【ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」】ドイツでコロナ騒動前から指摘されていた「子供の運動不足」 ドイツの学校、幼稚園、保育園が一斉休校に入ってもう1か月以上が過ぎている。外出制限がいろいろとあるなかで、我が家の生活は意外と変化が…

【ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」】ドイツでコロナ騒動前から指摘されていた「子供の運動不足」

 ドイツの学校、幼稚園、保育園が一斉休校に入ってもう1か月以上が過ぎている。外出制限がいろいろとあるなかで、我が家の生活は意外と変化が少ない。もともと僕はブンデスリーガの取材とサッカーのトレーニング、そして試合がある時以外は、基本的に家で仕事をしている。妻もコロナ騒動の前からずっと在宅ワーカーで、仕事のために外出するのは週に1、2度程度だ。子どもの生活に合わせて仕事をやり繰りするのは、他の業種に比べれば間違いなくやりやすい。

 現在ドイツでは「外で家族以外の人と会うのは2人まで」という制限があるため、子どもたちにとっては友だちと遊べないのが相当の負担だが、それでも僕のチームでの練習がない分、夕方には息子2人と一緒に近くの広場でサッカーをしたり、卓球をしたりと楽しめているし、3食毎回家族で食事をとれるのは普通に幸せだ。

 また「環境都市」「グリーンシティ」として有名なフライブルクの、その中でも郊外にある、自然が豊かなエリアに住めていることも大きな救いだ。仕事の隙間時間をちょっとやり繰りして外に出れば、徒歩数分で新緑の森があり、川が流れている。体を動かす場所には事欠かない。子どもが思い切り走ったり、跳ね回ったり、大声を出したりしても誰にも迷惑がかからない。

 ただ、これはかなりラッキーなケースだろう。こうした心身を開放できるような場所にアクセスできない子どもたちも多数いるはずなのだから。都市部に住んでいて、周囲に遊べる場所がない友人家族もいる。親が忙しくて外に連れ出してももらえない子どもたちもいるだろう。家庭に問題を抱えているところも少なくはない。でも自分たちで遊ぼうにも、これまで遊べていた公園や広場や遊歩道などはすべて閉鎖されている(※4月末時点)。

 思い切り体を動かして遊べない子どもたち。運動不足でストレスを抱える子どもたち。これは何も新型コロナウイルスのせいで最近生まれた問題ではない。ドイツの子どもの多くが、運動不足の傾向にあると言われている。ちょっと信じ難い数字だが、スポーツクラブに通っているような子どもたちでも、普段の通学や練習・試合の送迎などはすべて親の車で、それ以外はろくに歩きもしなければ自転車も乗らない……という子は結構いる。

 都会に住んでいる子では特に顕著だ。そして、スポーツクラブに通っていない、通えない子も少なからずいる。子どもだけで安心して通える場所にスポーツクラブがない。親が忙しければ送迎することもできない。そもそも親が、子どもが体を動かすということに無関心。経済的な理由でスポーツをさせる余裕がない……などなど。昨今では世界的に、いろんな国が同じような問題で悩みを抱えている。

物理的な距離を取る以上、心理的な距離で寄り添う取り組みを…

 そこへきて、今回の新型コロナウイルスである。種目にかかわらずすべてのスポーツクラブが活動を休止し、友だちと遊んだり、ボールを蹴ったりすることができなくなってしまった今、子どもたちはいったいどうしたらいいんだろう。

 家で退屈にしている、あるいは家にいるのがつらいという子どもでも、本来なら家から出て学校や地域コミュニティに顔を出せば、そこで子どもと子どものつながりが生まれ、様々な活動を楽しむことができていた。だが、今やそのほとんどが遮断されている。

 学校からは、メールで保護者宛に家でもできる手軽な運動例があれこれ送られてくるし、ソーシャルメディアにも似たような情報は溢れている。だが、子どもたちにそれを伝える人がいなければ、そばにいて一緒に楽しめる人がいなければ、いったいそれがどれだけの役に立つのだろうか。

 自粛は大切だ。でもすべてを、それぞれの家庭任せにしていたら追いつかない。スポーツクラブは普段の活動ができないからどうしようという前に、所属している子どもたちの様子を確認できるようなコミュニケーション体制を整えるべきだし、学校にしてもオンライン授業を導入しようにも、すべての子どもたちがそうした状況下で密なコミュニケーションが取れるのかを確認すべきだろう。物理的な距離を取らなければならないのだから、僕らは心理的な距離で寄り添い合わなければならない。

 まだ始まったばかりなのだ。僕たちはおそらく、これからまだまだ普段意識しなかったような様々な社会の綻びに直面することになると思う。今は毎日笑顔で過ごしてくれている子どもたちも、友だちと会えず、遠くに出かけることもできず、大好きなサッカーもできない日々が何週間も続けば、いずれ気が滅入る日もあるに違いない。

 僕も妻もその時に子どものそばにいて、そっと肩に手を置ける存在でいたい。そしてすべての子どもたちの肩に、同じように寄り添ってくれる誰かの手があるようにと心から願っている。(中野 吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野 吉之伴
1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。