欧州スター選手列伝極私的バロンドール(5)パベル・ネドベド(2002-03) サッカーの世界では、後世に語り継がれるような印象的なシーンは、ゴールという華やかな瞬間に由来することが多い。それは、圧倒的に攻撃系の選手によって受賞者が占められて…

欧州スター選手列伝
極私的バロンドール(5)
パベル・ネドベド(2002-03)

 サッカーの世界では、後世に語り継がれるような印象的なシーンは、ゴールという華やかな瞬間に由来することが多い。それは、圧倒的に攻撃系の選手によって受賞者が占められている、バロンドールの歴史を見ても明らかだろう。



2002-03シーズンのCLレアル・マドリード戦は語り草。ユベントスはネドベドの活躍で決勝に進出した

 しかし、攻撃的MFでありながら、華やかなゴールとはかけ離れたワンシーンが大きなきっかけとなり、ヨーロッパ最優秀選手の座を射止めた男がいる。無尽蔵のスタミナでピッチを走り回り、界中のファンに愛されたユベントスの名手、チェコ代表パベル・ネドベドである。

 時は2002-03シーズン、欧州チャンピオンズリーグ(CL)準決勝。第1戦を1-2で落としたユベントスが、ホームに優勝候補最右翼と目された銀河系軍団レアル・マドリードを迎えた第2戦だ。

 下馬評を覆し、クロード・マケレレ不在のレアル・マドリードを序盤から圧倒したユベントスは、前半に2点をリードすると、後半に入った73分には、ネドベドがダメ押しの3ゴール目。ユベントスが決勝進出をほぼ確定した状況で迎えた、82分の出来事だった。

 ボールをキープするスティーブ・マクマナマンに対し、ネドベドがセンターサークル内でスライディングタックルを仕掛けると、それが危険なタックルと見なされてレフェリーがイエローカードを提示。その瞬間、累積警告により決勝戦のピッチに立てないことを悟ったネドベドは、両手で顔を覆ってひざまずいた。

 このシーズンにおけるユベントスの大黒柱がネドベドであることは誰もが認知していただけに、試合後に勝者であるはずの彼が流した涙は、この上なくエモーショナルなワンシーンとして人々の記憶に刻まれることとなった。

 ちなみにCLでは、2014-15シーズンから準々決勝終了後に累積警告がリセットされるルールが採用されているが、それがファンの間で「ネドベド・ルール」と呼ばれる理由はそこにある。

 もっとも、その無用とも言えるタックルにしても、常に全力を尽くすネドベドのプレースタイルを知っていれば納得できるはず。当時チームを率いていたマルチェロ・リッピ監督も、ネドベドを評して「夢の中でも走っている」という名言を残したほど。開幕から故障者続出に悩まされたこのシーズンのユベントスにおいて、ほぼフル稼働した選手もネドベドだけだった。

 とりわけ加入2シーズン目を迎えたこの時は、本来のサイドMFからトップ下、ダヴィド・トレゼゲとアレッサンドロ・デル・ピエロの強力2トップの下にポジションを移したことで、リッピの戦術にフィット。一気に覚醒し、29試合9得点をマークしてユベントスの2連覇に大きく貢献すると、文句なしでセリエA最優秀選手賞を受賞した。

 2002-2003シーズンのフィナーレを飾るチャンピオンズリーグ決勝戦は、マンチェスター・ユナイテッドの本拠地オールド・トラッフォードで行なわれた。ミランとの同国対決となったその大舞台の取材では、偶然にも試合前にチームバスの近くにいた私服姿のネドベドに遭遇した。

 金色に輝く長髪と、鋭くも優しさを感じさせるブルーの瞳。それを目の当たりにした瞬間、当時サッカー誌の編集長を務めていた筆者は、バロンドール最有力候補と言われていた彼を表紙にすることを心に決めた。

 その決勝戦で、ユベントスはCLのタイトルは獲得できなかったものの(ミランに0-0からのPK戦の末、敗戦)、それから約半年後、その男はティエリ・アンリをおさえてバロンドールを手にした。そして2004年の新年号では、力強い目にピントを合わせたネドベドのアップが表紙を飾った。