文 岡田真理構成 SPOZIUM編集部出典:SPOZIUM 2015年5月29日(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)2020年の東京オリンピック決定以降、スポーツのビジネス的側面への関心が業界内外で高まっている…
文 岡田真理
構成 SPOZIUM編集部
出典:SPOZIUM 2015年5月29日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
2020年の東京オリンピック決定以降、スポーツのビジネス的側面への関心が業界内外で高まっている。特にスポンサーシップビジネスは、企業のアクティベーションツールとしての価値が最近になって見直されているという。とはいえ、実際にはスポーツという“生モノ”を扱う難しさがあり、スポンサーシップ契約にはトラブルが少なくないという現実も。
今回はスポーツ案件を数多く手掛ける松本泰介弁護士(Field-R法律事務所)にご登場いただき、弁護士としてのスポーツへの関わり方から、日本のスポンサーシップビジネスの変移や解決すべき課題、そしてオリンピックに向けての可能性について語っていただく。
Q1.日本のスポーツビジネス界では、弁護士はどのような業務をされているのでしょうか。
スポーツ業界で弁護士というと、まずは代理人業務のことが思い浮かぶかもしれません。しかし、代理人業務は選手とチームの契約更改時のみに発生する案件なので、年に1回程度の話。弁護士にとってはたくさん抱える案件の一つであり、業務として大きなウェイトを占める仕事というわけではありません。
スポーツビジネス界での弁護士の役割は、スポンサーシップ、放映権、マーチャンダイジングなど様々な契約の交渉・締結に関与したり、スポーツビジネス関連のトラブルに対応したりと、実際には代理人業務だけに留まらず多岐に渡ります。
もともとスポーツ興行関連の契約は古くから存在していましたが、興行主や支援企業はまだまだ限定されていました。その規模が大きくなったのは、選手の肖像権を選手自身が管理することが認められるようになり、その後選手のマネージメント会社などが出現するようになって、肖像権関連の契約が重視されるようになったことがきっかけかもしれません。それに伴って、スポーツ業界における弁護士の業務もさらに拡大していったように思います。
日本のスポーツビジネス界で特に市場が大きいのがスポンサーシップビジネスです。これは、親会社やスポンサーがスポーツを支えてきたという日本特有の背景があるためかと思われます。私自身も、年間を通して多くのスポンサーシップ契約に携わっています。
Q2.スポンサーシップ契約というのは、具体的にどのような契約のことでしょうか。
一口にスポンサーシップ契約といっても、パートナー契約、サプライヤー契約、エンドースメント契約、パフォーマンスサポート契約など、様々な種類があります。また、リーグ、協会、チーム、選手個人など、誰が結ぶ契約かによって売り物--例えば、スタジアムの看板であったり、選手の着用するウェアであったり--が変わってきます。
あとは、契約金やスポンサーメリットのランクによっても内容が変わります。最もランクの高いスポンサーを「ゴールドスポンサー」とか「トップスポンサー」と呼んだりします。つまり、スポンサーシップ契約には「種類」という横の軸と「ランク」という縦の軸があり、それによって内容が異なるということです。
日本のスポンサーシップ契約の一つに「所属契約」というものがあります。例えば、フィギュアスケートの羽生結弦選手はANA所属、プロゴルファーの松山英樹選手はLEXUS所属ですが、このようなトップ選手の場合は、所属といってもそこで勤務しているわけではなく、最高位のトップスポンサーとしてのスポンサーシップ契約が締結されています。
一方で、日本のスポーツが企業の支援やタニマチ文化の中で発展したという背景から、選手が社員として雇われ、実際に勤務しているケースもあります。ですので、一口に所属契約と言っても種類とランクで様々な形があるのです。
このようなスポンサーシップ契約について、弁護士はスポンサー(企業)側、コンテンツ(チーム、選手)側の両方につくことがあります。スポンサーには法務担当がいることが多いですが、最近では、スポンサー側のスポンサーシップ契約への法意識が高くなっていることから、スポーツビジネスを専門にした弁護士のニーズが以前より増えているように見受けられます。
Q3.スポンサーシップ契約を結ぶにあたって、実務上の難しいポイントはなんでしょう。
まず挙げられるのが、目に見えない「無体財産」を扱う難しさです。スポーツや選手の価値というのは商品として形があるものではありません。そのため「定価」という概念が存在しにくく、契約に関わる人たちの価値観や人間関係によって大きく左右されます。
また、活躍によってチームや選手のバーゲニングパワーが変動するため、当初スポンサーが想定していたメリットを得られない可能性もゼロではありません。そのような条件下で何千万、何億というお金が動くため、リスクを最小限に留められるよう契約でしっかり決めておく必要があります。
二つ目は、実務的に契約締結にかけられる時間が短いこと。話題になった選手やチームと旬の時期に契約を結ぶとなると、セールスシートの提案、基本合意、契約締結、会見のプロセスの中で十分な時間が確保できないのです。その結果、間に合わずに不締結になることもよくあります。
三つ目は、業界特有の制約です。たとえば、ウェアのどこにロゴを入れていいか競技によって制約が異なったり、そもそもどこが選手の肖像権を管理しているのかが曖昧だったりもします。また、全体としてどのくらいお金がかかるのか不明瞭で、契約金以外のアクティベーション(権利活用)費用が想定以上にかかったというケースもあります。
このような点をクリアするためには、スポーツビジネス界での業界情報をどのくらい知っているかがすべてと言えます。私自身は年間100件以上のスポンサーシップ契約のケースに関わっていますが、上記のような事情の中でスポンサーシップ契約をスムーズに締結するためにコンサルティング的な立ち位置で関わることもあります。
岡田真理
立教大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校エクステンションにてマーケティングのディプロマを取得。帰国後はプロアスリート専門のマネジメント会社に勤務し、K-1選手やプロ野球選手などのマネジメントに携わる。退職後スポーツライターに転身し、アスリートのインタビュー記事やスポーツ関連のコラムを執筆。
2014年にNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーションを設立し、代表を務めている。