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経営者と独立リーグ監督で奮闘する”松坂世代”大西宏明のいま(後編)

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 2011年オフ、ソフトバンクを戦力外となった大西は現役引退を決意した。

「球団から声はかからなかったですし、もしあったとしても球界に残る気はありませんでした。飲食店をやろうと決めていたんです。引退して野球界に残りたいといろいろ動いたあと、ダメだったから飲食店をやる人もいますが、僕はそうではなく、最初からやりたいと思って始めました」



昨年から関西独立リーグ・堺シュライクスの監督を務めている大西宏明

 2012年4月、大阪の東心斎橋に焼肉店『笑ぎゅう』をオープンさせた。

「大阪ミナミのど真ん中に、広い店を勢いでつくってしまって……経営者になった今の感覚で言えば、バカでしたね(笑)。飲食店は厳しい商売です。3年もてばいいと言われますが、ありがたいことに今年4月で8年になりました。でも、僕は料理の修業はしていませんし、経営学も学んでいません。すべて店を始めてから勉強しました。

 弟がその前から焼肉店で修業していて、勤め先の社長から経営の勉強もして、開店までこぎつけてくれました。弟が肉や料理を全部用意して、僕は甲子園球児、プロ野球選手・大西宏明のネームバリューでお客さんを呼ぶ。最初は僕目当てのお客さんが9割ぐらいだったと思いますが、それが8割、7割となって、今は肉を目当てに来てくださるお客さんが9割です。ありがたいことです」

 その後、大西は店に来たお客の縁で、BASEBALL FIRST LEAGUE(※)の06ブルズの理事となる。だがこの時は、チームに少しアドバイスをした程度で、深入りすることはなかった。
※2009年から2013年まで活動した関西独立リーグ(初代関西独立リーグ)と一部の球団が共通するが、運営母体は異なり、2014年に新たに始まった独立リーグ。2018年12月に関西独立リーグ(2代目)となる

 ちなみに、大西が現在監督を務めている堺シュライクスとの関係は、代表の夏凪一仁(なつなぎ・かずひと)との交流から生まれた。

「夏凪は堺ビッグボーイズのチームメイトでした。彼は大手人材広告会社に勤めていて、その頃からうちの店にやってきて、よく話をしていました。そのあと、退職してカフェをやっていたのですが、突然、独立リーグを立ち上げることになったんです。

 その時もいろいろと話をしましたが、僕が飲食店をやりながら家族と過ごす日々を大切にしているのを知っていたので、『監督をお願いしたい』とは絶対に言ってこなかった。だから、第三者的に『頑張れよ。なにかあったら言ってくれ』と。ところが、本拠地が堺に決まって、ちょうど子どもたちも幼稚店に行くタイミングだったこともあり、監督を引き受ける気になったんです。ただし『焼肉店をやりながら』という条件で」

 2019年、堺シュライクスは関西独立リーグ(2代目)で18勝27敗(勝率.400)で4球団中最下位に終わってしまう。

「率直に言って『ありえない』という感じでした。プロの世界で野球の知識やマインドを教わってきた僕からしてみたら、常識が違うという感じでした。それこそ一つひとつ教えてあげる。『なんでわからんねん』とは言わず、できなければわかるまで教える。その繰り返しでした。

 でも、1年間やったらやっただけのことはありました。成長したんやと実感できました。もちろん、実力はNPBとは雲泥の差です。それでもなにかしら光るものがある選手がいる。それを磨くのが僕の役割ですね。そこをなんとかしたいと思っています」

 選手を磨く一方で、独立リーグは「野球をあきらめさせる場」でもある。大西はその現実にも向き合わなくてはならない。

「独立リーグは夢を追うところでもあるけど、同時に夢をあきらめる場でもある。辞めどきは本人たちにそれとなく言っています。もちろん、基本的には本人たちがやり切ったと思うまでやればいい。どんな選手でも野球をやっていればNPBに行ける可能性はゼロではないですから。ただ、中途半端に夢を持っている選手には、『それは違うよ』って言うこともあります。僕やコーチの藤江均(元横浜など)は、その後の人生設計をしてから野球をやめた。だから『次の人生があるんやで』と言えます。

だから、野球をやめたらどうしていいのかわからない選手には、いろいろなことを教えてあげないといけない。僕は監督だけじゃなく、飲食店の店主としての姿も見せて『次の世界でも楽しく、ちゃんとできる』というのをわかってほしいと思っています」

 大西は現役時代から、常に”その先”のことを考えていた。

「現役時代から若い選手に『野球だけがすべてじゃないで。すべてやと思ったら、あとがないと思って数少ないチャンスで緊張してしまう。失敗しても死ぬわけではないし』と言っていました」

 プロ野球選手のセカンドキャリア問題は年々大きくなっているが、大西のこの言葉には実感がこもっている。

 以前、2018年11月に開催された堺シュライクスのトライアウトも取材している。この時、大西は選手たちを前にこう言った。

「このなかには、このトライアウトを最後に、野球をあきらめようと思っている人もいるかもしれない。野球をするのは今日が最後と思っている人は、ここで僕たちと堺シュライクスのテストを受けたことをいい思い出にして、これから頑張ってほしい。

 また、落ちても野球を続けてようと思っている人もいると思う。僕たちも人間だから、トライアウトでいいところを見抜けなかった可能性もある。そういう人たちは、これから僕たちを見返すような活躍をしてほしい」

 これもプロ野球という世界で酸いも甘いも経験した大西ならではの言葉だったと、今にして思う。

 試合中、ベンチに座っている大西はプロで活躍してきた野球人らしく、存在感がある。しかし、選手にアドバイスを送る時は、決して上から目線にならず、わかりやすく諄々(じゅんじゅん)と話をしている。こうした姿を見るたび、元プロ野球選手として、そして経営者として、キャリアを積み重ねた奥行きのある深い人間性を感じる。

 昨年、本拠地球場がなかった堺シュライクスだが、2020年は新しく完成した「くら寿司スタジアム堺」を本拠地として戦う予定だった。しかし、新型コロナウイルスの影響で、まだチームは活動停止を余儀なくされている。

 厳しい状況が続くなか、堺シュライクも大西も歯を食いしばって耐えしのいでいる。

「とにかくコロナが終息してもらわないと……先行きは不透明なままです」

 不安はつきまとうが、このままでは終われない理由がある。それはまだ現役で頑張っている”松坂世代”の存在だ。現在、松坂をはじめ、和田毅(ソフトバンク)、久保裕也、渡辺直人(共に楽天)、藤川球児(阪神)の5人がプレーを続けている。

「同級生の絆は強いです。(松坂)大輔は2年ほど前にうちの店に来てくれたんです。その後も、時々連絡は取り合っています。僕にとって、大輔が頑張ることが本当に励みになる。あいつに元気がなかったら寂しいですし……僕にとってはいまだにヒーローです」

“松坂世代”としてのプライドは、いまも大西の大きな支えとなっている。

(おわり)