文 内野宗治 取材協力 加賀一輝 構成 SPOZIUM編集部 出典:SPOZIUM 2015年4月10日 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります) 二刀流・大谷翔平(北海道日本ハムファイターズ)、アメリカ…

文 内野宗治

取材協力 加賀一輝

構成 SPOZIUM編集部

出典:SPOZIUM 2015年4月10日

(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

二刀流・大谷翔平(北海道日本ハムファイターズ)、アメリカ帰りの松坂大輔(福岡ソフトバンクホークス)や中島裕之(オリックス・バファローズ)など、2015年のプロ野球界はパ・リーグに所属する選手への関心が高い。そんなパ・リーグのファン拡大の一助を担っているのが、パシフィックリーグマーケティング株式会社(以下PLM社)だ。

PLM社はリアルタイムでの試合配信等を行う「パ・リーグTV」をはじめとする様々なコンテンツを通じて、リーグひいてはプロ野球の新しいファンを増やすミッションを遂行。07年の設立当初は1.8億円の売上だったが、15年度は約9倍の16億円超を見込んでおり、わずか10年足らずで急激な成長を果たしている。今回はPLM社のこれまでの実績と今後の戦略について、3つのキーワードから迫ってみたい。

◆デジタルメディア

PLM社の収益の柱であるデジタルメディア事業。近年は技術革新が進んでおり、生活様式も大きく変化している。前述のパ・リーグTVもPCやスマートフォン、タブレットでの視聴が可能だ。現在のパ・リーグファンのボリュームゾーンは30代後半~40代前半とされており、これを若年層にも拡げるにはデジタルメディアの活用が不可欠だろう。

そこでPLM社は、MLBならびにMLB Advanced Media社(MLBAM社)を徹底的にベンチマーク。MLBAM社はデジタルメディア事業で大きな成果を挙げており、主力商品のMLB.tvはマルチデバイスでさまざまなデータを調べながら試合の視聴を可能にしている。その結果、ユーザーの平均年齢が30歳程度に下がってきているという。この海の向こうでの成功例を追いながら、収益増とファン層の拡大を狙う現状だ。

パ・リーグTVでも、昨季からデータを調べながらのライブ観戦が可能となった。今季はさらにその数を従来の15種類から、3倍以上となる50種類に増加。これを直感的、視覚的にわかりやすく表示する。さらに勝敗予想などのゲーム機能も加えることで、ユーザーに試合そのもので起きていることを気軽に楽しんでもらいたい考えだ。また、パ・リーグTV以外にはハッカソンのパ・リーグ版を開催予定(5月ごろの開催を予定)など、さらなる事業拡大を目指す。

◆子ども

さらなるファン拡大には、子どもファンの増加が欠かせない。ただ、PLM社では実際に野球を実際にプレーするファン(Doスポーツとしての)ではなく、観戦文化を創り出すファン(Watchの観点)を対象としている。

かつては野球を本格的にプレーしていなくても、休み時間、放課後、テレビゲーム、地上波での中継と、1日に少なくとも4回のタッチポイントが存在した。しかし現在はサッカー等の台頭や遊びの多様化、地上波中継の減少と、いずれも希薄に。これに危機感を感じたPLM社は、子どもやその親・祖父母にもタッチポイントをつくる機会を設けた。

その代表例が「親子ヒーロープロジェクト」だ。球場で楽しい体験をしてもらうためのプロジェクトで、パ・リーグ6球団横断で行うものだ。昨季は円谷プロダクション協力の下、ウルトラマンのキャラクターが各球団の本拠地に登場。ヒーローショーや写真撮影会だけでなく、ベースランニング等の体験型イベント、ウルトラマン仕様の選手紹介(ビジョンでの選手紹介が隊員の格好になる)を行うことで、野球とのつながりを創出していた。今季は仮面ライダーとのコラボレーションが予定されている。

また、知育アプリも開幕前にリリースされ、「さんすうホームラン」は第1週目で子ども(6-8歳)カテゴリのAppleランキングで第1位を獲得。学習塾に通うような子どもたちにも野球を身近に感じてもらうよう、アプローチを展開している。

◆海外

PLM社は新しいファン層の拡大に向けて、国内だけでなく海外にも目を向けている。人口の減少、国や業界の成熟に伴い、国内でのマーケットは縮小傾向にある。そこで、日本で最も人気のあるスポーツ・プロ野球を海外にプロモーションしようということだ。

海外に対するセグメントは大きく3つに分けられており、その1つ目は隣国である台湾・韓国。台湾出身の陽岱鋼(北海道日本ハムファイターズ)、韓国出身の李大浩(福岡ソフトバンクホークス)と、両国ともご当地出身のスターを抱えており、現地テレビ局からのニーズも確かに存在する。

特に親日国の台湾には積極的なアプローチを仕掛け、現地の公共交通機関へのポスター掲出などを敢行。さらに、現地語のFacebookページを開設すると、1週間で1万いいね!を記録する上々の滑り出しを見せた。今季は現地メディアなどと連動して、日本への訪問客の1%(280万人の1%=2.8万人)が球場へ足を運ぶような仕掛けづくりをしていく。

2つ目は中米諸国。野球振興国が多い地域で、特にメキシコはニーズが存在している。ルイス・メンドーサ(北海道日本ハムファイターズ)、ルイス・クルーズ(千葉ロッテマリーンズ)が在籍していることが大きいという。また、中長期的な戦略として選手獲得につながることも考えられる。母国で自分の活躍する映像が観られるからだ。

そして3つ目はASEAN諸国。上記の2つに比べると野球への親しみは薄く、「野球とは何か?」というところからアプローチする必要がある。それでも訪日ニーズの高いタイや経済発展の目覚ましいインドネシア、マレーシアにはターゲットにする価値があると踏んでいるようだ。プロ野球そのものではなく、「日本で最も親しまれているスポーツコンテンツ」として観光+αの延長線上で訴求していきたい考えだ。未知数な部分はあるものの、将来的な投資という意味では可能性は無限大なのかもしれない。