それぞれの国や地域には、国技と呼ばれる伝統的なスポーツや絶大な人気を誇るスポーツがある。それらは同時に世界大会での勝利を目指して競技力向上に力を入れていることもしばしばだ。では、その土地で人気のあるパラスポーツは競技としても発展しているのだろうか? “世界のご当地パラスポーツ”を調べてみた!

その土地で人気のスポーツは世界でも強い!?

例えば、アメリカを代表するスポーツの一つにバスケットボールがあるが、車いすバスケットボールでもアメリカは言わずと知れた強豪だ。2016年のリオパラリンピックでは男女ともに金メダルを獲得している。一方、オーストラリアンフットボールやラグビーが人気のオーストラリアは、車いすラグビーも強い。東京2020パラリンピックで金メダルを狙う日本のライバルでもある。

また、韓国と言えばテコンドーだが、上肢障がいがある人のためのパラスポーツとしても普及しており、2021年夏の東京大会でパラリンピックの正式競技としてデビューする予定だ。

ここでは、パラリンピックでの競技採用を目指していたり、日本ではまだそれほど知られていないが今後注目のパラスポーツを紹介していこう。

インドが強豪! 音源入りのボールでプレーする【ブラインドクリケット】
©Blind Sports & Recreation Victoria

日本ではあまりなじみがないかもしれないが、世界ではサッカーに次いで競技人口が多いと言われるクリケット。調べてみると……インドをはじめとする南アジア、イギリス、オーストラリアに視覚障がい者のためのクリケットが! 

起源は1922年のオーストラリア。一般のクリケットと同じ11人制で、転がすと音の鳴るボールを使用する。障がいの程度が重い「B1」4人、中程度の「B2」3人、最も軽度の「B3」4人で構成され、B1の選手が投球する場合は、どの方向に投げたらいいかウィケットキーパー(捕手)が情報を伝える。

ブラインドクリケットのワールドカップは2012年から2年に一度の頻度で行われ、2018年の大会は決勝でインドがパキスタンを下し優勝を飾っている。南アジアではバングラデシュ、スリランカでも普及しており、対抗戦で強化を図っていることは想像に難くない。しかし、この競技の母国・オーストラリアも負けてはいない! イギリスと定期的に親善試合を行い、交流を深めているようだ。その他、南アフリカなどにもチームがある。

©Blind Sports & Recreation Victoria

ちなみに、クリケットが盛んな国々には、身体障がいや学習障がいのある若い人たちを対象とした、卓球台でプレーする「テーブルクリケット」という競技もあるのだそう。

さすがは世界で人気のスポーツ!

北欧を中心に人気! 電動車いすで巧みにボールをさばく【電動車いすホッケー】
©Lauri Jaakkola/Finnish Paralympic Committee

ホッケーと聞いて、思い浮かべるのはやはり氷上の格闘技といわれる「アイスホッケー」や芝の上で行う「フィールドホッケー」だろう。しかし、アイスホッケーが盛んな北欧や東欧などでは、同様に「フロアボール」も人気のスポーツだ。フロアボールとは、プラスチック製の穴の開いたボールと、格子状のブレードがついたスティックを使って相手のネットにボールをゴールする、いわば「室内で行うホッケー」。天候を気にせず屋内でプレーでき、アイスホッケーと比べ高価な用具を必要としないことも人気を後押しする。

そのフロアボールにも、電動車いすに乗ってプレーする重度障がい者のための競技がある。その名も「電動車いすホッケー(パワーチェアホッケー)」。主に筋ジストロフィーや脳性まひなどの重度障がいの選手がプレーする。1978年にオランダでトーナメントが始まり、80年代後半にはクラブチームによる国際大会が開かれた。ドイツ、デンマーク、イタリア、スイス、オランダ、ベルギー、フィンランドがこの競技の強豪だ。

一般のフロアボールより小さい室内のコートで行われ、両チームともゴール前のキーパーを含む5人で対戦する。試合は1ピリオド20分の2ピリオド制。スティックを手に持つことが難しい場合は、電動車いすに取り付けることができる「Tスティック」という特殊なスティックを使用。チームには最低2人のTスティックプレーヤーを置かなければならないルールとなっている。この競技の国際統一組織であるIWAS Powerchair Hockeyには、現在22ヵ国が加盟しており、日本もその一員だ。興味のある人はぜひこの機会に競技について調べてみてはいかが?

©Lauri Jaakkola/Finnish Paralympic Committee
型も組手もあり! 日本生まれの【車椅子空手】
©X-1

他国の人たちがイメージする日本固有のスポーツは、相撲や剣道などの武道だろう。パラリンピックでは視覚障がい者の柔道がメジャーだが、東京大会でオリンピック競技になることで注目されている「空手」にも実は、座った状態で行う「車椅子空手」があるのだ!

