本物さながらのサッカーゲーム。eスポーツは誰でも気軽に楽しめる 新型コロナウイルスの感染拡大による影響が広がるなか、eスポーツに注目が集まっている。野球やサッカーなどのリアルスポーツが試合の延期を余儀なくされている一方、eスポーツは対戦か…

 


本物さながらのサッカーゲーム。eスポーツは誰でも気軽に楽しめる

 新型コロナウイルスの感染拡大による影響が広がるなか、eスポーツに注目が集まっている。野球やサッカーなどのリアルスポーツが試合の延期を余儀なくされている一方、eスポーツは対戦から配信まですべてオンライン上で完結させられるため、「3密」を避けて大会を開くことができる。そのため、リアルスポーツを一時的に代替するエンタメとして、eスポーツに白羽の矢が立つことが増えているのだ。

 だがeスポーツとて、新型コロナの影響を受けるほかの競技と同じく「変化」を求められていることに変わりはない。eスポーツ業界の現状や、コロナを乗り越えた先の課題について、サッカーゲームの元eスポーツ選手で、現在はさまざまな形でeスポーツの普及活動に関わっている羽染貴秀氏に話をうかがった。

--そもそも「eスポーツ」とはどんなものでしょうか。

「eスポーツは『エレクトロニック・スポーツ』の略称で、広義では電子機器を用いて行なう娯楽や競技、スポーツを指します。特にコンピューターゲームを用いた対戦をスポーツとして捉える言葉で、諸説ありますが1990年代後半から使われ始めました。

『陸上競技』には、100m走、ハードル、やり投げなど、さまざまな種目が含まれていますが、『eスポーツ』もそれと同じで、電子上のフィールドで行なわれるさまざまな競技を包括した言葉です。『ウイニングイレブン』や『FIFA』、『実況パワフルプロ野球』のようなスポーツゲーム、『ストリートファイター』といった格闘ゲームなど、ルールが異なるさまざまな競技が存在します」

--羽染さんは『FIFA』の元選手ですが、『FIFA』はどのような盛り上がりを見せているのでしょうか。

「国際サッカー連盟(FIFA)は2004年から『FIFAインタラクティブワールドカップ』、2018年から名称を変更し『FIFA eWorld Cup』という世界大会を開催しています。男子・女子サッカーと同じような大きなカテゴリーのひとつとして『eサッカー』が認識されている状態ですね。

 わかりやすい事例として、FIFA選出の年間最優秀選手が表彰される『The Best FIFA Football Awards』に、FIFA eWorld Cupの優勝者も招待されます。サッカー選手なら誰もが憧れる場に、eサッカー選手も分け隔てなく招かれるのです。

 私が2012年に出場した時は年に1回しか大会がなく、賞金が約200万円ほどの規模でした。現在はツアー制になっていて、『FIFA』の開発会社が主催する大会や、『eJ.LEAGUE』のような各国のリーグ戦などで上位に入ってポイントを集めないと世界大会に出場できないという、非常に大規模な大会となりました。

 また、マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンといった欧州のビッグクラブが『FIFA』のプレーヤーと契約する動きも盛んで、クラブチームのユニホームに身を包んだ選手をeスポーツ大会で見かける機会も増えました。さらに、アーセナルのメスト・エジル選手や、レアル・マドリードのガレス・ベイル選手、往年の選手ですとルート・フリット氏などがゲーマーと契約して、独自にeスポーツチームを作り始めています。

 日本でも『eJ.LEAGUE』が2年前から開催されていますし、鹿島アントラーズや湘南ベルマーレ、横浜F・マリノス、東京ヴェルディといったJリーグのチームがeスポーツ部門を立ち上げるなど、活発な動きを見せています」

--『FIFA』以外にも、eスポーツとして盛り上がっているタイトルは多いですよね。

「グローバルでは『フォートナイト』というバトルロイヤル形式のゲームで大規模な大会が展開されています。昨年、予選も含めると4,000万人以上も参加した大会が開催され、優勝した16歳のプレーヤーが3億円という莫大な賞金を獲得するという、夢のようなことも起きています。

 日本国内でも『ぷよぷよ』や『ウイニングイレブン』、『実況パワフルプロ野球』、『グランツーリスモ』といったタイトルでのeスポーツ大会が行なわれています。『ストリートファイターV』などで活躍している38歳のウメハラ選手は、世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマーとしてギネスに認定されています。

 種目やジャンルが異なるので単純に比較できませんが、16歳と38歳、年齢の離れた選手が同じeスポーツという舞台で戦っているという多様性は、eスポーツならではだと思います」

--そんな中、eスポーツも少なからず新型コロナの影響を受けていますか。

「明確に経済的な損害があったという話はまだ聞いていませんが、eスポーツ大会の多くが延期、ないしは中止を余儀なくされていることは事実です。

 一方、世界各地での外出制限やロックダウンの影響を受けて映像配信プラットフォームである『Twitch』や『YouTube Gaming』の視聴者数が増加しているというデータも出ているんです。eスポーツはオンラインでも大会を開催できる強みがあるため、配信ビジネスは今後も伸びると思います。オンライン化が進んで海外プレーヤーと遅延がないようないい対戦環境で練習・試合ができるようになれば、日本の選手が注目されて海外チームに移籍するケースも増えるでしょう。

 5Gが普及すればモバイルゲームの勢いがさらに加速するタイミングがあるでしょうし、モバイルにシフトすればインドネシアやインドなど、平均年齢が低くてゲーム人口も多い国がeスポーツの覇権を握るのでは、とにらんでいます。

 eスポーツにはリアルスポーツとは異なる特徴があるので、そこをどう生かしていけるかが今後の発展のカギになると思います」

--今後eスポーツが盛り上がっていくためには、具体的にどんなことが必要なのでしょうか。

「コロナの影響でサッカーや野球、テニスなどリアルスポーツの代替として、もしくはチャリティーイベントとしてeスポーツ大会が開催され、大きな注目を浴びています。しかしコロナ禍が去った後、eスポーツが忘れられては意味がありません。リアルスポーツのファンが今後、eスポーツの大会やイベントを通じて、eスポーツのファンになり、選手やチームを応援してもらえるような工夫が大事だと思っています。今は、選手や大会運営スタッフが非常に高いモチベーションで取り組んでいます。

 また、記事をご覧になっている方には『しょせんゲーム』という偏見を持たずにeスポーツを見てほしいですね。ほとんどのeスポーツの大会やイベントは、動画配信プラットフォームで簡単に視聴できます。

 まずは選手の本気の顔や、ファンの熱量を見ていただきたいです。そして大会やイベントが会場で開催されるようになったら、実際に足を運んで現場の熱気を肌で感じてみてください。それを家族や友人などに拡散して、eスポーツの認知がより広がるようにお手伝いいただければ嬉しいですね」

Profile
羽染貴秀
1991年生まれ。元々サッカープレーヤーであり、『FIFA』と出会ってからeスポーツ選手として活動。2012年には「FIFA eWorld Cup」の前身である「FIFAインタラクティブワールドカップ」に出場するなど実績を残す。現在はeスポーツの業界団体に勤めるかたわら、『FIFA』大会の実況解説をするなど、eスポーツ業界の活性化に力を入れている。