そのピッチング姿を見れば、この投手が3年間でリーグ通算3勝しか挙げていないとは到底思えないだろう。

 身長182センチ、体重78キロの長身かつ均整のとれた体つきに、リリースポイントが高く角度のついた最速155キロの快速球。140キロに迫るカットボールとスプリットに、縦に割れるカーブ。速球でも変化球でも勝負できて、まだ伸びしろを感じさせるとあってはドラフト上位候補に挙がらないはずはない。



小学6年の時にロッテジュニアで優勝した慶應大・木澤尚文

 慶應義塾大の木澤尚文は、3月20日のHondaとのオープン戦に先発登板した。社会人の強豪を相手に6回を投げ、被安打4、奪三振8、与死球3、失点1。バックネット裏に詰めかけた大勢のスカウトの前で、その実力を見せつけた。

「前回の登板で『いかにストライクゾーンで勝負するか』という反省点が出たので、今日はそれを生かしながら、強いチーム相手に最小失点で抑えられたのはよかったと思います」

 試合後、木澤は野球部を通してそんなコメントを出している(以下、カギカッコ内同)。ストレートの球速は150キロを計測した。

 圧巻だったのは5回裏の投球だった。味方のエラー絡みで1点を失って、なおも無死満塁のピンチを背負い、2番の津田翔希を打席に迎えた場面。2ストライクと追い込んだ木澤は、外角低めにストレートを突き刺し、見逃し三振を奪った。前述したように、木澤のボールには角度がある。打者にとってとらえにくい球筋がピンポイントに決まり、流れを呼び込んだ。

「点差があった(その時点でのスコアは4対1)ので、どうやって最小失点で切り抜けるかに考えをシフトしていました。三振を取れたボールの感触はよかったですね。ランナーが埋まっていても、三振でアウトを取れたのは大きかったです」

 この日のベストボールで三振を奪った木澤は、後続から併殺打を奪いピンチを脱している。

 木澤は幼少期からエリート街道を歩んできた。小学6年時には12球団ジュニアトーナメントでロッテジュニアに選ばれ、優勝を飾っている。当時のチームメートに藤平尚真(楽天)がいるが、エース格は木澤だった。藤平が中学3年生だった時に話を聞いたことがあるが、「マリーンズジュニアでは僕よりすごい選手がいて、同じピッチャーの木澤は大会で一番目立っていました」と語っていた。

 八千代中央シニア(千葉)でも3年春のリトルシニア選抜大会で優勝を果たしている。だが、将来を嘱望された木澤は慶應義塾高に進学後、雌伏の時間を過ごすことになる。原因は相次ぐ故障だった。

 1年冬に右肩を痛め、3年時にはヒジを痛めた。高校・大学を通じて1学年後輩の森田晃介にエースの座を譲り、目立った活躍はできなかった。

 大学でようやく故障が癒え、昨春のリーグ戦では先発陣の一角を占め、2勝をマーク。秋には明治神宮大会で好投を見せた。最上級生になった今、木澤は「今はもう体は万全です。痛いところもありません」と胸を張る。

 リハビリに時間をあてる間に、自身の投球フォームを見直すようになった。リリースポイントが高いフォームは角度がつきやすい反面、リリースのタイミングが合わずにボールが抜けやすい。そこで木澤は同じ動作を繰り返せるようになるため、「再現性」を求めるようになった。

「メディシンボールを投げるにしても、同じ体の使い方で同じ出力ができるようにやっていました。『走り込みはいらない』と言う人もいますけど、僕はランニングも同じ距離を同じ歩数で走るという意味では再現性が高められていいと思います」

 日常的なトレーニングから再現性にこだわり、自分のイメージどおり体を動かせるように訓練した。その結果、大学最終学年に入って、ボールの精度は高まりつつある。

「まだまだ技術不足ですけど、変化球の精度は間違いなくよくなっています。カウントを取るボールも、勝負にいくボールも扱えるようになってきましたから」

 あとは大学最終年に結果を残せるかどうか。木澤は「進路は後からついてくるもの」と考えているという。

「今はどうやって優勝するかしか考えていません」

 マウンドを降りれば穏やかに見える木澤だが、勝負どころでは1球投げるたびに「オリャ〜!」「オッシャー!」などと雄叫びをあげる。しかし、本人にとっては無意識だそうで、大学入学後にチームメートから指摘されて初めて、自分がマウンドで叫んでいることに気づいたという。

 そんな激しい雄叫びも、木澤の勝利への飢えのように感じられる。

「マウンドは誰にも譲りたくありません。悪いときでも表情や背中に見せると、チームに悪いムードが伝染してしまうので出さないようにしています」

 今年の慶應義塾大は他にもドラフト候補の関根智輝、佐藤宏樹らアマチュア屈指の投手陣を備える。東京六大学リーグ全体を見渡しても、ドラフト1位候補の早川隆久(早稲田大)を筆頭に、ポテンシャルの高い入江大生(明治大)、長身アンダースローの中川颯(立教大)など有力候補がひしめく。

 このハイレベルな争いのなかで木澤が大ブレイクを果たしたら、今秋のドラフト戦線はますます盛り上がりを見せそうだ。