かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FIN…
かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。
アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FINEPLAY INSIGHT」。今回は、前回までのマーケット理解から変わって、少し未来の話を俯瞰してみたいと思います。昨今の新型コロナウイルスの影響についてというよりは、もう少し手前から起きていた構造変化に着目してみたいと思います。
スポーツにメディアの力はもういらない?
これまでこのFINEPLAY INSIGHTでは、一貫してアクションスポーツにとっての「メディア環境」の重要性を説いてきました。これまでも見てきたように、メディアの影響力がスポーツのマネタイズにとって大きな役割を果たしているのは事実ですが、一方で旧来のテレビ放映に頼らず成功する事例が出てきているのも事実です。アクションスポーツに代表される発展途上のスポーツにとって、こうした事例から学ぶヒントはとても貴重です。
例えば、新日本プロレスやプロ野球チームは、現在はテレビ放映収益に頼らず業績をV字回復させてきています。新日本プロレスのV字回復を支えた中山淳雄さん(ブシロード)の著書『オタク経済圏創世記』では、「テレビからの独立採算」こそ、2010年代以降のコンテンツがグローバル化するカギだとしています。特にプロレスは昭和時代からスターレスラーが海外の団体で試合するなど伝統的に国境意識が薄く、現在も米WWEとの交流を積極的におこない、選手、試合ともにグローバルコンテンツ化に成功しました。
ただし、これはテレビでの試合放映についてであって、選手がテレビに露出することを否定するものでないことには注意が必要です。プロレスラーもプロ野球選手も、試合そのものの放映はなくとも様々な形でメディアに露出し、お茶の間の目に入り続けていることも忘れてはならないでしょう。「メディアの力が不要」になったのではなく、「マスメディアの試合放映が必ずしも成功の必要条件ではなくなった」といえるかもしれません。
新日本プロレスは試合の動員も好調で、2020年初に行われた東京ドーム2連戦では2日間で70,071人を動員するなど、興行が収益の強い柱に育っています。しかも試合動員のうち4割は女性で、レディースシートを設置するなどの取り組みを積極的に行っています。
人口の半分は女性ですし、デートコースは女性のためにありますから(笑)、女性を味方につけられるようなライブコンテンツの設計は、今も昔も非常に重要です。
プロ野球チームもまた、女性を味方につけて動員数を回復させてきました。「カープ女子」を味方につけた広島東洋カープの他、観客の女性比率が約6割に迫る女性ファン向けイベント「YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL」などの施策を通じて着実に女性の支持を獲得してきた横浜DeNAベイスターズもその一例です。
女性を味方につけることによって獲得できるもう一つの大きな機会に、物販が挙げられるでしょう。お気に入りの選手名でデコレーションを施したうちわを高々と掲げるプロ野球やプロレスの女性ファンは、ジャニーズアイドルのファンさながらの熱の入り具合に思えます。
メディア収益の代わりに、ファンと直接つながって収益機会をつくる
また、新日本プロレスの動画視聴アプリ「新日本プロレスワールド」(月額999円)の会員数は、2019年7月期末の決算報告書ベースで約10万人に達しています。なお、うち半数は海外のユーザーだそうです。単純計算で月間1億円の売上、アプリストアの手数料を20%だとしても、月額数千万円、年間10億円近い収入機会を得ていることになります。
既述した興行動員の回復と合わせ、海外ファンや女性ファンをうまく取り込み、自前のメディアやサービス、そして物販を通じて直接的な収益を得るモデルは、(大変失礼な言い方ですが)苦境に立たされた日本国内のスポーツチームや団体だからこそ行き着いたモデルなのではないかと思います。
実際、世界のメジャーなスポーツリーグやチームは、コンテンツがグローバルに配信される機会がまだまだある(=世界中のメディア放映需要が底堅い)ことから、メディア収益のウエイトが依然として非常に大きくなっています。
下の表に、MLB、横浜DeNAベイスターズ、WWE、新日本プロレスの収益比率を比較してみました。本当は野球もヤンキースなどチーム単体とベイスターズを比較したかったのですが、データが見つからなかったのでリーグとチームで比較しました。
プロレスやプロ野球は、興行と物販へシフトして回復。メディア収益に頼らない独自のモデルに。
この表をみれば、アメリカのメジャースポーツは群を抜いてメディア収益(+それに伴うスポンサー収入)が高い一方、ベイスターズや新日本プロレスは興行や物販の比率が高いことが伺えます。前述した新日本プロレスのアプリ収益はメディア収益(20%)のさらに一部分ですから、いかに興行と物販で収益を上げているかがよく分かると思います。それにしても新日本プロレスの物販収益は年間27億円ほどで、収益の半分を物販で稼いでいるのですから、驚くべき数字です。
プロ野球チームにしろ新日本プロレスにしろ、選手のメディア露出と掛け算して、言い方は悪いのですがアイドルさながらのファンダム化を成し遂げ、従来のメディア収益偏重を脱却した収益モデルを築いていることは非常に興味深いと思います。
これからファンコミュニティを地道に育てていくフェーズにあるアクションスポーツの多くは、ベイスターズや新日本プロレスに学べるところがたくさんあるのではないでしょうか。たくさんの記事や書籍も出ていますので、ぜひ目を通してみてください。
「脱メディアモデル」の機会はどこにある?
さて、従来のメディア収益による重要度を手放すとき、興行や物販の他に、スポーツにとっての新しいビジネス機会とはどういうことがありえるでしょうか。前述した新日本プロレスのアプリもそうですが、僕はやはりテクノロジーによる機会獲得に光明があるのではないかと思います。
スポーツのテクノロジーはスポーツテックと呼ばれます。僕はこの分野の専門家ではないのでツッコミどころが多いかもしれないのですが、例えば下記のような領域で、テクノロジーはスポーツを大きく変えてくれるかもしれません。
1.観戦
2.ファンエンゲージメントやコミュニティ
3.スポンサーシップ
4.ギャンブル
5.トレーニングやコンディショニング
6.チームマネジメント
すでに、コロナウイルスによって 1. 観戦 の領域では新しい流れが加速してきました。
アクションスポーツやストリートの世界では、Break Free Worldwideが主催したブレイキンの世界大会「SOULidarity 2020」がオンラインでの世界的なトーナメントを完結。実況やジャッジも含めて1つの画面で配信され、テクノロジーによる一つの解決方法を見せてくれました。また、ソーシャルメディア上でもダブルダッチのトーナメントをOne Doller Billが主催するなど、ソーシャルメディア完結型のオンラインバトルも今後増えて来そうです。
いっぽう、WWEはコロナウイルスの影響を受けて看板イベント「Wrestle Mania」を4月に無観客配信しましたが、WWEの第一四半期ファイナンシャルレポートによれば、その再生数は9.7億にも上ったそうです。
その他、観戦領域ではコロナウイルスの影響以前から数多くのスポーツテックに注目が集まっており、5G超高速通信が可能にする低遅延のマルチアングル観戦や360度映像、よりチャンネルの多いクリアでリアルな音声、VR空間への没入観戦など、多くの変革がすぐそこに待ち構えています。
今回は少し長くなってしまいましたので、上記の6つの領域それぞれの潮流については、次回の連載で俯瞰してみようと思います。
AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。