東京・有明で開催されている「楽天ジャパンオープン」(ATP500/本戦10月3~9日/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/賞金総額136万8605ドル/ハードコート)は5日目、シングルス準々決勝全試合と、ダブルスの準々決…

 東京・有明で開催されている「楽天ジャパンオープン」(ATP500/本戦10月3~9日/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/賞金総額136万8605ドル/ハードコート)は5日目、シングルス準々決勝全試合と、ダブルスの準々決勝1試合、準決勝1試合が行われた。

 シングルスは1試合目から順に、第5シードのダビド・ゴファン(ベルギー)がジョアン・ソウザ(ポルトガル)に1-6 7-5 6-2、第4シードのマリン・チリッチ(クロアチア)はフアン・モナコ(アルゼンチン)に7-5 6-1、第6シードのニック・キリオス(オーストラリア)はジル・ミュラー(ルクセンブルク)を6-4 6-2で退けた。唯一シード対決となった第4試合は、第2シードのガエル・モンフィス(フランス)が第7シードのイボ・カルロビッチ(クロアチア)に7-6(6) 7-6(6)で競り勝った。

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 21歳と33歳の世代対決は、右と左のビッグサーバー対決。しかし、勝負の行方は意外にも早いうちに定まった。

 ミュラーのサービスエースでスタートしたが、続く2ポイントで痛恨の連続ダブルフォールト。これを生かしていきなりブレークに成功したキリオスは、自分のサービスゲームはまったく危なげなく、第1セットだけで10本のエースを決めて6-4でセットを先取した。

 キリオスのプレーは予測がつかず、目が離せない。ファーストサービスのスピードを上回るセカンドサービスで勝負をかけたり、股抜きショットを股抜きショットで返したり、『SABR(セイバー)』を仕掛けてみたり……。

 今はすっかり話題もすたれた『SABR』だが、憶えているだろうか。相手がセカンドサービスを打つ直前にサービスラインあたりまで詰めてカウンターアタックをし、そのままネットに出るという攻撃的リターン戦法だ。編み出したロジャー・フェデラー(スイス)が自らの名前を取り入れて、「Sneak Attack By Roger」と名付けたのだが、昨年キリオスが主張したのは、「僕はもっと前から同じことをやっている」。

 キリオスの場合はもっと無謀で、相手のファーストサービスでも試みることがある。今日はことごとくうまくいかなかったが、思いがけないプレーにスタンドが沸く。そのリアクションは、いかにも派手好きなキリオスには物足りないかと思いきや、「日本のお客さんの反応は好きなんだ。ジュニアのときに大阪でプレーしたときから、いいテニスを喜んでくれるのでやりやすいと思っていた」という。

 サービスは、明日対戦するモンフィスが「トップ5に入る力強さと正確さ」と評した通りだが、ストロークはパワー以上にテクニックが光る。力で勝負のテニスをしそうな風貌だが、回転や勢いを殺したショットで不意をついたり、豊かな発想をすぐに反映できるコントロール力がある。

 第2セットは第1ゲーム、第5ゲームと2度のブレークに成功。大事なところで好サービスが効いた。

 試合後、勝者はテレビカメラにサインをするが、そこに「A.T ♡」と書いたキリオス。オーストラリア・テニス、ではもちろんない。恋人のアイラ・トムヤノビッチのイニシャルだそうだ。

 「本当の自分とは違うように世間で受け止められているのは、けっこう気分がいいものだよ」

 意外な面を次々と見せる21歳。新しい世代が大いに活躍しているこの数週間だが、キリオスが今季絶好調の30歳モンフィスとの準決勝は、エンターテインメントに満ちた一戦になるだろう。勝負の行方と同時に、その内容が非常に楽しみだ。 (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)