新型コロナウイルスにより、スポーツ界は未曽有の危機に見舞われている。とくにスポンサーを募り、スタジアムに観客を集め…
新型コロナウイルスにより、スポーツ界は未曽有の危機に見舞われている。とくにスポンサーを募り、スタジアムに観客を集め、選手に報酬を支払うことで質の高いプレーを見せるプロスポーツにとっては死活問題である。
現在、コロナを抑え込んだ一部の国・地域を除いて、スタジアムには主役であるアスリート、彼らを支えるファン、サポーターも姿を消している。それは大都市に限ったことではなく、地方の小さな町でも同様だ。
むしろ地域に密着した小規模のプロチームが、今まさに瀬戸際に立たされている。
日本でもプロバスケットのBリーグで残されていた全試合が中止となり、サッカーのJリーグでも資金力のない地方クラブが存続の危機にあると報道されていた。野球もNPBの開幕が決定しないなか、地方に基盤を置いた独立リーグの経営状態を危惧する声が上がっている。

2015年には後期優勝を果たし、初の総合優勝に輝いた愛媛マンダリンパイレーツ
そんななか、いち早く今シーズン終了までの給与保証を選手、スタッフにした球団がある。四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツだ。
この球団はアイランドリーグ発足の2005年に、他球団に先駆けてふたりの選手をNPBに送っている。しかし、そのことが集客につながったわけではなく、2009年シーズン後には累積赤字がかさみ、運営を担っていた地元の広告代理店である星企画の体力では支えきれなくなったため、県と県内すべての自治体が新たに出資し、翌シーズンから”県民球団”として再出発した歴史がある。
その後は、それまで以上に地域密着を掲げ、試合開催はもちろん、地域貢献活動など、地道に行なってきた。
そうした球団だけに、今回のコロナ禍に直面した際も、まずは愛媛マンダリンパイレーツを健全に維持すべく、チームの根幹をなす選手、スタッフが安心して仕事に打ち込めるよう、給与保証の方針をしめしたのだ。
アイランドリーグ各球団が当初予定されていた3月28日の開幕に向けてキャンプインしたのは、3月初旬のことだった。この時、新型コロナウイルスは隣国の中国や韓国で猛威をふるっており、5日には政府が両国からの入国制限強化の措置をとっている。
この少し前、NPBがオープン戦、練習試合について無観客での実施を決定。アイランドリーグもこれにならい、2月28日に練習試合の無観客開催を発表した。
球団も、県内の今治で開始したキャンプ時に感染防止のガイドラインを記載した書類を選手に配布し、プライベートな外出について自粛を通達した。
3月14日に「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」が施行。これを受けて、リーグ当局は開幕を4月10日以降に延期することを発表した。そして3月24日には東京五輪の延期が決定され、26日にはNPB選手の感染が報道されると、4月下旬以降への再延期を決定。そして4月8日に緊急事態宣言が発出されると、開幕の無期限延期が発表された。
球団も再度、感染防止のガイドラインを作成。この際、薬師神績(やくしじん・いさお)球団代表が練習場まで足を運び、先述したように今シーズンの報酬について、選手、スタッフに伝えた。
「なんかその部分だけ切り取られちゃって」と、薬師神代表は苦笑する。
「感染防止のガイドラインを改定したので、その説明と、いろいろな企業やスポーツチームで”給与不払い”のニュースが流れていたので、まずは選手を安心させるために言っただけのことなんです。その時は、シーズン終わりまでとは言っていなかったのですが……。それを地元テレビ局がキャッチしてローカルニュースで流すと、地元紙もそれに追随して……」
メディアで流れたのは、今シーズン終了までの全選手28人、スタッフ4人の給与(総計約7000万円)の支払いを確約するというものだった。
球団の経営母体は、薬師神が会長を務める星企画である。幸い、この業種はリモートワークが可能で、現在のところ、コロナによる大きな業績低下はないという。ただし、今後クライアント側の業績低下により売り上げが減少することは十分に考えられ、予断を許さない状況である。
球団の収支も、試合が開催されなければ、その分のチケット収入と物販収入が入ってこない。他のプロスポーツも基本的に同じであるが、収入の柱は興行収入(チケット代)、スポンサー収入、後援会(ファンクラブなど)収入、物販収入からなる。
独立リーグの場合、損益分岐点は1億5000~6000万円だという。このうちスポンサー収入は4割強。残りについては、試合を行なって、そこで稼がなければならない。後援会収入も、その特典がチケットとグッズからなっているため、試合が開催されなければ話にならない。
つまり、現在は肝心の試合が実施されておらず、選手やスタッフの人件費だけがなくなっていく状態である。その対策として、当面はグッズのネット販売に力を入れているという。
一方、練習についてだが、愛媛球団の場合は地元企業のグラウンドを借りているため、まったくできないわけではなかった。それでも全体練習は禁止し、28人を3つのグループに分けて”自主練習”という形で行なった。
また、選手たちは全員が球場から2、3分のところにある寮で生活しており、外出するのは練習と食材の買い出しぐらいで、コロナ感染から身を守りやすい環境といえる。寮費も月1万円と格安で、独立リーガーの安月給でも生活に困らない。
ただ、今年は15人が新入団という陣容にあって、早くからチームに合流していた高卒、大卒のルーキーたちは、卒業式の出席はあきらめざるを得なかった。薬師神代表が苦悩の決断について語る。
「かわいそうだとは思いましたが、やはり県外への移動は避けようと……。とくにコロナ感染が広がっていた首都圏や福岡に実家のある選手が12人もいたので、愛媛を出るのは禁止にしました」
これまで経験したことのない困難に直面したが、幸い、スポンサーや後援会費についてはオフの間にメドをつけ、コロナ禍の状況でもキャンセルは出なかった。
とはいえ、いつまでも試合をしないというわけにはいかない。そもそも独立リーグの価値は、夢を追う若者に挑戦の場を与えることにある。現在、四国アイランドリーグは前後期制を採用し、各チーム76試合が組まれているが、遅くとも7月までに開幕し、前期と後期の間に設けられていた約1カ月の休止期間をなくし、ダブルヘッダーを行ないながら、閉幕を10月までずらせば消化できる見込みだ。
四国アイランドリーグは、もうひとつの独立リーグであるルートインBCリーグとの「独立リーグ日本一」を決めるグランドチャンピオンシップや、みやざきフェニックスリーグへの参加も行なっているが、まずは公式戦の完全消化を最優先させるという。薬師神代表は力強くこう語る。
「このリーグは2005年に石毛(宏典)さんが夢を追いかける若者たちのために……と始めました。リーグができて15年、NPBとの連携も深まってきて、3月には各球団に現状はどうかと連絡をくれました。せっかくの機運をコロナによってしぼませることなんてできませんよ。若者たちの挑戦する場を守らないと」
コロナ禍によって受けたダメージは計り知れない。それでも、来たるべき開幕に向けて、選手、スタッフたちは懸命に前を向く。