サッカースターの技術・戦術解剖第7回 ヤン・オブラク<記録ずくめのセーブ王> アリソン(リバプール)、エデルソン(マンチ…

サッカースターの技術・戦術解剖
第7回 ヤン・オブラク

<記録ずくめのセーブ王>

 アリソン(リバプール)、エデルソン(マンチェスター・シティ)、ケイラー・ナバス(パリ・サンジェルマン)、ティボー・クルトワ(レアル・マドリード)、マヌエル・ノイアー(バイエルン)、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)など、現在のトップレベルのチームではすばらしいGKたちがプレーしているが、安定感ということではヤン・オブラク(アトレティコ・マドリード)が第一かもしれない。



シュートを止めまくるアトレティコ・マドリードのGKオブラク。その活躍はチーム戦術の相性と大きな関係がある

 とにかく失点が少ない。チャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16、リバプールとの第2戦では9つのセーブを記録し、3-2(延長)の勝利に貢献。2試合合計4-2で、昨季のチャンピオンを下してベスト8進出の立役者となった。オブラクなしでは勝ち抜けなかったはずだ。

 昨季はアトレティコでのクリーンシート(無失点)100試合を達成。わずか178試合での快挙だった。今シーズンは昨年12月に、リーガ・エスパニョーラの通算で96試合目のクリーンシートでクラブ記録を更新している。2015-16シーズンには平均失点率0.47というリーグタイ記録を出し、「サモラ賞」(リーグの平均最少失点GKに贈られる)に輝いたが、以降4シーズン連続で受賞している。

 オブラクの失点の少なさは、アトレティコの堅守にも関係している。ただ、むしろアトレティコの堅守は、GKオブラクの存在あってのことかもしれない。

 スロベニアのシュコーフィア・ロカ市に生まれ、現在27歳。オリンピア・リュブリャナで16歳の時にデビューし、1年後には正GKになっていた。2010年にポルトガルの名門ベンフィカへ移籍。4つのクラブ(ベイラ・マル、オリャネンセ、ウニオン・レイリャ、リオ・アヴェ)に貸し出されたあと、ベンフィカに戻った2013-14シーズンにアルトゥール・モラエスから正GKの座を奪った。

 このシーズンのリーグ最優秀GKに選出され、2014年7月にアトレティコ・マドリードへ移籍している。ちなみにオブラクが移籍した2年後には、エデルソンがベンフィカのゴールを守り、2シーズン後にマンチェスター・シティへ移籍している。ベンフィカは世界最高クラスのGKふたりを相次いで輩出したわけだ。

 オブラクは現在流行のビルドアップに加わるタイプのGKではなく、本業ともいえるシュートストップの名手である。

 身長188cmはGKとして大きい部類ではないが、ゴールをカバーする能力は傑出している。ミドルシュート、至近距離からのヘディング、1対1、こぼれ球......ありとあらゆるシュートを止めまくる。驚くほど敏捷(びんしょう)にも見えず、なぜオブラクがこれほどシュートを止められるのかは不思議なぐらいだ。

 ポジショニングやシュートの瞬間に両足に均等に体重をかけているなど、GKの基本を丁寧に実行している印象はある。また、シュートストップの動作に全く無駄がない。フワッと動いて止めていて、動きのロスが少ない。足の運び方やシュート直前のプレジャンプ(小さく跳んで備える)が的確なのだろう。ただ、これもトップクラスのGKとして特筆すべきかどうかはわからない。

 とりたてて特殊なところのないオブラクなのだが、腕の強さがあり、使い方がうまい。ぎりぎりに腕を伸ばしてシュートを止めるときに、ボールの勢いに負けることがない。腕力というより、ボールに腕を当てにいっているので、勢いに負けないのだろう。セーブする前のオブラクは腕をやや体の後方に引いていて、そこから腕を出してボールに当てることでパワーを得ている。

 ハイクロスの処理も安定していて、クロスやシュートをはじくときに確実にゴールへの角度のない場所へボールを送っている。正面にポロリとやることが非常に少ない。無理な体勢でもボールを「コントロール」する能力が優れている。

<チームとGKの相性>

 欠点のないオブラクは、実は足下もかなりうまい。エデルソンほどではないかもしれないが足技も持っている。ただ、アトレティコではマンチェスター・シティほどそれが要求されていない。

 GKの仕事量の拡大とともに、チームの戦術に合ったGKを起用する、あるいはGKの能力に戦術を合わせることが必要になっている。つまり、従来はチーム戦術から切り離されていたGKだが、現在ではチーム戦術に組み込まれる存在になっている。

 あらゆる能力に秀でていれば何の問題もないとはいえ、選手には得手不得手が必ずあるものだ。GKとチームの相性は、かつてなく重要になった。

 その点、オブラクとアトレティコの相性はぴったりといえる。オブラクは「ゴールを守る」というGKの本質的な能力に優れているが、アトレティコだからそれに専念できるメリットもあるのだ。

 ディフェンスライン裏のスペースが大きいチームなら、GKはスペースをカバーするために前にポジションをとらざるをえない。そこでのボール処理で手は使えないので、DFと同じ能力が求められる。ノイアーがDF顔負けのスライディングタックルを披露しはじめた時は誰もが驚いたが、ペナルティーエリアから出てしまえば、GKはもうフィールドプレーヤーと同じにならざるをえないのだ。

 アトレティコは、ディフェンスライン裏に大きなスペースを空けたまま守るチームではない。オブラクも無闇に前に出ることはなく、それがシュートへの準備の速さや安定感につながっているところがある。

 相手にディフェンスラインを突破されて1対1の状況になるケースを除くと、オブラクはほぼゴールに張りついている。いわゆる「ラインキーパー」なのだが、だからこそシュートに対して反応する時間(距離)を保てている。それが高率のセーブにつながっている。逆に、そこに強みのないGKだとアトレティコとはマッチしない。

 マンチェスター・シティやバルセロナのように、ディフェンスラインの設定位置が高く、攻撃でもGKからつないでいくチームなら、エデルソンやテア・シュテーゲンのように足下の技術に優れたGKでないとチーム戦術が維持できない。

 チーム戦術に合ったGKを補強するか、GKに合った戦術を採用するかは、ニワトリとタマゴのような問題だが、いずれにしてもGKとチーム戦術を切り離して考えることはできなくなっているのが、世界トップレベルの現状である。