文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部 出典:SPOZIUM 2015年7月9日 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります) 前編では、山下修作さんと大矢丈之さんにJリーグのアジア戦略室の立ち上げから実際の…

文:新川 諒

構成:SPOZIUM編集部

出典:SPOZIUM 2015年7月9日

(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

前編では、山下修作さんと大矢丈之さんにJリーグのアジア戦略室の立ち上げから実際の戦略について伺ったが、後編では実際のアクティベーションの事例を語っていただく 。

地域と海外を直接結びつける

アジアでの活動を始めた当初は、海外での活動をするなら国内での地域密着活動をもっと実施していくべきという声もあった。だが少子高齢化にともなって地方が疲弊している現状がある中、クラブが海外に出ていき地域に新しいビジネスや観光客をもたらす存在になることを考えた。

Jリーグは37都道府県に52クラブあって、必ず地域名がクラブ名に入っている。試合が海外で報道されることによって、日本の地域名が浸透できる。中田英寿のペルージャでのプレーが決まり、多くの日本人がペルージャを知ったように。サッカーというスポーツは日本を飛び越え、地域と世界をダイレクトに結びつけ、人やお金の流れを日本の地域にもたらすことを可能にする。

例えば、コンサドーレ札幌とベトナムの事例ではベトナムの旅行会社が北海道観光ツアーを仕立て、両国の産業は一気に活気付いた。

スポンサーシップアクティベーションの事例

<パナソニック株式会社 in インドネシア>

パナソニックはガンバ大阪というコンテンツを大いに活用して、目に見える売り上げ増に繋げた。2014年10月、ジャカルタ市内の大型ショッピングモールにパナソニックは自社商品の展示ブースと共にガンバ大阪のPRブースを設置し、現地でも人気のある遠藤保仁選手の等身大パネルも置いた。すると多くの人が、ブースを訪れるきっかけとなり、結果、自社製品だけのブースを設置したときよりも売り上げが2.2倍あがった。

<ヤンマー株式会社 in タイ>

農業機械メーカーのヤンマーは、経済発展が著しいアジアにおいて、今後どう売り上げを伸ばしていこうかとチャンスを窺っていた。ヤンマーはタイでのシェアを伸ばすため、競合他社には真似できないサッカーというコンテンツを利用。セレッソ大阪がタイプレミアリーグ所属のバンコク・グラスと提携して、U-14のチームの立ち上げから組織運営まで協力をした。

更には農業の重要拠点で、現地の農協と協力しサッカー教室も開催。このサッカー教室の参加者の中から選ばれた子供がヤンマーのサポートを得て、バンコク・グラスのU-14に移籍し、その後すぐにU-14タイ代表選に選ばれた。これを受けて「地元の子供たちに希望を与える」と、共にサッカー教室を実施した農業の重要拠点の人々のヤンマーに対する好感度は上昇した。サッカーを利用して、企業が新規海外事業開拓におけるマーケティングを成功させた例の一つである。

<東急グループ in ベトナム>

更にサッカーというコンテンツを利用したのが川崎フロンターレのスポンサーである東急。ベトナムのビンズン省が進めている都市開発に関わっている東急は川崎フロンターレの選手を現地に招待して試合を開催。試合前に行われたレセプションではベトナム政界のトップらも参加して、感謝の意を述べた。

スタジアム横では等々力でおなじみのフロンパークが作られ、2万5千人を集客。これにより、ベトナムの人々は多いにサッカーの試合やイベントを楽しむことができ、東急はベトナムでビジネスを進めるうえでの友好関係を築くことができた。

これまでスポーツは費用対効果が見えにくいと言われてきた。企業名がユニフォームなどに入っていても、それによって商品がいくつ売れたかを算出することはなかなか難しく、企業、自治体にとってスポーツに投資することは比較的ハードルが高いという側面もあった。

スポーツが国内外でのブランド力を高め、人の流れやビジネスを呼び込むひとつの装置となれば、企業や自治体にとって嬉しい存在となり、スポーツへの投資に前向きになれるだろう。そうしてスポーツが活性化するための上昇スパイラルを作り上げることができる。

たとえ日本が不況になっても、スポンサーがクラブへのスポンサー費用を削減するのではなく、むしろクラブを通じて海外での活動を増やせるようにスポンサー料を増やしていくことで製品やサービスの売り上げにつながると感じられれば、 これまでになかったスポーツの価値が創造できる。

アジア戦略室から国際部へ

2015 年4月、アジア戦略室は国際部へと変身を遂げた。世界のいろいろな動きを見ながら柔軟に情報を取り入れ、動きを変え、世界に向き合っていく役割を果たす。例えばヨーロッパで導入されている育成システムやアメリカのスタジアム運営など、様々な分野にアンテナを張っている。

「アジアと共に成長」する仕組みを作る一方でサッカーを通してアジアを元気にしていく。カンボジアに始まったファン・サポーターから届いたユニフォームを送り届けるというプロジェクトも4カ国目となるブータンに向かう。Jリーグをさらに発展させ、世界でもリーダーシップとっていくリーグになるべく、国際部の挑戦は続いていく。