アリーナでは、何千人という観客がしんと静まり返っていることも、耳を弄する大声援が響き渡っていることもある。2ゲームごとにコートを交代するチェンジオーバーは、わずか90秒。その間にテニス選手たち…

アリーナでは、何千人という観客がしんと静まり返っていることも、耳を弄する大声援が響き渡っていることもある。2ゲームごとにコートを交代するチェンジオーバーは、わずか90秒。その間にテニス選手たちは平静を取り戻したり、集中を保ったり、あるいはネガティブな思考でいっぱいになってしまったりしている。最近、Adil Daraというグラフィックデザイナーが、この重要でありながら見過ごされがちなテニスの試合の一部分、チェンジオーバーの動画を制作したと、テニス関連ウェブメディア Baselineが伝えている。

動画の中では、シンプルだが見事に特徴をとらえた線画のロジャー・フェデラー(スイス)が静かに座っていたり、ニック・キリオス(オーストラリア)がバナナを食べていたり、ラファエル・ナダル(スペイン)が特徴的な顔をいじる動作を見せている。

動画に添えられた文章は「チェンジオーバーは、ゲームの間の90秒の中断だ。ボールは打たれず、ポイントもない。1分半の間テニス選手の孤独は万人にさらされる。作戦を思いついたり、完全に思考ゼロになったり。遅かれ早かれ審判が時間を告げ、プレーは再開される」

作者は、「以前の試合を見ていて、選手たちのポイントやゲームの間の行動は、ラリーと同じぐらい重要に思えることに気付いたんです。観客にとっても、プレーをしていない時にプロ選手たちが何をしているのか見るのはとても面白い」と語る。

「チェンジオーバーでやることは選手によってまったく違います。フェデラーは水を取って目の前のコートを見つめる。彼の集中が揺らぐことはないように見えます。キリオスは時にチェンジオーバーの間中わめいていたりします。ナダルはラケットをチェックしたり、ずっとこまごまと動いています」

サーブもストロークも打たれることはなく、スコアも動かず、何も変わらない。チェンジオーバーはいくらか今の世界の状態のようだ。

「それぞれの選手がチェンジオーバーという中断の時間を過ごすそれぞれの方法を持っているようです。自分自身と話したり、瞑想したり、注意を読んだり、ラケットを破壊したり。それはSNSで見ることができる、人々が隔離時間を過ごす方法にも似ています。パズルをしたり、料理をしたり、ワークアウトをしたりアートに取り組んだり。皆それぞれに工夫をしている」とDara氏は語った。

彼とLeah Gorenは、大きな大会では最初に中止になったカリフォルニア州インディアンウェルズの南西にあるThe Courtsというテニスクラブのオーナーで、確かに二人は隔離時間を過ごす工夫をしている。彼らはテニスクラブを閉めているので、空いた時間にアートを創作したのだ。

発案から完成まで、この27秒の動画の制作に数日かかった。「家にいなければならないから、多くの人たちが生活のテンポを遅くして、時間のかかるプロジェクトに取り組むことに慰めを見出しています」とDara氏。

チェンジオーバーは永遠には続かない。それは訪れては去っていく。今何をするかは私たち次第だ。やがて時は来て、プレーは再開するのだから。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2019「ATP1000マイアミ」でのキリオス

(Photo by TPN/Getty Images)