リーガに挑んだ日本人(15) これまで、日本代表選手としてスペインのサッカー関係者から圧倒的に高い評価を受けたのは誰か?…
リーガに挑んだ日本人(15)
これまで、日本代表選手としてスペインのサッカー関係者から圧倒的に高い評価を受けたのは誰か?
それは2019-20シーズンからリーガ2部ウエスカでプレーするFW岡崎慎司である。
「リーガ1部の中堅クラスのクラブでプレーできる能力」
長期にわたって日本代表のスカウティングリポートを綴ってきたスペイン人指導者、ミケル・エチャリは、2009年時点で、岡崎にどの代表選手よりも高い評価をつけていた。

26試合出場8得点。チーム得点王の岡崎慎司(ウエスカ)
「ゴール前のポジション取りが天才的で、ディフェンスライン、パス、自分の走りこむスペースを瞬時に計算し、最高の答えを出せる。とりわけゴール前、ダイアゴナルに走りこむ感覚は満点だ」
日本では、"がむしゃらさ"が前面に押し出されがちだが、スペイン人スカウトたちはそのようには捉えていない。ポジションの予備動作に着目。その知性を激賞している。
岡崎のスペイン挑戦は、待ち望まれたものだった。
2010年南アフリカワールドカップを前に、筆者は岡崎をインタビューしている。
初めての対面だったが、質問で切り込むほどに、彼は直感的に答え、打てば響く感覚だった。そこで写真撮影でも一歩踏み込もうと、広報担当者がいない隙に気分を盛り上げ、上半身裸の一枚を撮っている。
「キューピーみたいな体ですよ」
岡崎は何の衒(てら)いもなく、上着を脱いだ。
その開放的な性格に圧倒された。その場を楽しむ。それは彼の特性だった。分け隔てする狭量さがなく、陽気さに富み、開け放っているからこそ、人が踏み込めるし、自らも踏み入れる。
そのパーソナリティはプレーに反映されている。
卓抜としたコミュニケーション力で、岡崎はヨーロッパで進撃した。ブンデスリーガのシュツットガルト、マインツでゴールを量産。プレミアリーグのレスターではリーグ優勝に貢献し、チャンピオンズリーグベスト8進出に寄与した。日本代表としては3度のワールドカップに出場し、50得点を記録している。
そして2019年7月末、岡崎はリーガ2部マラガを新天地に選んだ。
その経歴はチーム内で群を抜き、エースとして迎えられた。プレシーズンでは違いを見せつけている。ただし、クラブが財政面の問題を解決できず、登録すらままならなかった。
結局、岡崎は契約を解除した。リーガが開幕したあとの9月にウエスカと契約。プレシーズンを過ごしていないチームメイトと、感覚を合わせるのは簡単ではない。
しかし、そんなマイナスのスタートにもかかわらず、岡崎はそのプレーセンスの高さを示した。第31節終了現在、26試合出場(先発19試合)8得点。序盤戦を棒に振ったことを考えれば、その活躍は特筆に値する。
VARで得点が取り消される不運などにも泣かされてきたが、コロナ禍に見舞われる直前の4試合は4得点と、いよいよ量産体制に入っていた。
第28節アルメリア戦は、左サイドからのクロスに対して、ボックス内でマークを外し、頭で左隅へ放り込んだ。第30節エストレマドゥーラ戦も、左からのクロスに対してファーポストに入って、ヘディングで合わせ、ネットに突き刺した。2点目は右からのクロスに対し、ニアに入って、やはり頭で角度を変えている。第31節のフエンラブラダ戦では、右CKを巧みな位置取りで待ち構え、ダイビングヘッドを決めた。
岡崎は身長174㎝と大柄な選手ではない。だが、ポイントを見つけ、点で合わせる感覚は秀抜だ。予備動作で勝って、「そこにいる」というゴールが多い。そのインテリジェンスは世界水準だ。
ウエスカは昨シーズンまで1部にいたが、地方の小さなクラブである。本拠地エル・アルコラスの収容人数は7600人で、チーム年間予算は1200万ユーロ(約14億円)しかない。昨シーズンからは、20人前後の選手が入れ替わることになった。1年ごとに、生き残りをかけているチームだ。
今シーズンは第31節終了時点で4位と健闘しているのは、岡崎の存在が大きいだろう。
「1部昇格で、岡崎を引き留められる!」
今年5月、スペイン大手スポーツ紙『アス』がつけた見出しは、岡崎へ最大限の評価を示している。
「岡崎はチーム得点王で、すでにスペインサッカーに完全に適応した。彼の献身、愛嬌、そしてゴールは、エル・アルコラスのファンを"ぞっこん"にさせている。ミチェル監督は様々な戦い方を試してきたが、結局は、"岡崎と10人"というチームだ」
今シーズン、岡崎は2部で最高評価を与えられる外国人選手のひとりだろう。もし1部に導くことができれば、かの地で伝説となる。日本人ストライカーの名前が残るのだ。
「俺には、めっちゃ無謀な目標があるんですよ。世界ナンバー1のストライカーになりたいんです」
冒頭のインタビューで、世界に飛び出す前の岡崎は志を語っていた。
「これから世界の強豪と戦えば、踏みつけられてしまうこともあるかもしれません。でも、俺はそこから這い上がる自信だけはあるんです。厳しくても現実を受け止め、さらに先に進んでいく。俺はそうやって生きてきたから」
あれから約10年。34歳になる岡崎のスペイン挑戦は、まだ序章である。
(つづく)