検証! 東京五輪「フリー観戦術」 ◆マラソンスイミング編

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、もしこのまま事態が沈静化すれば、東京オリンピックの2021年7月23日からの開催にも希望の光が見えてくる。現状では17日間の競技日程、各競技会場も当初のものがスライドする見通しだ。

 チケットなしで生観戦できる競技を見つけ出し、オリンピックをタダで楽しんでしまおうというシリーズ企画で、Sportiva編集部が目をつけていた東京ベイゾーン内にある「お台場海浜公園」も、今のところ変更される情報はない。

 そこで、この会場で開催される水泳の「マラソンスイミング」をあらためて検証してみた。



2019年8月、テストイベント時のスタート風景

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 水泳の競泳では、通常、一番長いレースは1500メートルになる。しかし、オープンウォータースイミングのレースでは、5キロメートル、10キロメートル、25キロメートルが一般的。プールではなく、海や湖や川を泳いで速さを競う競技だけあって、距離の単位が違ってくる。

「その中で、2008年の北京オリンピックから採用されたオープンウォータースイミングの10キロメートルを『マラソンスイミング』と呼んでいるんです。トップ選手が10キロメートルを泳ぐと大体2時間ぐらいになるんですけど、その時間が陸上のマラソンとほぼ同じになるのが名前の由来です」

 そう解説してくれたのが、日本水泳連盟のオープンウォータースイミング委員で、強化副部長をしている原怜来(はら れいら)氏。競泳と比べるとまだまだ馴染みが浅い「マラソンスイミング」をもっとたくさんの人たちに知ってもらいたいと、その魅力を語ってくれた。

「マラソンスイミングだと、10キロメートルのラスト1500メートルが、ラストスパートになる感覚です。つまり、競泳で一番長い1500メートルのレースが、マラソンスイミングだとラストスパートになってしまうんですよ。だから、日本の競泳の長距離のトップ選手たちには、本当はもっともっとマラソンスイミングにも出てもらいたい。最初から突っ込んで泳げるようになれれば、専門の1500メートルのほうにもプラスになると思うんですけどね」

「それに、マラソンスイミングは、実は競技感覚としては、競泳というよりも、陸上のマラソンや自転車のロードレースみたいなんですよ。誰が、どこで仕掛けるのか、その駆け引きが楽しみなんです。

 やっぱり、選手たちも10キロメートルを一生懸命泳いで、最後の写真判定で『ダダダダダッ!』ともつれて、タッチの差で勝負が決まるのは避けたいみたいで、みんな途中で仕掛けたり、仕掛け返したりします。そういう駆け引きをしている選手たちを見ているのも楽しいですよ」

 競泳以上に過酷で、熾烈な駆け引きをしながら、勝利を手にするために泳ぎ続けるマラソンスイミングの選手たち。そんな選手たちを東京五輪でライブ応援できる生観戦スポットを探し出すため、Sportivaはマラソンスイミングのテストイベントに足を運んでみた。



マラソンスイミングの認知度アップに努める原氏

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 2019年8月11日にお台場海浜公園で行なわれた、マラソンスイミングのテストイベント。

 午前7時の号砲とともに、海岸から海上に突き出すように設置された桟橋状のスタート地点から、22名の男子選手が一斉に海に飛び込む。その2分後には13名の女子選手も続き、こうしてテストイベントが始まった。

 当初のスケジュールでは、女子選手が午前7時スタートで、そのレースの終了後、男子選手が10時からスタートする予定だった。

 しかし、真夏の強い日差しの影響で気温だけでなく水温も上昇し、時間が経てば経つほどレースには不向きな、選手たちにとって困難なコンディションになる可能性が出てきた。そのため急遽、男子選手を先にスタートさせた後、女子選手が同じコースの男子選手を追うように連続スタートする変則的な方式が取られることになった。

 また、マラソンスイミングの距離は男女ともに10キロメートルなのだが、この日は男女ともに本番の半分の5キロメートルで実施。

 さらに、5キロメートルを泳ぎ切ることなく、コースを確認できたら海からあがる選手もいて、テストイベントは、ガチなレースというよりも、東京オリンピック本番を見すえた試泳的な意味合いが強くなっていた。

