大谷翔平の打撃の素晴らしさは言うまでもない。3割を超える打率を残しながら、四球をよく選び、長打も多い。質の高いフライを遠くに飛ばす力は、外国人選手を含めたパワーヒッターの中でもトップレベルにある。そんな打者としても一流の仲間入りを果たした大…

大谷翔平の打撃の素晴らしさは言うまでもない。3割を超える打率を残しながら、四球をよく選び、長打も多い。質の高いフライを遠くに飛ばす力は、外国人選手を含めたパワーヒッターの中でもトップレベルにある。そんな打者としても一流の仲間入りを果たした大谷を、リベンジを懸けて挑むソフトバンクが、攻略する方法はあるのだろうか。

■大谷攻略のカギは? 低めのボールゾーンに僅かな隙、少しでも浮けば長打のリスクも

 大谷翔平の打撃の素晴らしさは言うまでもない。3割を超える打率を残しながら、四球をよく選び、長打も多い。外野フライが本塁打になる割合は極めて高く、質の高いフライを遠くに飛ばす力は、外国人選手を含めたパワーヒッターの中でもトップレベルにある。そんな打者としても一流の仲間入りを果たした大谷を、リベンジを懸けて挑むソフトバンクが、攻略する方法はあるのだろうか。

 攻略の手がかりを得るべく、大谷のコースと高さ別の打撃成績を見ていく。図1の左は打率、右はISO(Isolated Power:長打率から打率を引いた、打者の長打力を計る指標)の数値で、打率だけではつかめない長打の出やすさの傾向が表れる。

 打率では、ストライクゾーン内の投球に対しては、いずれのコースもかなりの高い数字を記録している。特に真ん中から内側のボールに対して強く、内角であればストライクゾーンを外れてもよく打っている。かといって外角に弱いわけではなく、コースについては広く対応を見せている。

 長打力を表すISOも、高い数値を残しているのは内角だ。内角の窮屈な球をセンターから左方向へ運び本塁打にしたシーンは何度かあったので、印象に残っているファンも多いと思うが、それはデータにもよく表れている。

 打率、ISOでも数字が上がっていないのは、低めのボールゾーンだ。どんな打者でも簡単に数字が上がるゾーンではないが、大谷を打ち取るには、ここを使うしかなさそうだ。

■フォークに対しスイング113回中54回空振り

 大谷は今季75個の空振り三振を喫しているが、3つ目のストライクを奪われた球種で最も多かったのは、フォークボールで25球となっていた。

 空振り三振に限らず、今季フォークボールに対してスイングしたケースは113回あり、54回空振りした。空振り率は47.8%。全打者を対象にした際の数字は32.1%なので、大谷がフォークボール、落ちる球に対し結果を残せていないのはひとつの事実だ(もちろん、パワーヒッターである大谷に強振が多いことも影響してはいる)。図2は54回の「大谷のフォークボールに対する空振り」が、どこに投じられた球に対し喫したかを示したものだが、54球中46球が低めボールゾーンの球でもあった。

 当然、見逃されればボールになる。カウントを悪くする可能性も高く、投げ続けるのは難しいが、この低さにフォークボールを集められれば、大谷も簡単に安打を重ねることはできないだろう。

 しかし、甘いフォークボールは危ない。少しでも球が浮けば長打の危険性は高まる。事実、9月10日の楽天戦、安樂智大が投じた低めのボールゾーンを狙ったフォークボールが、ほんのわずかストライクゾーンに入ると、大谷は確実にとらえ右中間への特大本塁打にした。フォークボールを精密に操れる投手は限られていることを考えると、対策と呼べるかどうかは微妙なところかもしれない。

■“柳田シフト”に続く“大谷シフト”も有効か

 別の対策として“大谷シフト”を提案したい。大谷はゴロ打球が多い打者である。ゴロ率(全打球に占めるゴロの割合)は、48.0%、パ・リーグ全打者の平均のゴロ率は47.7%なので、とりわけ高いわけではない。

 だが、一般的にスラッガータイプの打者はゴロ率を低く保ち、フライを多く打つ。例えばDeNAの筒香嘉智やヤクルトの山田哲人はそれぞれ33.1%、35.4%と低いゴロ率を記録し、高い確率で打球に角度をつけている。そうした傾向から考えると、大谷は長打力を備えている割に、ゴロが多い打者だ。

 これはソフトバンクの柳田悠岐に通じるものがある。柳田と大谷はゴロが多いだけでなく、痛烈な打球スピードと足の速さで、そのゴロを安打にするケースが非常に多い。そうした柳田のゴロ安打を防ぐため、パ・リーグの多くの球団が採用したのが、遊撃手を二塁ベースの後ろに置くなど、全体的に内野手をライト方向に寄せる“柳田シフト”である。柳田は春先、このシフトの網に何度もかかり安打を失った。

 大谷に対してもこれが有効になるはずだ。今季の大谷のゴロ打球は、センターからライト方向への打球が76.4%と全体の4分の3を占める。その中でも一塁寄りではなく二塁寄りの打球は、全体の47.3%と非常に多かった(図3)。今季、大谷が三塁ゴロで凡退したケースはわずか2度。走者がいなければ、三塁手を定位置に置くことに固執する必要はない。

 そこでMLBで多くの球団が採用する、三塁手をライトの前に置き、センターからライト方向へのゴロを処理する人数を増やすシフトを敷けば、効果が生まれる可能性がある。もちろん、シーズン中に試されていなかった以上、実施される可能性は低いが、多少の守備陣形の変更は行ってもよいはず。大谷が投手の対策だけで打ち取ることが難しい打者になっているのは疑いようがない事実。打ちとるために、なりふりかまわず策を講じるべきではなかろうか。そもそも大谷の“二刀流”こそが、奇策中の奇策なのだから。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を2016年3月27日に発売。算出したスタッツなどを公開する『1.02 – DELTA Inc.』(http://1point02.jp/)も2016年にオープン。

DELTA●文 text by DELTA