を入れている。

「昨シーズンの終わりから、eスポーツを支える仕事が体験できる取り組みを始めました。フィジカルスポーツと同じように、eスポーツも選手だけでは成り立たない業界です。例えば実況者や解説者がいたり、カメラマンがいたり、配信オペレーターがいたり。味の素スタジアムで試合がある日に、彼らの仕事を親子で体験できるようなブースをコンコースに設けているんです」

 また、他チームや他部門とのコラボレーションにも積極的だ。昨年には東京ヴェルディ・バンバータ(軟式野球)所属の清水翔太とy0ichiroが『FIFA』でエキシビションマッチを開催、対談も行なった。競技こそ違え、トップクラスの選手同士でコミュニケーションを取ることで「新たな気付きが生まれることも多い」と松本氏は話す。

 さまざまなアセットを持つヴェルディだからこそできる取り組みの先にチームが見据えるのは、やはり『世界に出ていく』ことだ。

「世界に通用する選手を育てる、もしくはチームとして海外のリーグに参入することを目指しています。アジア王者となったら、アジアのチームとヨーロッパのチームで大規模な世界大会を行なう、という野望もあります」

 最後に松本氏はeスポーツについてこう付け加えた。

「学生時代に『ウイイレ』や『ストリートファイター』などのゲームに触れてきた方も多いはずです。これらタイトルは、今や世界大会が開催されるなど様変わりしています。ぜひ一度YouTubeなどで世界大会の様子を見て、熱気に触れてください。eスポーツはトッププレーヤーだけのものではなく、ゲームをプレーしたことがある人なら誰でも楽しめるものだと思います」