アテネ五輪出場の伊藤友広氏が岩手・宮古市の小中学生6人の成長を実感 アテネ五輪の陸上1600メートルリレーで4位入賞した伊藤友広氏が23日、オンライン会議システム「Zoom」上で行われた「東北『夢』応援プログラム」に出演。昨年3月から遠隔指…
アテネ五輪出場の伊藤友広氏が岩手・宮古市の小中学生6人の成長を実感
アテネ五輪の陸上1600メートルリレーで4位入賞した伊藤友広氏が23日、オンライン会議システム「Zoom」上で行われた「東北『夢』応援プログラム」に出演。昨年3月から遠隔指導ツール「スマートコーチ」を通じ、かけっこ指導を行ってきた岩手県宮古市の小中学生6人と成果発表に臨んだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響によりオンライン上での開催となったが、伊藤氏は子供たちがこの1年で遂げた成長を大いに喜んだ。
東京と宮古を結ぶ距離は約600キロ。昨年11月の中間発表以来となる対面は果たせなかったが、伊藤氏と子供たちが育んだ「繋がり」を感じさせる時間となった。参加した6人の小中学生は、ほぼ全員がオンラインイベントは初体験。初めはやや戸惑った表情を浮かべる子もいたが、「夢応援マイスター」の伊藤氏が「本来はみなさんと一緒に練習をし、成果発表をしたかったです。オンライン上ではありますが、トレーニング動画を用意したので、一緒にトレーニングして楽しみましょう」と声を掛けると、笑顔が咲いた。
コロナ禍により、外で体を動かす機会が減ってしまった子供たち。状況は徐々に緩和してきたが、この先どうなるかは誰にも分からない。そこで、伊藤氏は室内でもできる2種類の「足が速くなるトレーニング」動画を用意し、子供たちとのオンライントレーニングに臨んだ。
1本目は「腕振りのトレーニング動画」だ。速く走るためには、脚だけではなく、実は腕の振りも大きく関係しているという。正しいフォームと間違ったフォームを動画で確認しながら、伊藤氏が伝えたポイントは2つ。「腕と一緒に肩を動かさないこと」と「後ろに腕がきた時にひじを伸ばさないこと」だ。肩が動いてしまっても、ひじが伸びてしまっても、腕を速く振ることはできない。
正しくリズムよく腕が振れるように、ここで伊藤氏から子供たちに課題が与えられた。1分間に300回のリズムを刻むメトロノームに合わせて10秒間、腕を振る練習だ。タッタッタッタッ……。画面で余裕の表情を浮かべる子供たちだったが、続いてチャレンジした1分間に400回のリズムになると必死の様子。その姿を大きな笑顔で見守った伊藤氏は「意外と息が上がりますよね。その場から動かないけど体が温かくなる運動ですし、心肺機能のトレーニングにもなるので、おうちで試して見てください」と声を掛けた。
伊藤氏「小池選手は脚が1秒で5回転。でも実は、子供でもできること」
2本目は「下半身のトレーニング動画」だ。ここでは、直立の姿勢から前に大きく一歩踏み出し戻る運動と、つま先をついたままリズムに合わせてかかとを上下させる運動の2種類が紹介された。いわゆる「ランジ」と呼ばれる動きのポイントは、「体が前に倒れない」「踏み出したひざは90度に」「ひざは真っ直ぐ正面を向く」の3つ。「お尻と太ももの裏が刺激されていれば正しいフォームです。しんどい運動ですが、これは五輪選手もやっている。回数は多くなくていいので、いいフォームで左右合わせて10回くらいやってみましょう」と、伊藤氏はアドバイスを送った。
つま先をついたままリズムに合わせてかかとを上下させる運動は、壁に両手をつき、やや前傾姿勢で実施。腕振りトレーニングと同じように、子供たちはメトロノームに合わせて1分間に400回のリズムからスタート。続いて1分間に500回のリズムになると、その速さに思わず苦笑いが浮かんだ。伊藤氏が「100メートルを9秒98で走る小池(祐貴)選手は、脚が1秒で5回転します。でも実は、これは子供でもできること。みんなも、これまでスマートコーチでやってきた『前に大きく進むトレーニング』に加えて、今日やった『自分の体を速く動かすトレーニング』もすると、もっとスピードが出るようになると思います」とアドバイスを送ると、子供たちは大きく目を輝かせた。
動画トレーニングが終わると、いよいよ1年間の成果発表だ。伊藤氏は子供たちから送られてきた50メートルのタイム測定動画を事前にチェック。この1年間で50メートル走が9秒台から8秒台になったという藤原大誓くん(5年)には「全体的に体の動きが小さいので、大きく使うことを意識してみよう」とアドバイスを送り、長距離・短距離ともにタイムが縮まったという清水美弥子さん(中1)には「脚が内側を向かないように、内転筋や中臀筋(ちゅうでんきん)を強化すると、もっとスピードが上がると思います」と言葉をかけ、簡単なトレーニング法も伝えた。
状況にフィットする遠隔指導ツール「スマートコーチ」 伊藤氏「普通になるのでは」
初めて参加するオンラインイベントに、安原掬乃さん(中1)は「いつもとは違うし、伊藤さんやみんながすぐ隣にはいないけど、身近にいるように感じられました」と笑顔。長澤奏汰くん(6年)は「初めてなので慣れなかったけど、思っていることがちゃんと言えてよかったです」と充実の表情を浮かべた。
イベントの締めくくりに、伊藤氏は「こういった状況の中でもみんなと会って、走りや夢・目標についてお話できたことが、僕にとってすごくうれしかったです」と、オンラインながらも「繋がり」を再確認できた喜びに言及。さらに「みなさんはスマートコーチを通じて、動画を見てトレーニングすることに慣れている、時代を先取りしてきた人たち。こういう環境も使いつつ、普段のクラブのトレーニングもしつつ、両方かけあわせたハイブリッドでこれからも頑張ってください」とエールを送った。
公益財団法人「東日本大震災復興支援財団」の協力により、子供たちの様々な夢と目標の達成をサポート「東北『夢』応援プログラム」。伊藤氏は2016年から「夢応援マイスター」として参加し、子供たちを遠隔指導し、絆を深めてきた。遠隔指導ツール「スマートコーチ」を使った指導について、「コロナ禍の状況にはすごくフィットするもの。かなり時代に先駆けてやっていましたが、スポーツでもビジネスでもオンラインに対する障壁が下がってきた今、こういうことが普通になるのではないかと思います」と手応えを語った。
もちろん状況が許せば、子供たちと直接会い、声を掛け、成長を感じるのが一番いい。子供たちに「コロナが落ち着いたら、みなさんと直接会いたい」とメッセージを送った伊藤氏の思いが、いつの日か実現することを願いたい。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)