文 鈴木友也出典:SPOZIUM 2015年5月14日(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)前回のコラムでは、日米におけるスポーツ協賛活動の違いを「戦場の違い」として簡単に整理しました(下表)。メディア露出が中心…
文 鈴木友也
出典:SPOZIUM 2015年5月14日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
前回のコラムでは、日米におけるスポーツ協賛活動の違いを「戦場の違い」として簡単に整理しました(下表)。メディア露出が中心になりがちな日本の協賛モデルを「メディア・ドリブン」(Media Driven)、協賛企業が抱える経営課題(イシュー)に対して解決策を検討する米国の協賛モデルを「イシュー・ドリブン」(Issue Driven)と名付け、日本のスポーツ協賛活動も「イシュー・ドリブン」への方向転換が求められている現状を解説しました。
誤解がないように補足しておくと、私は「メディア・ドリブン」の協賛活動を否定するつもりは全くありません。露出は協賛活動での大きなメリットの1つです。ただ、露出が効果的かどうかは、企業の抱えるイシューや製品・サービスのライフサイクルにより大きく異なります。
導入期で知名度がほとんどない製品・サービスや、起業したり買収により社名変更したばかりの会社にとって、露出(Attention)を確保して認知度を高めることは重要です。しかし、誰もが知っているような会社や製品にとって、優先順位の高い課題は露出(Attention)よりむしろ消費者にいかに購入して頂くか(Action)であるケースの方が多いはずです。
その意味で、「イシュー・ドリブン」の協賛とは、「メディア・ドリブン」も包含する、消費者や事業者の購買心理をトータルで捉えた考え方だと理解して頂ければと思います。
“ホットボタン”を探せ
イシュー・ドリブンの協賛を実現するために、米国では「まずホットボタンを探せ」と言われます。「ホットボタン」(Hot Button)とは、「決め手になるスイッチ」のことを指す英語で、スポンサーシップの文脈では「協賛企業の課題解決の決め手になるポイント」「消費者の商品購入の決め手になるもの」といった意味で用いられます。
ホットボタンを探すためには、協賛企業の業界特性や企業固有の経営課題を理解し、それに対してソリューション(解決策)を提供する意識が肝要です。ですから、スポーツ組織側の担当者には、経営コンサルタントとしてのスキル、センスが求められることになります。
協賛企業が身を置く業界には、業界固有の特性や共通する経営課題が必ず存在します。まずはそうしたイシューを見極め、同業他社との差別化を図るために必要なホットボタンを探し出すのです。
石油サービス業界を悩ます2大イシュー
実例を挙げて説明しましょう。
米プロフットボールリーグ(NFL)に所属するジャクソンビル・ジャガーズの協賛企業の1社に、地元でガソリンスタンド兼コンビニチェーンを手掛けるデイリーズ(Daily’s)という会社があります。ここでは、同社の協賛活動をイシュー・ドリブンの教科書的事例として解説してみましょう。
デイリーズのような石油サービス業界には、大きく2つの業界課題が存在します。1つ目は、サービスによる競合との差別化が難しい点です。
皆さんもガソリンを給油する時をイメージして頂ければ分かると思いますが、運転手は「ガソリンが少なくなってきた時」に目についたガソリンスタンドの中で「ガソリン価格が比較的安い」給油所に入るケースが大半だと思います。あるいは、自宅から一番近い(もしくは車を入れやすい)給油所があれば、無条件でそこを利用するケースもあるかもしれません。いずれにしても、その給油所をどの会社が経営しているかを気にする人は少数派でしょう。
その意味では、立地と価格が購買を決定する要因と言えますが、これは事業者が主体的にコントロールできるものではありません。給油所の立地は簡単には変えられませんし、価格も元締めの都合でほぼ決まってしまい、給油所の経営努力には限界があります。消費者の多くは「ガソリンはどこで入れても同じ」という考えを持ち、ブランドによる差別化が難しいのです。
2つ目の課題は、クレジットカード決済によるセルフ給油が大半である点です。
米国では、ガソリンスタンドには必ずと言っていいほどコンビニが併設されています。しかし、カード決済のドライバーは、給油を終えてその場で支払いを済ませると、コンビニに足を向けずにそのまま走り去って行くケースが少なくありません。
クレジットカードを使わなければ、運転手はコンビニのレジまで給油料金を支払いに行かなければなりません。こうなると、コーヒーやソフトドリンク、ガム、スナック、フルーツなどを併せて買っていく可能性が生まれますが、カード決済ではこうしたクロスセルの機会が奪われてしまうのです。
「容易でない競合との差別化」と「クロスセルの機会ロス」。この2つのイシューに対して、デイリーズとジャガーズはどのようなホットボタンを押したのでしょうか?続きは次回のコラムで解説します。
鈴木友也
トランスインサイト株式会社 代表
1973年生まれ。一橋大学法学部卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学アムハースト校に留学(スポーツ経営学修士)。2006年より現職。日本のスポーツ組織、民間企業、メディアなどに対してコンサルティング活動を展開。高校まで野球部、大学時代はアメフト部所属。