リーガに挑んだ日本人(13) 天才性を感じさせる日本人MF柴崎岳は、実に物語性の強いキャリアをリーガ・エスパニョーラで紡…

リーガに挑んだ日本人(13)

 天才性を感じさせる日本人MF柴崎岳は、実に物語性の強いキャリアをリーガ・エスパニョーラで紡いでいる。

 テネリフェ、ヘタフェに続いて、デポルティーボ・ラ・コルーニャは3チーム目。チームを渡り歩いていることはイコール、求められているということで、実力の証左だろう。リーガ2部からスタートし、1部でプレーした点は特筆に値する。しかし、2部クラブに逆戻りしたことも事実だ。



スペインで3チーム目となるデポルティーボ・ラ・コルーニャでプレーする柴崎岳

「監督にとっては、めちゃくちゃ"おいしい選手"だよ」

 デポルの名将フェルナンド・バスケス監督は、柴崎についてこう語っている。

「(柴崎は)フィジカル的に堂々とし、ダイナミズムも持っている。フットボールのビジョンに優れ、あらゆるプレースタイルに適応できる。守備的ボランチ? 完璧だね。右インサイドハーフ? 左インサイドハーフ? 完璧だ」

 天才・柴崎の真価とは?

 2017年1月、柴崎は、クラブワールドカップでレアル・マドリードと激戦を演じた鹿島アントラーズから、リーガ2部テネリフェへ移籍している。

 当初は適応に苦しんでいた様子だが、4月に入って出場時間を増やし始める。5月には完全に先発を勝ち取り、6月の昇格プレーオフでは切り札的存在になっていた。チームは1部昇格を逃したが、プレーオフ決勝で対戦し、1部に昇格したヘタフェに"個人昇格"した。

 2017-18シーズン、柴崎は1部を舞台に快調なスタートを切っている。開幕以来、4試合連続先発出場。第4節では強豪バルセロナを相手にゴールを決めた。しかしこの試合で左足中足骨を骨折し、戦線離脱を余儀なくされてしまった。年末には復帰したものの、ポジションはなくなっていた。

 柴崎はトップ下の位置で、相手に最大限の打撃を与えることができる。その天才性は、ゴールに近づけば近づくほどに増す。しかし、そのためには4-2-3-1のようなシステムでなければならない。

 ホセ・ボルダラス監督のヘタフェは、柴崎不在の間に4-4-2を採用し、それがはまっていた。

 柴崎はボランチもできるが、ボルダラス・ヘタフェはそこにファイタータイプの選手を要求し、構想から外れた。2トップはストライカーの"聖地"。サイドハーフには走力を含めたプレーインテンシティが重視され、柴崎は適応しなかった。必然的に構想外になったのである。

「柴崎はどのポジションもできるが、トップ下に適性を感じさせる。その決断力と技術力は非凡だ。バイタルエリアで相手を混乱に陥れる」

 長年にわたって日本代表のスカウティングリポートを綴ってきたスペイン人指導者のミケル・エチャリは、2009年に柴崎をスカウティングした時に、激賞するのと同時に、こんなメモもしていた。

「プレーメイクもそつなくやってのけるが、ディフェンシブな能力の持ち主ではない。ボランチで出場する場合は、もうひとりが守りに専念し、負担を軽減することが条件になる。トップ下でなくプレーメイカーなら、もっと強いパーソナリティーを出す必要があるだろう」

 それは予言的だった。

 2018-19シーズン、柴崎はヘタフェで完全に構想から外れてしまい、7試合出場で退団した。市場価値は低下し、結局、1部のクラブとの話はまとまらなかった。卓越したプレーセンスにより、どのポジションでもプレーできるが、1部では「それなりにできる」では足りない。むしろ、天才の脆弱性の方が出てしまうのだ。

 今シーズン、柴崎は2部デポルで再起を図っている。新天地でも、彼のキャリアは起伏が激しい。リーグ前半は有力選手として迎えられ、主力のひとりだった。しかし降格圏に落ちたチームの不振もあって、次第に失速。ルイス・セサル監督に交代してからは冷遇を受け、13節から22節までの10試合は、ケガもあったとはいえ、出場はわずか1試合だった。

 しかし、今年に入ってからチームを率いることになった名将バスケス監督には重く用いられ、柴崎は鮮やかにスタメンに復帰した。3-4-2-1の一角で、攻守の両輪を担う存在になった。チームが連戦連勝で最下位から脱し、一転して称賛を浴びることになったのだ。

「柴崎はバスケス監督によって、『無』から『すべて』の存在に」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、その変貌ぶりを報じている。

 もっとも、デポルは一時、中位まで順位を上げたものの、コロナ禍直前の4試合は勢いを失い2敗2分け。再び、降格圏の19位に後退している。楽観はできない状況だ。

 柴崎は、再び1部の舞台に立てるのか?

「1部は戦い続ける選手のみが立てる舞台だ」

 2部ヌマンシアで2けた得点を記録した福田健二について、当時の指揮官アンドニ・ゴイコエチェアが発した言葉が、ひとつの答えを示唆している。

「2部で10得点するのは簡単なことではない。戦い続けた証だろう。しかし、それでも1部に立てるかはわからない。ひとつ言えるのは、戦うことを忘れないことだよ。うまい選手は、ユースレベルでもごまんといる。でも、戦い続けられる選手は意外にいない。勇敢に、恐れず、高い集中力で挑めるか。それがすべてだよ」
(つづく)