写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭今期実業団の日本リーグで5つのタイトルのうち4つを獲った東京アート。常勝軍団の主将を務めるのが高木和卓だ。今期の快進撃について、高木和は「若手が2人、吉村和弘と坪井勇磨が入ってきて、チームの雰囲気も…

写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭

今期実業団の日本リーグで5つのタイトルのうち4つを獲った東京アート。常勝軍団の主将を務めるのが高木和卓だ。

今期の快進撃について、高木和は「若手が2人、吉村和弘と坪井勇磨が入ってきて、チームの雰囲気も良くなった。彼らに危ないところ助けてもらったりもしたところがあった」と分析する。

キャプテンとしては「特にはないですがまとめるくらい。まあ例えば練習場で時間を過ぎてメンバーがダラダラ話していたら、“やるよー”って声かけるとか、それくらいですかね。面倒くさい縛りはないんです」。現在、31歳、チームの中には8歳離れたメンバーもいる。かつての体育会系のようなやり方では通用しないのは分かっている。

30代で全日本ランク入り「俺、まだやれるじゃん」

30代を迎えて何よりも痛感するのは己の肉体の変化だ。「劣化は速いですね…。練習終わって少し休んでも回復はしない。疲れが染み付いちゃうんですよね。以前は疲れが回復して筋肉になっていたところもあるけど、今はなかなかね…」。




写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭

だが、肉体の衰えに反して高木和は成長を実感している。「2019年の前期の日本リーグで、吉田(海偉)さんも和弘もちょいちょいシングルスで負けちゃうことがあって、何度か5番の自分に回ってくることがあった。そこで勝てたことがあって、あのときはすごい自分の中で、“まだやれるな、まだプレッシャーに耐えれるな”と」。確かに高木和の前期日本リーグの5番での勝率は100%と高い。




写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭

高木和の好調、その原動力になった試合がある。2019年の全日本選手権でのことだった。Tリーガーである森薗政崇を下し、ベスト16に食い込んだのだ。

「あれで自信がついた。森薗に勝ったら、日本リーグでも負ける相手はそういないだろうって。ランク入りしたのは5年ぶりだったんですよ。30代でランク入りしてるのって、僕くらいしかいなくて。(水谷)隼は当時29歳だから。俺、まだやれるじゃん、って(笑)」。

30代でも強くなるために “10㎝”のこだわり

たくましくなったのは精神面だけではない。30代に差し掛かって、経験はプレーに円熟味をもたらした。高木和のこだわりは練習の些細なやり取りにも現れる。




写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭

「例えばストップの練習だと、返球した後に相手もストップするのが分かっているから台の近くで待つことが多い。でも、実際の試合では何が来るかわからない。だから一度ストップで返球したあとは前にも後ろにも行けるように立ち位置を戻さないといけない。他にも、フォアの練習だと、フォアを打った後に、多くの人が思いっきりフォアの体勢で振りかぶって待っている。でも実戦だと何が返ってくるかわからないから、少しバック側にも気を回しておいた方がいい。すると自然に手はニュートラル寄りに10cmくらいは戻ってないと」。

たかが練習、たかが10cm、それでも意識するのとしないのとでは試合では歴然と違うのだという。それは東京アートの大森監督が大切にする「気付きの卓球」との相通ずるものがある。




写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭

高木和自身、「考える卓球」の意味に気づいたのは最近のことだ。「正直、以前はあんまり聞く耳もたず、みたいな時期があった。学生のときほとんど負けたことなかったから、考える必要もなかった。でもやっぱり社会人になってプレッシャーとか負けてきて考えるようになったっていうのは正直ありますね。やっぱり負けてくると考えますよね」。

それに主将という立場も高木和の立ち振る舞いを変えた。「8歳下の選手とかいるんで、変な試合はできないですよね。だから練習でも流したりだらしない試合とかは絶対やりたくない。『ダメだな』とか『年取ってるから疲れた』とかそんなことは絶対に口に出さないようにしています」。




写真:高木和卓(東京アート)/撮影:伊藤圭

30代を迎えてなお成長する高木和。東京アートのキャプテンとして大森監督が掲げるグランドスラムを達成できるか。成功の鍵は高木和が握っている。

(取材:3月上旬)
取材・文:武田鼎(ラリーズ編集部)