引退を発表していた三浦大輔投手が、ベイスターズファンのみならずプロ野球ファンが見守る中で最後の登板を終えた。細かな数字を用いて他者と比べるのではなく、ファンにとっての存在感の大きさを語るべき投手だという意見もあるかもしれないが、彼のような投…

引退を発表していた三浦大輔投手が、ベイスターズファンのみならずプロ野球ファンが見守る中で最後の登板を終えた。細かな数字を用いて他者と比べるのではなく、ファンにとっての存在感の大きさを語るべき投手だという意見もあるかもしれないが、彼のような投手こそ、数字に語らせることでまた新たな一面が見えてくる。

■数字で振り返る“ハマの番長”三浦大輔

 引退を発表していた三浦大輔投手が、ベイスターズファンのみならずプロ野球ファンが見守る中で最後の登板を終えた。細かな数字を用いて他者と比べるのではなく、ファンにとっての存在感の大きさを語るべき投手だという意見もあるかもしれないが、彼のような投手こそ、数字に語らせることでまた新たな一面が見えてくる。


三浦の勝利への貢献の推移

「投球回」と「投球の質」から算出する勝利への貢献を計る数字にWAR(Wins Above Replacement)というものがある。より長いイニングをより良い内容で投げた投手が積み重ねていける数字で、どちらか一方だと数字は伸びない。先発投手の評価においては有用なものである。

 基準となる「0」は代替可能な投手、控えレベルの投手が残すであろう数字に置かれている。数字の読み方としては、「同じ投球回を控えレベルの投手が投げた場合に比べ、チームに何勝分の貢献をもたらしたか」という意味になるが、ここは大きいほどよい数字という認識で問題はない。

 25年間にわたりマウンドに立ち続けた三浦の通算WARは66.1と算出される。この評価は、時代時代の得点の入りやすさなども考慮しているので、違う時代の選手であっても数字の比較ができる。三浦の数字はほぼ同じだけマウンドに上がった北別府学(元広島)や、球団の先輩にあたる平松政次など200勝を記録した投手に近いものとなる。山田久志(元阪急)、東尾修(元西武)らは三浦よりも600投球回以上多く投げているため数字が大きく伸びているが、質だけ見るなら三浦もこれに匹敵するといっていい(もちろん、投球回を重ねながら質を保つことが何よりも大変なのだが)。

■03年の6年契約後に迎えていた“全盛期”

 図の上の部分のグラフは、三浦が各シーズンでどの程度の投球の質(FIP/ Fielding Independent Pitching/注釈参照)で投球回を重ねてきたかを示したものだ。FIPは、おおむね防御率と似た感覚で見ることができる数字なので低いほどよい。三浦が多くのシーズンで3.00?4.00の間に数字を収めているのがわかる。圧倒的なものではないが、一定の内容で辛抱強くイニングを重ね続けた三浦の野球人生がよく示されている。

 そして指摘しておきたいのは、三浦が球団と結んだ2003年から2008年にわたる6年契約についてだ。日本では珍しい長期契約だが、この間に三浦が記録したWARは23.4に達しており、05年からの3年間で記録した5.7、5.0、4.8という数字は三浦がキャリアで記録したシーズンベスト3にあたる。

 長期契約を結んだ投手が直後に全盛期を迎え、ローテーション上位クラスを、2億円を割る年俸(推定)で長らく抱えることができたのだから、球団にとっては非常に有効な契約だった。三浦の能力を適切に評価した球団の英断だったといえる。

 出来高契約も含まれていたようだが、年俸が頭打ちになることから、三浦にとっては不都合だったと考えることもできる。だがそれでも、29歳という若くはない年齢で、将来を見据えプレーに集中できる環境を得られたことは、結果的に三浦のパフォーマンスを高め、選手寿命を延ばすことにつながったはずだ。三浦が戦ってきたと伝えられている慢性的な肝機能障害への対処についても、長期契約がプラスに働いた部分はあったのではないだろうか。

 長期契約で選手、球団双方がWin-Winになるケースはなかなか見られず、その結果、日本のファンの長期契約に対する印象はあまり良くないようにも映る。だが、三浦とベイスターズが結んだ6年契約は、互いの事情を汲んだ、幸せなケースだったと考える。

 あくまで選手が求めた場合に実現するものだが、安定した環境が能力を伸ばすことにつながりそうな選手を的確に見極め、長期契約を用いることは、編成におけるアドバンテージを作り出しうる。うまく活用する球団がもっと増えてもよいのではないだろうか。

(注)ここで投球の質の評価に用いているFIP(Fielding Independent Pitching)は、奪三振、与四死球、被本塁打から算出する指標。バックを守る野手の守備力やアンラッキーなヒットの生まれ方の偏りを均した環境で記録するとみられる推定防御率を意味する。防御率や被打率では見えてこない、投手の基礎能力を削り出した数字となる。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を2016年3月27日に発売。算出したスタッツなどを公開する『1.02 – DELTA Inc.』(http://1point02.jp/)も2016年にオープン。

DELTA●文 text by DELTA