「選手やファンにとって安全で、感染が悪化しないようになるまで、野球は戻らない。これが唯一、決まっていることだ」 新型コロ…
「選手やファンにとって安全で、感染が悪化しないようになるまで、野球は戻らない。これが唯一、決まっていることだ」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期している開幕の時期について、メジャーリーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーはこう語りました。

今季のサイ・ヤング賞候補に選出されたダルビッシュ有
今シーズンの開催方式を巡っては、アリゾナ州に全30球団を集めて開催する案や、フロリダ州とアリゾナ州でリーグを再編する案など、さまざまな意見が取り沙汰されています。選手たちは今後の動向を見守りながら外出を自粛し、その近況はSNSなどの投稿で知ることも増えてきました。
なかでも個人的に注目しているのは、シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手です。連日のようにツイッターやYouTubeに近況などをアップし、ファンを楽しませてくれています。
そのダルビッシュ投手は今季に向け、本職のピッチングでも高い評価を受けています。3月10日にMLBの公式サイトがサイ・ヤング賞候補20人を選出し、ダルビッシュは8位にランクインされました。
昨シーズン後半戦は4勝4敗ながら、防御率2.76、被打率.199、118奪三振をマーク。その一方で与四球はわずか7個という、すばらしい数字を残しました。それが8位にランクインされた理由です。
3月29日には、同じくMLB公式サイトにて「サイ・ヤング賞を受賞していない最高の投手たち」という特集記事が掲載されました。そのなかの「まだ受賞の可能性がある投手」というカテゴリーでも、ダルビッシュは選ばれています。
テキサス・レンジャーズ時代の2013年、ダルビッシュ投手はサイ・ヤング賞投票で2位に選ばれました。しかし、あと一歩届かず。メジャーの投手にとって最高の栄誉であるサイ・ヤング賞を受賞するためには、今季どんなハードルを越えなければならないのか。さまざまな角度から考えてみましょう。
まずは年齢という面から。メジャー9年目のダルビッシュ投手は、今年8月で34歳となります。
2010年以降の両リーグのサイ・ヤング賞投手を見ると、34歳以上で受賞したのは述べ20人中、たったふたりしかいません。しかも近年、メジャーでは若手が次々と台頭しており、まさに「若き剛腕投手の時代」を迎えています。
上記のふたりとは、2012年のR・A・ディッキー(ニューヨーク・メッツ/当時38歳)と、2019年のジャスティン・バーランダー(ヒューストン・アストロズ/当時36歳)です。そのうち、ディッキーは投手寿命の長いナックルボーラーなので、34歳以上での受賞者は実質ひとりと言ってもいいでしょう。
ただ、直近4年間のナ・リーグを見ると、2年連続でサイ・ヤング賞投手に輝いた2016年・2017年のマックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ/当時32歳・33歳)と、2018年・2019年のジェイコブ・デグロム(メッツ/当時30歳・31歳)は、ともに30歳以上で受賞しました。現在33歳のダルビッシュ投手と年齢的に大差はありません。
また、サイ・ヤング賞に選ばれる判断基準も、時代とともに変わってきました。
昔は最多勝・防御率・奪三振の主要3部門のタイトルホルダーが優位に立っていました。しかし、近年は最多勝が評価の対象外になりつつあります。なぜならば、勝ち星は味方の援護などによる運・不運の影響が大きいからです。
2010年のフェリックス・ヘルナンデス(シアトル・マリナーズ/現アトランタ・ブレーブス)は味方の援護に恵まれず13勝12敗に終わり、2018年のデグロムはブルペンと守備に足を引っ張られて10勝9敗という成績でした。それでも、ふたりはサイ・ヤング賞を受賞しています。
ちなみに、昨年はダルビッシュ投手も不運に泣き、5月4日から6月21日まで10試合続けて勝敗なし、という球団新記録を作りました。後半戦も好投しながら4勝4敗の勝率5割に終わっています。