上半身だけで取り組む車椅子空手は、2000年に東京都内で生まれた。細かいルールは大会により異なるが、車いすに乗れば老若男女問わず健常者も参加できるのがこの競技の醍醐味。「生涯空手」の理念で考案され、リハビリの延長として取り組んでいる人もいるという。近年は日本空手松涛連盟が主催する全日本選手権と同時開催で大会も実施されている。

一般の空手と同様に「型」と「組手」の2種類があり、仮想の相手に対する攻防の技を一連の動きにまとめ、演武の美しさを競う「型」には、レベル別に「初輪」「二輪」「三輪」「四輪」「五輪」と呼ばれる5つの型がある。

対戦型の「組手」では、突きなどの攻撃技は寸止めがルールで、打撃を相手の体に当ててはいけない。車いすなので蹴りはないが、間合いを制する技の正確性とスピードに加え、それらをコントロールする車いす操作が見どころだ。

世界で愛好家が増えているという車いす空手は、パラリンピック競技採用を目指している。日本生まれの武道「車椅子空手」にぜひ注目していきたい。

©X-1
MLBチームもサポート! アメリカで盛んな【車椅子ソフトボール】
©Kei Takeuchi/JWSA

車椅子空手と同様に、2028年のロサンゼルス大会からのパラリンピック競技採用を目指しているのが「車椅子ソフトボール」である。

発祥の地アメリカでは1970年代から全米選手権が行われており、MLB(メジャーリーグベースボール)の球団が運営をサポートしているクラブチームもあるほど盛んなスポーツだ。

日本でも普及は進むが、その歴史はまだ浅い。2012年に初めて有志により日本代表チームが結成され、翌年には第1回全日本車椅子ソフトボール選手権大会が北海道で開催された。2015年には、埼玉西武ライオンズによってプロ野球球団初の主催となる「ライオンズカップ車椅子ソフトボール大会」が実現。着実に認知度を高めており、現在国内では18のチームが活動している。

競技は男女混合の10人制。原則的にスローピッチ・ソフトボール(投手が規定の高さに達する山なりのゆるやかな球を投げて行うソフトボール)の公式ルールに則って行われる。車いすを操作するため、グローブは着けず、素手でボールをさばく。選手には障がいに応じたポイントが与えられており、チーム構成はそのポイントが21点以内と定められているが、障がいのあるなしに関わらず同じフィールドでプレーできるのが大きな魅力。

©Kei Takeuchi/JWSA

車椅子ソフトボールは屋内の体育館でも行えるが、試合会場は公園や球場の駐車場だったり、ショッピングモールの駐車場だったりする。一見すると、そんなところで?と思うかもしれないが、アスファルトなどの固い地面は車いすで動くには都合がいいのだ。

ちなみに、日本車椅子ソフトボール協会の会長は、オリンピックに3大会出場した元ソフトボール選手の髙山樹里氏が務めていて、競技の普及に尽力しているのだとか。

パラリンピック競技入りを果たせば、いかにも日本で人気が爆発しそうな競技だ。

ハワイを中心に海外で根づく【デフサーフィン/パラサーフィン】
©Sean Evans/ISA

その昔、ポリネシアで生まれたといわれるサーフィンは、航海術のひとつとして、生きていくための重要な技術であった。日本では戦後に認知されるようになったが、波乗りは江戸時代から行われていたと伝えられ、今ではマリンスポーツの代表格だ。

現在、障がいのある人を対象としたサーフィンの大会は、聴覚障がいのデフサーフィンと、パラサーフィン(身体障がいと視覚障がい、別名=アダプティブサーフィン)がある。初の大規模な国際大会としては、デフサーフィンが2005年に「プレワールドデフサーフィン大会」を、パラサーフィンは2015年に「ISA世界パラサーフィン選手権」を行った。参加国と選手数は回を重ねるごとに増え、日本でもデフサーフィンとパラサーフィンの国際基準の大会が実施されている。

直近では2020年3月、アメリカのサンディエゴでパラサーフィンの世界選手権が開催され、日本からも7人が出場、2人がメダルを獲得した。さらに団体では20ヵ国中8位という結果を残している。

ISA(国際サーフィン協会)が定めるパラサーフィンのクラスは、男女別に8クラス(立位=3クラス、膝立ち=1クラス、うつ伏せ=2クラス、視覚障がい=2クラス)があり、世界20ヵ国の選手が集結した同大会には、カヌーやトライアスロンなどのパラリンピアンの姿もあった。

©Sean Evans/ISA

東京大会からオリンピック競技に新たに加わったことで関心を集めるサーフィンだが、障がい者が行うサーフィンは日本ではまだメジャーとは言えない。一方、海外では一般のサーフスポットで障がい者サーファーに出くわすことは珍しくないと聞く。

東京大会開催という大きな波が過ぎ去った後も、誰もが楽しめるスポーツの文化はよりよいかたちで発展を続けるか。新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、日常にスポーツが戻ってきたら、そんな視点でさまざまなパラスポーツを見てみるのもまた面白いかもしれない。

text by TEAM A

key visual by Lauri Jaakkola/Finnish Paralympic Committee