沖縄からNPB参入を目指し、3年をかけてその機運を高めていく--。 2019年7月18日、沖縄初のプロ野球チームとして…

 沖縄からNPB参入を目指し、3年をかけてその機運を高めていく--。

 2019年7月18日、沖縄初のプロ野球チームとして、琉球ブルーオーシャンズが発足した。




元ロッテの清水直行を監督に据え、昨年7月に発足した琉球ブルーオーシャンズ

 監督には元ロッテの清水直行、シニアディレクター兼打撃総合コーチに田尾安志を招聘したほか、亀澤恭平(元中日)、吉村裕基(元横浜、ソフトバンク)など元NPB選手も獲得している。まだ荒削りなチームではあるものの、2月29日に行なわれた巨人3軍とのオープニングゲームでは2-1で勝利を収め、可能性の片鱗を見せた。

 一方で、球団は特定のリーグに属さないという独自路線を打ち出しており、今後の球団運営についても注目が集まる。なぜこのタイミングで、どこにも属さないプロ野球チームを沖縄に作ったのか。その理由に迫りつつ、存在意義について考えていく。

 琉球ブルーオーシャンズの球団代表は、東証1部上場の不動産会社・株式会社タカラレーベン元取締役の北川智哉が務める。「大学まで野球をやっていた」と話す北川がスポーツ事業に着目したのは、選手のセカンドキャリアのサポート体制に疑問を抱いていたからだ。

「野球に限らず、アスリートはその分野のスペシャリストです。しかし日本は、選手に対するセカンドキャリアの支援体制がまだ弱いと感じていました。メディアでは、ときどき成功している人が取り上げられますが、そんなに数は多くないですよね。

 一定の成績を残した選手でも次のキャリアがうまくいかないのであれば、見えないところでもっと苦しい思いをしている人がいるはずです。前職の時から、『そういう人たちを何とかしてあげたい』という思いを持っていました」

 引退した選手が企業にスムーズに就職できたとしても、「”元スポーツ選手”という看板がビジネスの世界で活用できるのは数年だけ」と北川は続ける。営業トークとして肩書が役に立つ期間も長くは続かない。そういった点を考えれば、引退したスポーツ選手がより長く輝ける場は、やはり「競技に携わること」になる。

 そこで北川は、引退した野球選手の”受け皿”となり得るチームを、スポーツビジネスとしての勝算がある沖縄に作ることにした。

 沖縄には毎年、一部期間や離島も含めるとNPB9チームが春季キャンプで訪れる。また、高校野球も盛んで興南高校や沖縄尚学高校などの強豪校がひしめいており、甲子園で上位に食い込むことも珍しくない。プロ野球選手も多く輩出しており、春季キャンプ中の試合に沖縄出身選手が出場すると、ひときわ大きな拍手が起こる。それだけ、県民にとってプロ野球は身近な存在だ。

 さらに近年は、J2のFC琉球が約5000人、Bリーグの琉球ゴールデンキングスが約3000人の平均観客動員数を記録するなど、興行としてのスポーツも根づいてきた。

 球団経営に必要な資金源となるスポンサーは、北川のビジネスの経験を生かして獲得を進めている。北川は前職時代、スポンサーとして楽天イーグルスに協賛しており、企業側の考え方や立ち位置も把握する。実際に、全国展開する大手企業から、地元沖縄の建設工事会社や居酒屋まで、幅広い企業が琉球ブルーオーシャンズのスポンサーに入った。

「基本的に企業は、チームを持つことに消極的です。もし競技に関することで不祥事があると、企業のブランドイメージが低下してしまいますからね。一方で、チームを持っていることが大きなプラスの価値を生み出すことはなかなかありません。

 昨今、親会社の経営不振により、企業チームが廃部となってしまうのはそういった事情があります。そうなると毎年何億円もかけてチームを保有するよりも、どこかのチームにスポンサードするほうがリスクが低い、というのが基本的な考え方になります」

 資金確保の点でもうひとつ特徴的なのは、「一口オーナー制度」を設けていること。一口10万円から申し込むことができ、個人でも琉球ブルーオーシャンズの”オーナー”になることが可能で、チームが大きくなれば株式配当も得られる。自分が投資することで応援する意識が高まり、観客にも当事者となって一緒にチームを発展させていってほしいという狙いがある。