勝利数に代わり、次に高く評価されるようになったのは投球回数でした。
2010年のヘルナンデスが受賞できた要因のひとつは、馬車馬のように働いてア・リーグ最多の249イニング3分の2も投げたからです。ただし、それも最近は球数規制の強化によって、評価の対象として大きな割合を占めることはなくなってきました。
2018年、ブレイク・スネル(タンパベイ・レイズ)は最終候補者3人のなかで最も少ない投球回数ながらサイ・ヤング賞を受賞しています。先発投手としてフルシーズン投げた過去の受賞者のなかでも180イニング3分の2という数字は最も少なく、奪三振数も最終候補者3名のなかで最少でした。
しかし、その代わりに高く評価されたのが被打率と防御率です。バッターに打たれないピッチングでメジャートップの被打率.178を残し、防御率1.89もア・リーグ断トツの数字でした。
2018年のナ・リーグ受賞者、デグロムも同様です。メジャートップの防御率1.70が高く評価され、300奪三振を記録したシャーザーの3年連続受賞を阻止しています。
さらに近年、受賞者の評価として注目されているのが、昨年のバーランダーが同僚のゲリット・コール(現ニューヨーク・ヤンキース)に競り勝って2度目の受賞の要因となったWHIPでしょう。
WHIPは投手の評価項目のひとつで、投球回あたり与四球と被安打数の合計、すなわち1イニングあたり何人の走者を出したかを表す数値です。バーランダーはメジャートップのWHIP0.80が最も高く評価され、被打率.172(メジャー1位)と防御率2.58(ア・リーグ2位)も受賞につながったと言われています。
そういった傾向から、サイ・ヤング賞に選ばれる指標として、今季はダルビッシュ投手の防御率、被打率、WHIPの数字に注目したいと思います。
サイ・ヤング賞投票で2位に入った2013年、ダルビッシュ投手はリーグ1位の被打率.194を記録しました。防御率2.83とWHIP1.07はリーグ4位。ただ、受賞したシャーザーと比べると、被打率(.198/2位)や防御率(2.90/5位)では肩を並べたものの、WHIP(0.97/1位)で差をつけられました。
ダルビッシュ投手がサイ・ヤング賞候補に上がったのも、昨シーズン後半の成績(防御率2.76=リーグ5位、被打率.199=4位、WHIP0.81=2位)を見れば納得できるでしょう。とくに防御率とWHIPは2013年を上回るほどのすばらしい数字です。
さて、ダルビッシュ投手にとって、サイ・ヤング賞を争う最大のライバルは誰でしょうか。
MLB公式サイトが選出したサイ・ヤング賞候補からナ・リーグの投手をピックアップすると、デグロム、シャーザー、ウォーカー・ビューラー(ロサンゼルス・ドジャース)、ジャック・フラハーティ(セントルイス・カージナルス)、スティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)、クレイトン・カーショウ(ドジャース)といった名前が上位に入っていました。
2年連続受賞のデグロム、両リーグ合わせて3度受賞のシャーザー、昨年ワールドシリーズMVPのストラスバーグ、2011年から4年間で3度も受賞したカーショウ……。これら常連たちがひしめき合うナ・リーグのなかで、メディアから最も注目されているのがビューラーとフラハーティです。
ビューラーは最近2年間で22勝9敗、防御率2.98、WHIP1.01と、一気に頭角を現わしてきた25歳。9イニングあたり10.3奪三振をマークするなど、球界屈指の速球投手です。
一方、フラハーティは昨年一躍エースとなった24歳。先発投手陣のなかでリーグ1位のWHIP0.97をマークし、9イニングあたり6.2被安打も最も少ない数字を残しています。ふたりとも伸び盛りな時期だけに、ダルビッシュ投手にとって強力なライバルとなるでしょう。
果たして、ダルビッシュ投手は日本人初のサイ・ヤング賞を受賞することができるでしょうか。シーズン開幕の目処はまだ立っていませんが、新型コロナウイルスの感染拡大が終息となり、みなさんがベースボールを楽しめるようになる日を心待ちにしています。