大道典良が明かすホークスの育成 後編(前編はこちら>>) 2017年の育成2位で福岡ソフトバンクホークスに入団した周東佑…
大道典良が明かすホークスの育成 後編
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2017年の育成2位で福岡ソフトバンクホークスに入団した周東佑京は、支配下登録された昨シーズンに大ブレイクを果たした。102試合の出場でチームトップの25盗塁。そのオフに開催されたWBSCプレミア12では、大会最多となる4盗塁を記録するなど、快足を披露して一躍名を広めた。
今後の課題は打撃だが、大道典良ホークス二軍打撃コーチはどこに改善点があるとみているのか。さらに、周東のように育成から一軍の選手たちを脅かしそうな若手たちも紹介してもらった。
【入団前から輝いていた周東佑京の足】
「代走・周東」とアナウンスされただけで、スタンドから歓声が沸きあがってくる。私も長くプロ野球界にいるが、代走だけでここまで歓声が上がる選手はほとんど見たことがない。
持ち前の快足で昨シーズンにブレイクした周東
photo by Sankei Visual
周東佑京は、東京農業大学北海道オホーツクで1年時からレギュラーとして活躍。もともと福岡ソフトバンクホークスには”東農大ルート”があったが、樋越優一(2015年育成ドラフト3位、現ホークス職員)の後輩だったことで周東の情報を得ることができ、作山和英スカウトが1年時からマークしていたと聞いている。
50メートル5秒7。一塁到達も3秒8を記録。小川一夫二軍監督は「プロでもトップクラスのスピードが周東獲得の決め手になった」と明言していた。
私が周東に出会ったのは入団1年目(2018年)の新人合同自主トレの初日だ。機敏さ、足の速さはどの支配下選手よりも際立っていて一瞬にして目を奪われた。作山スカウトからは、「とにかく足はピカイチ。大道、あとは打つほうを」と言われた。まさに育成契約の理由が、打撃技術の低さだった。
指導してみると、体全体で巻き込むように打ってしまう癖があり、そのせいかスイングも鈍い。打撃を一軍レベルまで持っていくのは時間がかかると感じたが、周東には足がある。その”一芸”はプロでもトップクラスだ。それに、内野も外野も守りはそつなくこなす。守備を見ても間違いなく支配下登録されるだろうと思った。課題は打撃だけだ。
1年目は二軍と三軍を行き来しながら、打席数と内外野の守備の経験を積んだ。最終的に二軍の公式戦90試合に出場し、打率は.233ながら、ウエスタンリーグトップの27盗塁を記録。このうち6盗塁は最後の3試合で稼いだのだが、その背景には、元ホークスで走塁のスペシャリストでもあった城所龍磨(現ホークス職員)によるアドバイスがあったそうだ。リードが小さいことを指摘され、大きくとるようになったことがタイトル獲得につながったという。
2年目の3月に支配下登録されたことには、ホークスのスローガン「奪sh!」が大きく影響している。リーグ二連覇を果たした埼玉西武ライオンズとの差は、ズバリ足。そのため「王座奪取」と「ダッシュ」を掛け合わせ、走塁革命を打ち出したのだ。チームがそういう方針を立てる中で、二軍で盗塁王となった周東に白羽の矢が立たないはずがない。
打撃指導担当の私は、コーチミーティングで「周東、一軍にします?」という意見があがった時、正直なところ「え?」と思った。打撃については、まだ平均点を全然クリアしていなかったからだ。しかし、周東ほどベースランニングの技術がある選手は一軍でもいないことから、「打てなくても必要」と判断されたのだ。誰にも負けない武器があるというのは本当に強い。
支配下登録選手としてスタートを切った2年目は、序盤にスタメン出場の機会もあったものの、故障組の復帰が相次ぐと代走や守備固めとしての起用が増えた。しかし、結果的には代走時に歓声が沸く選手にまでなることができた。武器を活かした生き残り方であり、ホークスの一軍選手として認められた証だ。
一方、打率は.196に沈んだ。周東はバットをグリップいっぱいに持って長打を打とうとする。しかし、いかにその気持ちを押し殺して「内野安打でもいい」と割り切れるかどうかが、周東の今後にかかっていると私は思う。
凡打でもセーフになる足を持っているのだから、地面に叩きつけるバッティングでも構わない。塁に出ないと、武器である足を使うこともできない。とにかく、バットに当てて塁に出ること、本塁に帰ってくることが最大の目的ではあるが、走者となってバッテリーに球種を絞らせたり、失投を誘ったりすることも、チームにおける周東の役割だ。
あの足があった上で、さらに小技の利く打撃ができるようになったら、それこそ何億も稼ぐ選手になる。プロで長く生き残るためには、今求められていることに応えなくてはならない。それを意識して、打撃技術はもっと磨かねばならない。