 琉球ブルーオーシャンズの当面の課題は、認知度の向上だ。北川はひとつの試金石として「SNSのフォロワー数」を掲げた。4月7日現在、琉球ブルーオーシャンズのTwitterアカウントのフォロワー数は約2万人。国内の独立リーグでもフォロワー数が1万人を超える球団が少ないことを考えると、好調な滑り出しと言えるだろう。

 2月には元NPB選手入団会見の開催を、選手名を伏せてTwitter上で告知。その選手は元ヤクルトの投手・村中恭兵だったが、会見の当日まで、ネット上では加入選手についての予想が飛び交うなど話題になった。

 一方で地元・沖縄の野球ファンからは、琉球ブルーオーシャンズについて「球団ができたあと、どうなったかは知らない」「実態が見えてこない」「NPB参入は現実的でない」といった厳しい意見も聞こえてくる。

 今後はさらに踏み込んだ認知拡大と、地域との地道な関係構築が求められるだろう。発信面では、現時点で地元ケーブル局での全試合放送が決定されている。2月には地域との交流の一環として、春季キャンプ地・八重瀬町の祭りに参加した。清水直行監督も地域との交流を積極的に行なう姿勢を見せている。

 また、新型コロナウイルスの影響で中止になったが、2月29日の巨人3軍とのオープニングゲームでは小学生で先着1000人を対象にTシャツを配布し、来場時に着用すれば主催全試合を観戦無料にする企画を発表していた。当面は、新型コロナウイルス終息後の1試合目の興行試合で多くの観客を集客し、沖縄県内で存在感を示すことができるかがポイントになりそうだ。

 そのようにして球団が認知を高めても、言うまでもなくNPB参入への道のりは険しい。

 今年1月、ソフトバンクの王貞治球団会長が16球団構想について前向きな発言をしたことは記憶に新しい。だが、野球協約に定められた参入要件やオーナー会議での承認など、参入までには高いハードルがいくつも存在する。北川も「その点は重々承知している」と話す。

「エクスパンション(球団拡張)の可否について、私が言えることはありません。決められたNPBのルールがあって、オーナー会議の決定に委ねられる以上、新規参入を目指す立場からそれに対して発言することは失礼に値すると思っているので。ただチャンスはあると思っています。

 東京五輪以降、日本で(五輪やW杯級の)大きなスポーツイベントが開催される予定はありません。しかし今後は、スポーツやIR(統合型リゾート)といった分野が地域振興のカギを握るはずです。サッカーやバスケットボールのトッププロリーグがこれだけの広がりを見せる中で、日本が誇る”国民的スポーツ”である野球だけが拡大しないかというと、必ずしもそうではないと私は考えています」

 16球団制を実現するには、競技人口減少への対策、少子高齢化による経済縮小を見据えたプロ野球の国際的な興行展開、他競技や既存球団との共存方法など、並行して考えるべき問題が山ほどある。

 しかし、こうした問題には、野球界の未来を考える上で避けては通れない内容も多く含まれるのではないだろうか。球団数増加について議論が活発化することは、野球界にとってプラスの機会とも捉えられる。

 そうして将来的に「NPBが16球団に増える」となった時、沖縄からいつでも手を挙げられる状態を作っておく。琉球ブルーオーシャンズの設立は、その基礎を固めるための第一歩に過ぎない。

 そんな琉球ブルーオーシャンズの可能性をもうひとつ挙げるとすれば、日本野球の価値を世界に伝えられるというところにある。2月中旬に行なわれた北京タイガースとの合同練習では、所属選手の吉村がグラウンド上で実演しながら、熱心に中国人選手を指導する光景が見られた。

 冬でもプレーができる沖縄で、元プロらの一流選手のプレーを間近で見て、直接指導を受けることができ、対戦もできる。さらにリーグに所属しないため、遠征や普及活動、海外への選手派遣といった要望があれば臨機応変に対応することが可能だ。こういった立ち位置で、日本野球を世界に伝える活動をチーム単位で行なっていくことは、非常に意義があるのではないだろうか。

 その昔、琉球王国は日本と中国、東南アジアなどの周辺各国と良好な関係を築き、貿易で栄えたと言われている。琉球ブルーオーシャンズには、「沖縄からNPBを目指す」という目標の実現だけでなく、世界と日本野球を繋ぐ役割も期待したい。