ドイツ各州では、入店者数の制限や、マスクの着用義務、座席間の距離の確保などの規則は設けられているものの、商店や飲食店などの営業が再開し、徐々にコロナ禍前の日常が戻ろうとしている。



無観客で再開したブンデスリーガ。ドルトムント対シャルケの一戦

 そうしたなか、5月16日、他の欧州強豪リーグに先駆けてブンデスリーガが再開した。

 とはいえ、前日に行なわれたドイツ国営第1放送『ARD』のアンケートでは、56%が「5月16日のブンデスリーガ再開に反対」し、同じく国営第2放送局『ZDF』のアンケートでは、62%が「今シーズンのリーグを中止すべき」と回答。早期の再開に消極的な意見も多かった。

 一般的な市民の間で賛否が分かれるなか、再開前には、バイエルンのカール・ハインツ・ルンメニゲCEOが「世界中で10億人が視聴するだろう」と話していたが、国内の視聴者数は通常の2倍に増加した。無観客で再開された土曜日のブンデスリーガは、放送局の『スカイ』によれば、のべ600万人が視聴したという。これは事前に危惧されていたような、スタジアムや広場にサポーターやウルトラスが集まることがなく、それぞれがテレビの前で観戦していたことを示している。

 サッカー界からの反応は好意的なものが多かった。ミランのズラタン・イブラヒモビッチは、「有言実行。これがドイツ人だ。グラツィエ、ブンデスリーガ!」と自身のSNSに投稿すれば、マンチェスター・シティのドイツ代表、イルカイ・ギュンドアンも「長い空白期間のあとで、ようやくサッカーを見ることができて楽しい」と自身のSNSに投稿した。

 ブンデスリーガ関係者の試合後の感想は、ドルトムントCEOのヨアヒム・ヴァツケの次の言葉に集約されるだろう。

「これまでにないほど緊張していた。試合が終わった今は、ホッとしている。幸せで、感謝の念でいっぱいだ」

 ヴァツケCEOは、元監督のユルゲン・クロップ(現リバプール監督)やレアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長から祝福のメッセージを受け取ったことを紹介しながら、さらにつづけて、「まずは、なによりも政界に感謝している。試合の開催を許可してくれたのだから。コロナ禍のなか、欧州のどこよりも早くリーグ戦を再開できたのは、彼らのおかげだ」と、ドイツリーグ機構(DFL)と交渉しながら、再開の可能性を探った各州、そしてドイツ政府に感謝の念を表した。

 ピッチ内への影響はどうだっただろうか。ライプツィヒのユリアン・ナーゲルスマン監督は試合前、「観客がいないため、ホームチームの優位性が失われる」と話していた。今節、ホームチームで勝利したのは、ドルトムントのみ。だが、9試合中5試合で上位陣がアウェーだったため、参考にしづらい面もある。

 日曜18時開催のウニオン・ベルリン戦を終えたバイエルンのトーマス・ミュラーは、「無観客試合は、19時にナイターの照明のなか行なわれる典型的なシニアリーグ(アマチュアのシニア層の試合)の雰囲気に少し似ていた。ウニオン・ベルリンのスタジアム独特の熱い雰囲気がなかったことは、アウェーの僕らにとっては少し有利に働いたとは思う」と試合後に振り返った。

 新型コロナウイルス感染防止対策のため、入場行進がなくなったことやゴールパフォーマンスなどに慣れる必要があるものの、健康面での不安は感じなかったという。むしろ、ようやくサッカーができる喜びのほうが大きかったようだ。

「8月の開幕戦のように少しドキドキしていたよ。ようやく試合ができるんだから。でも、何かしらうまくいかないのではないか、という不安はなかった。自分たちが何をすべきか、どんな環境で試合をするのかもわかっていたからね」(ミュラー)

 また、宿敵シャルケとのルールダービーに4-0と快勝したドルトムントのマッツ・フンメルスは、センターバックの選手としてメリットがあることも明かした。

「無観客試合では、普段よりも多くコーチングで指示を伝えることができる。8万人の観客の声援のなかでは、攻撃陣まで声が届かなくて、指示ができないからね」

 1節から25節までの走行距離などの数値の平均と、今節の数値の比較も発表されたが、数字上では中断前と大きな差はないようだ。スタッツは次のとおり。

(1試合平均。左の数字が中断前。右の数字が第26節)
得点 3.25点-3.00点
シュート数 26.8本-24.3本
1対1の頻度 209.9回-207.2回
イエローカード 3.7枚-4.0枚
アクチュアルプレーイングタイム 57.05分-59.00分
走行距離 116.2キロメートル-116.4キロメートル
スプリント数 220.3回-220.1回

 このデータから、身体的なコンディションが落ちていないことが見て取れる。とはいえ、短い準備期間でいきなり本番に入ったことは、ケガによる離脱が頻発する恐れもある。実際、ドルトムントのマルコ・ロイスが、シャルケ戦後に筋肉系のケガで戦列を離れ、今季絶望の可能性も伝えられている。

 また、ルールダービーの笛を吹いたデニス・アイタキン主審も、「もちろん、観客がいたら、ピッチ上で選手たちが白熱するシーンもあったでしょう。だが、観客がいなくとも、試合自体はこれまでと同じように強度が高かった。我々審判団も、長い休暇から、急に公式戦に入ったためにリズムを掴まなければならなかった。90分間集中力を保つためには、スタンドからの熱気が伝わってきたほうが助かるときもある」と無観客試合の難しさを説明した。

 ケガや感染者が出て、試合を延期する可能性も考慮し、DFLはリーグ開催期間を7月まで延長した。また、再度中断した場合の降格や昇格については協議中だ。この再開の判断が正しかったのか、誤っていたのか、現段階ではまだわからない。

 ドイツ政府の感染症対策の専門機関ロベルト・コッホ研究所は、新型コロナウイルスの潜伏期間は、平均5~6日、最長で14日程度としていることから、再開した影響は6月上旬に出てくると予測できる。今週からは、各チーム全体の隔離も終わり、選手は自宅で通常どおりの日常生活を過ごすことになる。5月22日にはもう次の第27節のヘルタ・ベルリン対ウニオン・ベルリンの試合が開催されている。

 選手や家族にとっては、まだ気の抜けない日々がつづく。