【一軍の選手たちを脅かす若鷹たち】
今年のオープン戦で強いインパクトを残したのが、カーター・スチュワート・ジュニアだ。彼は2018年のメジャーリーグのドラフトでアトランタ・ブレーブスから1巡指名されたが、身体検査で指摘があり契約合意に至らず、昨年5月にホークスが獲得した。
今までの外国人選手はいわゆる助っ人的な存在で「育成」という概念はなかったが、メジャーリーグ1巡目指名の有望株が日本に来て、ホークスが三軍で育てるというのだから画期的だ。我々コーチにとっても、米アマチュア野球界のトップ選手の育成に関わるのは大きな挑戦となる。
そのままアメリカでプロ入りしていたら、彼は最下層のルーキーリーグからのスタートになっていた。月給は円に換算すると12万円ほど。メジャーリーグのすぐ下の3Aでも月給30万円程度で、夢のような給料がもらえるのはメジャーに到達してからだ。それが、ホークスとの契約では活躍次第で年俸が最大で2億円超え。生活の心配をすることなく野球だけに集中できる環境が整っている。
しかも、私もニューヨーク・ヤンキース傘下のチームでコーチ経験をさせてもらったが、特に若い選手への指導は日本のほうが圧倒的に丁寧だ。それに、日本のプロ野球であればアメリカのようにいくつも階層がないので、早い段階からトップレベルでプレーできる可能性が高い。若いうちにレベルアップできれば、アメリカ国内でメジャーリーグを目指すよりも日本に来たほうが近道になる。今後「日本球界からキャリアをスタートさせたい」という外国人選手が次々出てくるかもしれない。
さて、そのスチュワートだが、武器は最速158キロのストレート。130キロ台のカーブも持っている。最初に指導した当時三軍担当の入来祐作ピッチングコーチは、その印象についてこう語ってくれた。
「センスが抜群にいい。キャッチボールを見ていて、リリースポイントの感覚が器用だなと。シーズン途中で助っ人で来日するような選手の投球よりもリリースが丁寧で、日本のきめ細かい野球に対応できるイメージでした」
ただ、日本の高校野球のように本格的な訓練がされていないため、体力的、技術的、また戦略的な部分で未熟なところが見受けられたようだ。実践では、しっかり四球を選ぶ、走塁で仕掛けてくるなど、日本的な野球に苦しめられた。チームで徹底して攻略してくる日本式の手ごわさを痛感したのではないか。ただ、バンド処理などのフィールディングやセットポジションの投球など、日本の野球を彼なりに一生懸命学ぼうとしていた。
私もコーチとして渡米したことがあるが、海外で生活しながら現役でプレーするというのは、きっとそれ以上に大変なことだろう。直接指導に関われないもどかしさはあるが、私も彼のこれからを心から楽しみにしているひとりである。
また、打撃コーチとして以前から注目しているのが、2017年に育成ドラフト3位で入団したリチャードだ。父が元アメリカ海兵隊員、兄はシアトル・マリナーズからドラフト6巡目指名を受け、現在はマイナーリーグに所属。それを聞いただけで持って生まれた身体能力の高さに期待してしまう。身長188cm、体重114kg。コーチからすれば、育成における責任を余計に感じさせる選手である。
沖縄尚学高校時代の通算ホームラン数は25本。3年春の県大会では通算打率4割超えを記録。その長打こそが彼の”一芸”である。プロ入り2年目には三軍戦で11本のホームランを打ち、台湾で行なわれたウィンターリーグでは四番も務めた。まさに三軍制の恩恵を受けて実践経験を積み、今年のオープン戦終了後に支配下登録を勝ち取った。
彼は、ファンがそのプレーを観に球場まで足を運びたくなるような選手に成長するだろう。打撃を見ていても、本当に光るものを感じる。ぜひとも這い上がって、いつかは本塁打王を狙える選手になってほしい。
もうひとり、波乱を巻き起こしてほしいのが、リチャードと同期入団の育成ドラフト1位、尾形崇斗だ。彼は一球投げる度に雄叫びを上げる。私が現役の頃にはよくいたものだが、最近はそういう気迫のある投手をあまり見かけなくなった。昔ながらの選手のようにガッツがある感じがして、人を惹きつける魅力のある投手だと私は思っている。
武器は、高校時代に最速147キロをマークしたストレート。これが彼の”一芸”だ。当初は体が細かったが、トレーニングの甲斐あってだいぶ大きくなり、プロ入り後は最速152キロを記録した。
この春、尾形もリチャードと揃って支配下登録された。ホークスにはあまりいないタイプの投手なので、私はぜひ育ってほしいと思っている。将来的には森唯斗のような存在になってもらいたい。
ホークスには期待が膨らむ若鷹がまだたくさんおり、身内ながら心が弾む。毎年、新人合同自主トレでどんな選手が入ってくるか楽しみでならない。彼らの成長のスピードに追い抜かれないよう、私もコーチとして精進する日々である。