 とはいえ、東京オリンピック本番と同じ競技会場で泳げるのは、選手たちにとってはまたとないチャンスであるのも事実。

 お台場海浜公園の海上を周回するコース取りを示す巨大ブイ(フロート)を、いかにスピードを落とさずに最短距離でまわり切れるか。その最適なポジションを確認しながら、最後はゴールとなるタッチ板を力強く叩いて、選手たちが海岸に上がってくる。

 そんな選手たちの真剣なまなざしは、すでにオリンピック本番のレースに向けられているようだった。



五輪開催時のコース予想図。スタンド以外からも見えそうだ

 ところで、東京五輪でのマラソンスイミングの観戦チケットは、A席が5500円、B席が3500円になる。

 このうち、フジテレビの本社ビルなどが建ち並ぶ、お台場のエンターテインメント・ショッピングスペース側のメインの海岸がA席になる。ここには自由席のスタンドがつくられ、観客はスタートやゴールの瞬間を観ることができる。

 一方、B席はそのメインの海岸と直角に位置する海岸沿いの砂浜。ここに設けられたエリアからの立ち見での観戦になる。A席に比べると、スタートとゴールはあまりよくは見えないものの、ビーチ前の海上を泳ぐ選手たちのダイナミックな動きは十分堪能できる。

 それでは、A席、B席に勝るとも劣らないようなフリー観戦スポットは、どこにあるのか?

 その候補が、1853年、アメリカのペリー提督が浦賀にやって来て日本に開国を迫った黒船来航の直後、幕府が江戸を守るための拠点として、江戸湾(東京湾)の出入り口に建設した”品川台場”(砲台を据えた要塞)になる。

 なかでもA席があるメインの海岸の対面にあり、B席がある砂浜脇を通り過ぎたその先、現在は都立台場公園として自由に出入りできる「第三台場」こそが、まさにマラソンスイミングのフリー観戦スポットの有力候補になるのだ。



ここが第三台場(都立台場公園)

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 実際に第三台場に行ってみた。

 すると、そこには海上の視界をさえぎるものはなく、マラソンスイミングの競技会場を一望できることが明らかになった。

 もちろん、ここからだとスタートする選手やゴールする選手たちを肉眼で確認するには少々距離がある。だが、オリンピック本番では、テストイベントと同様、第三台場のそばを通過する1周1.66キロメートルの周回コースが設定される予定で、ここからは間違いなくレース中にコースの中盤を泳ぐ選手たちを目の前で観戦できるはず。

「マラソンスイミングは、陸上のマラソンと比べると競技のイメージが湧きにくいかもしれません。でも、身近で観てもらうと、トップ選手たちは速いんだなって実感してもらえると思います。間近で応援してもらえれば、日本人選手にもアドバンデージが出てくるだろうし、けっこう面白い競技だって感じてもらえると思うんですよね」

 東京オリンピックが、多くの人たちにマラソンスイミングという競技の醍醐味を味わってもらうチャンスになると強調する原氏。

 そんな第三台場でのフリー観戦について、いくつかの注意点をまとめてみた。

①第三台場の入口には、なんとヒアリに注意喚起する看板が立っている。ヒアリが本当にいるかどうかは別としても、第三台場は原っぱのようになっているので、虫よけ対策が必要だと考えられる。

②第三台場の海岸側は急な崖になっている。危険防止のための柵があるので、マラソンスイミングのレースに興奮しても、その外には出ないよう、くれぐれも安全には気をつけてもらいたい。

③第三台場には、日差しを避ける場所が木陰しかない。マラソンスイミングの競技は2時間程度続くので、直射日光から身を守る帽子やサングラス、日焼け止め対策や熱中症対策の水分補給も忘れずに。

④ふだん第三台場は出入り自由な公園だが、五輪競技開催時に何らかの規制がかかる可能性がないとは言えない。取材時点ではそのような情報はないので、そのまま本番を迎えてほしいものだが……。



第三台場から見たマラソンスイミングのコース方面

 最後に、水温が31度を超えてしまうと、マラソンスイミングでは選手の安全を確保するためレースが行なわれなくなってしまう。そのため、テストイベントのように、レースの開始時間を早めたり、変更したりするケースが考えらえるので、スタート時間の変更などの情報はこまめにチェックして、当日の会場までの移動には余裕を持ってほしい。

 何はともあれ、第三台場は、チケットがなくてもオリンピックを生観戦で楽しんじゃおうという今回の企画にはピッタリであるばかりでなく、お台場の歴史も堪能できる、二度おいしいスポットであることは間違いない。