写真:スウェーデンの町並み/提供:hana73(PhotoAC)プロ卓球選手、英田理志は2017年にスウェーデンリーグに参戦した。3シーズンを北欧の地で挑戦を続け、今季はリーグ最強の強豪エスロブに移籍。個人成績もリーグトップとなった。英田は…

写真:スウェーデンの町並み/提供:hana73(PhotoAC)
プロ卓球選手、英田理志は2017年にスウェーデンリーグに参戦した。3シーズンを北欧の地で挑戦を続け、今季はリーグ最強の強豪エスロブに移籍。個人成績もリーグトップとなった。英田はスウェーデン社会に溶け込むにつれ、働き方、医療、教育など全体的に「日本よりも進んでいる」部分が多いと感じるようになったという。

Skype、Spotify、IKEAやH&Mなど、日本人にも馴染みのあるグローバル企業が生まれる背景にあるスウェーデン文化の一端を、プロ卓球アスリートに聞く。

オンライン診療にパーソナルナンバー、行政も電子化進む北欧

ーーパンデミックの危機がある中、海外にいる不安は大きかったのでは?
英田理志(以下、英田):そうですね。スウェーデンの医療水準自体は高いと思うんですけど、でもあんまり診てもらえないみたいです。去年の3月に高熱を出したことがあったんですけど、病院行くとコーチに伝えたら「病院行っても、熱くらいじゃ家で寝とけって言われるだけだから意味ないよ」って言われて。

ただ、その分、オンライン診察が普及しています。アプリのビデオ通話でお医者さんの診察がうけられて、薬も処方してもらえるという。軽い症状だったらアプリを活用してる人が多いみたいなので、スウェーデンは進んでいるなぁと思いました。

ーー日本よりもIT化が進んでいますね。
英田:そうですね、他にもスウェーデンではパーソナルナンバー、個人番号の制度がしっかりしていて全て管理されてます。日本だったら、例えば結婚したら役所も銀行も関係する施設全部現地に行かなきゃいけないじゃないですか?スウェーデンは紐づけされてるんで、本当にオンラインで全部済んでしまう。だからどこか一つを変えれば、銀行のカードの名義やら住所やら名前やら、パスポートも含めて全部、一気に変わるみたいです。

普及したキャッシュレス決済 「現金お断りの店も多い」




写真:英田理志(2018年)/撮影:伊藤圭
ーー北欧は電子行政サービスが本当に進んでいますよね。日常生活はいかがでしょう?
英田:日常では本当にキャッシュレスが進んでいて、支払いが簡単です。全く現金使うことは無いです。

クレジットカードも暗証番号を打たずにピッとかざすだけで払えます。あとSwish(スウィッシュ)という携帯の決済アプリがあるんですけど、それも銀行の口座と携帯番号があれば紐づけられて、番号を打つと口座から送金されるようになっています。

ーー日本だと飲食店など現金しかダメなところがまだ多いですが、スウェーデンはどうですか?
英田:もうどこでも使えますよ。逆に現金お断りっていう店が多いですね、

小さい卓球大会の売店でもSwishで払いますし。あと僕はクリスチャンなので教会に行くんですけど、教会の寄付、献金でもSwish!本当にそれくらい全部キャッシュレスですね。

ーー物価はどうですか?
英田:物価は日本とあまり変わらないですね。食料品とかはスウェーデンの方が若干安い。ランチも1200円くらいで中華のビュッフェが食べられる。ただ外食はスウェーデンの方が若干高いかもしれないですね。外食するためにお店に行くと高くて、食材買って家で食べると日本より安いイメージ。

ーー税金はどうですか?
英田:ものによってかかってくる税金が違って、贅沢品とかになると、結構高い税金かかってくる。特にお酒が高いんですよ。だから「飲むぞ」という日以外はみんなそんなに飲まない。あと、お酒がスーパーで買えないんです。国営の酒屋さんがあって、そこでしか買えない。そのうえ税金がかかって結構高いんで酔っ払いがいない。

