新型コロナウイルスの感染拡大により、メジャーリーグはアリゾナ、フロリダに加え、テキサスの3州で行なう案も浮上するなど、…
新型コロナウイルスの感染拡大により、メジャーリーグはアリゾナ、フロリダに加え、テキサスの3州で行なう案も浮上するなど、公式戦開催に向けてさまざまな議論を交わしているようです。そんな先行き不透明な状況でも、各チームの監督はいつでも開幕できるよう、準備を進めていることでしょう。

1番打者として期待を寄せられている秋山翔吾
新シーズンに向けて構想を練る戦略のひとつに、個性的なバッターをどのような順番で並べるか、打順の熟考は欠かせません。そのなかでも春季キャンプの時、印象に残ったのは1番バッターの起用法です。
6年ほど前、メジャーではチームナンバー1の強打者が2番を打つ、いわゆる「最強2番打者ブーム」が巻き起こり、日本でも話題となりました。メジャー最高野手と称されるマイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)や、2015年のア・リーグMVPに輝いたジョシュ・ドナルドソン(当時トロント・ブルージェイズ/現ミネソタ・ツインズ)などが代表例です。
しかし、最近は2番だけでなく、1番も強打者が打つ傾向にあります。
かつて1番打者と言えば、俊足巧打タイプが多くを占めていました。現在シアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏や、ミルウォーキー・ブルワーズなどで活躍した青木宣親外野手(現ヤクルト・スワローズ)などは、その当時を象徴するリードオフマンでしょう。
それが近年、バッティングのいい選手に多く打順を回すことによってチームの得点力が上がるというデータや、フライボール革命によってホームランが急増した影響もあり、1番バッターにもパワーを重視する傾向が強まってきました。
2017年にヒューストン・アストロズが初の世界一に輝いた時、1番打者のジョージ・スプリンガーはア・リーグ10位タイのシーズン34本塁打を記録し、ワールドシリーズでも5本塁打を放ってMVPを獲得。とても1番バッターとは思えないパワーに驚かされました。
2018年にボストン・レッドソックスが世界一になった時は、1番打者のムーキー・ベッツがリーグトップの打率.346、長打率.640をマーク。それに加えて32本塁打、30盗塁の「30−30」の活躍でア・リーグMVPも獲得し、それまでの1番バッターの常識を完全に覆しました。
さらに昨年、ニューヨーク・ヤンキースはアーロン・ジャッジを1番に起用。身長201cm・体重128kgの巨漢スラッガーを起用したことは大きな話題となりました。アーロン・ブーン監督によると、2017年に当時メジャー新人最多の52本塁打を記録した驚異的なパワーに加え、リーグ1位の127四球という選球眼のよさ、そして同2位の出塁率.422という数字が決め手となったようです。
また、アトランタ・ブレーブスは昨年、若きスターのロナルド・アクーニャ・ジュニアを4番に置いて開幕を迎えたものの、白星が伸びず18勝20敗と低迷しました。しかし、5月10日からアクーニャを1番に変更すると、チームの得点力は1試合平均4.82得点から5.42得点と大幅にアップ。アクーニャも息を吹き返し、自慢のパワーとスピードを遺憾なく発揮するようになりました。
そして今年の春季キャンプ、シカゴ・カブスのデビッド・ロス新監督も決断します。チームナンバー1の強打者クリス・ブライアントを1番に起用すると発表しました。
2013年のドラフト1巡目・全体2位指名でカブスに入団したブライアントは、2015年のナ・リーグ新人王に輝き、2016年はシーズンMVPも獲得。「恐怖の2番バッター」として大活躍し、108年ぶりのカブス世界一に大きく貢献しました。
しかしそのオフ、1番を務めたデクスター・ファウラーがFAでセントルイス・カージナルスに移籍すると、カブスはリードオフマンの不在に苦しみます。昨年のメジャー1番バッターの成績を比べてみると、カブスは「出塁率」「wRC+」ともに全30球団中最低の数字でした。
さて、ここで気になる「wRC+」とは何か。これは最近、アメリカで話題になっているセイバーメトリクスの新たな指標です。
「wRC+」は「Weighted Runs Created Plus」の略称で、直訳すると「加重された得点創出プラス」。わかりやすく言うと、「どの選手が、いかに多くの得点を生み出しているか」を表す数値です。
計算方法は複雑なので割愛しますが、1打席当たりの得点の多さをリーグの平均打者は「100wRC+」とした場合、それに比べて何パーセント多いかを表す指標として用いられています。たとえば、160wRC+(1.6倍)以上は突出してすばらしく、140wRC+(1.4倍)以上は非常にいい、というような評価となり、この数値が大きいほど打撃能力や出塁能力が高い選手と言えます。
野球ウェブサイト『FanGraphs』によると、2019年のメジャー全体1位はトラウトで180wRC+。1番打者ではスプリンガーが156wRC+で6位に入っています。
スプリンガーは1番打者として出塁率.385をマークし、自己最多となる39本塁打でチームに多くの得点と勝利をもたらしました。これほど高い数値を中軸打者ではなく、1番打者が出したのは驚きです。
18年ほど前の2002年当時、メジャーがパワーよりスピードある1番打者を求めていた時代にさかのぼると、1番打者の平均wRC+はメジャー全体の平均を下回る93 wRC+でした。これは、3番〜6番の評価基準より低く、7番あたりと並ぶ数値です。
シンシナティ・レッズで1番打者として期待される秋山翔吾外野手は、昨年西武ライオンズで20本塁打、長打率.471と、パンチ力のある打撃成績を残しました。とは言っても、彼が「大きな影響を受けた」イチロー氏や青木選手と同じように、ベースは俊足巧打タイプです。
4番のようなパワーを持つ1番打者がひしめき合うなかで、日本のリードオフマンがどう立ち向かうか。秋山選手は「自分自身のプレースタイルを貫く。毎日ヒットを打って、塁に出ることを心掛けたい」と語っています。
昨年、レッズの1番打者が記録した出塁率.329はリーグ8位と芳しくありませんでした。デビッド・ベル監督は秋山選手について「出塁へのアプローチがいい」と評価し、1番で起用したい考えです。その期待に応えるためにカギとなるのは、やはり出塁率とwRC+でしょう。
昨年、秋山選手の出塁率.392はリーグ6位、142wRC+は同7位でした。メジャーでも西武時代のように高い数字を叩き出すことができれば、不動の1番打者としてポジションを確立できると思います。