ただ国境をまたぐと全然違うみたいです。国境超えてデンマークのコペンハーゲンに行くとカールスバーグっていうビールが安い。なのでコペンハーゲンに行って、お酒沢山買ってくる人がスウェーデンの南のほうだと多い。

自由なキャリア設計「30代、40代の大学生も多い」

ーー生活や文化などはどうでしょう?
英田:一番いいなと思うのは働き方というかキャリアの自由度の高さ。日本だったら、大学卒業してすぐ就職する人が多いじゃないですか。レールに乗って。スウェーデンはもっと自由。自分の思うようにいろんな事をしても許されるし、個人個人の自由が認められる雰囲気がいいなと思います。

ーー周りにいる人たちも自由に活動されていますか?
英田:今シーズンからエスロブというチームに移籍したんですけど、いろんな国からいろんな選手が来ていますね。

例えば、隣のフィンランドから来ている高校生は、スウェーデンの体育学校に入ってプレーをしていて、将来はプロ卓球選手になると言っています。現時点では卓球を仕事にできるか分からないぐらいのレベルの選手なんですけど。

他にもストックホルムにいたときは、卓球のために休学する子も多かったです。高校生くらいの選手が、半年留学に行って、卓球だけするわと。いつもその子は学校帰りの夕方に練習に来てたんですけど、ある日を境に午前中から来るようになって。「学校はどうした?」って聞いてみたら「休学した」と。コーチに聞いても、勉強は後からできるじゃん、大人になってからでもできるじゃん」と。

Tリーグにも来ているトルルス(モーレゴード。スウェーデン代表)もチームメイトですが、彼も今は卓球に集中しているので学校に全然行ってない。

あと、新鮮だったのはスウェーデン人は、30代、40代でもまだ大学生って人が多いです。大学が行き放題でお金がかからないので、大学に2、3回行ってる人も結構多いです。

多国籍軍での生活 収入源は?




写真:英田理志/提供:英田理志
ーー今のチーム(エスロブ)はどういう環境ですか?
英田:かなり多国籍。試合に出てるのは、日本の僕、スウェーデンのトルルス、あとエチェキっていうハンガリーの選手。日本では無名ですが、この前ピッチフォードに勝つぐらい強い。それからフィンランドのアレックス・ナウミ。この4人です。

他にも練習場はロシア、イギリス、ルクセンブルク、フランスの選手やウージャージーという中国からドミニカ共和国に帰化した中ペンの選手もいます。あとはアイルランド、あとデンマークからもよく来ます。

この前、6人でビリヤードに行った時は、6人ともみんな国籍が違うということもありましたよ。

ーーまさに多国籍文化の中にいらっしゃいますね。
英田:本当にいい経験させてもらってるなって思いますね。エスロブは、本当にオープンなチーム。練習に来たい人は自由に来ていいよという考え方なんですよね。エスロブのポリシーとして黒人や宗教への人種差別を許さないということもホームページに書いてある。そういうオープンなチームだから「エスロブの練習に行こう」と自然と集まってくる感じですね。

ーー選手たちの収入源は?
英田:ヨーロッパのプロの選手は何か国もリーグを掛け持ちして、ちょっとずつお金もらって生活してる選手が多い。だからそんなに強くなくてもやっていける環境がヨーロッパにはある。

そういう選手たちは練習拠点も所属クラブもいくつもあるわけですね。なので、練習拠点をエスロブにしているけど、エスロブのクラブには所属していないという選手も何人かいます。

ちなみに僕も去年までは日本とスウェーデンと一応イギリスの3ヶ国を掛け持ちしてましたね。叔父の家族がイギリスに住んでるのでイギリスに行って試合に出て。叔父さんに会って、ご飯ごちそうになって、試合にちょこっと出てという感じで楽しんでました(笑)

取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)