写真:2019年グランドファイナルでの石川佳純/撮影:ラリーズ編集部

現在、東京五輪卓球種目の日本代表は張本智和・丹羽孝希・水谷隼・伊藤美誠・石川佳純・平野美宇の6選手であるが、なんとそのうちの3選手が左利きである(丹羽孝希・水谷隼・石川佳純)。

日本のトップ選手にはサウスポーが多く、以前と比べても明らかに増えている。

卓球における左利きのメリットやデメリット、他スポーツの例も交えながら、近年の左利き選手増加の理由を探っていく。

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日本トップ選手の左利きの割合




図:日本代表10年前との比較/作成:ラリーズ編集部

世界選手権日本代表(個人戦)の、現在と10年前を比較してみよう。

2009年世界選手権(個人戦)男女日本代表のうち、左利き選手は21人中5人(約24%)である。

一方で、2019年世界選手権(個人戦)男女日本代表のうち左利き選手は15人中6人(40%)である。

一般的な日本人の左利きの割合が約10%であると言われていることを考えると、卓球競技のトップ層において左利き選手の割合が多いことが分かる。

特に、若年層ではよりその傾向が強い。シニアでも活躍している松島輝空(JOCエリートアカデミー/星槎)が優勝した、2019年全日本選手権男子ホープスの部(小学6年生以下の部)では、ベスト8のうちの半数が左利きである(松島も左利き)。今後も卓球競技のトップ層における左利きの割合は高い水準を保つことが予想される。

他のスポーツと比べても左利きの割合が多い




図:他スポーツとの比較/作成:ラリーズ編集部

他スポーツ対比でも卓球は左利きの割合が多い。

野球競技を例にとって考えてみる。例外はあるが、仮に投げる腕を利き腕だとすると、昨年日本シリーズを制した福岡ソフトバンクホークスの所属投手のうち、左利き投手は42人中14人(約33%)である(2020年4月執筆時、球団公式HP「選手名鑑」より)。

また同じラケットスポーツであるバドミントンでは、2020年男女日本代表のうち左利き選手は27人中5人(約19%)である。

一般的な日本人の左利きの割合よりは確実に多く、各競技においても左利きが有利だと考えられるものの、その中でも、近年の卓球競技はトップ層の左利きの割合が多いスポーツだと言える。

卓球における左利きのメリット




写真:丹羽孝希(スヴェンソン)/提供:ittfworld

では卓球競技における左利きの具体的なメリットとは何だろうか。

最大のメリットとしては単純に左利きの選手に慣れていない右利きの選手が多いことである。

左利きの選手が打つボールは右利きの選手の打つボールとは左右逆の回転になる。また打つコースなども逆になるため、右利き選手同士の対戦とは距離感が違ってくる。右利き相手ならばバックハンドを打ってくるところから、フォアハンドで打ち込まれるのである。

上述のようにトップ層に左利きの割合が多いとは言え、チーム内での割合でいけば右利きの選手と練習する機会が多く、普段から左利きの選手と練習している選手は少ない。そのため左利きの選手に対して有効なパターンなどを練習しづらく、右利きの選手は試合では普段慣れていないコース取りなどをする必要がある。

逆に、左利きの選手は普段から右利きの選手と練習する機会が多いため、右利きの選手と対戦しても普段通りのプレーをしやすい。この慣れの差こそが左利き最大のメリットだと言える。




写真:伊藤美誠とのダブルスでレシーブするサウスポーの水谷隼(2019年グランドファイナル時)/提供:西村尚己/アフロスポーツ

もうひとつのメリットとしては、ダブルスでの有利さがある。

ダブルスでのサーブは右利きのフォア側から相手のフォア側へと打球する必要があり、多くの選手が普段とは異なる位置からサーブを出す必要がある。

一方で、左利きの選手からすれば、普段通り打球することになり、ダブルスの際もシングルスで使用しているサーブを出すことが出来る。

レシーブにおいても、右利きの選手の場合は台が邪魔になって踏み込んだレシーブをしにくい。一方で、左利きの選手にとってはバック側からレシーブすることになるため踏み込んでフォアハンドでレシーブ出来る。

また右利きの選手と組んだ場合には、ラリー中にお互いフォアハンドで攻撃しやすいというメリットもある。右利き同士のレシーブではお互いが重ならないように大きく動く必要があるものの、右利き×左利きのダブルスではお互いのプレー領域が重なりにくいため、大きく動かずともフォアハンドで攻撃できるのである。

トップ層ではメリットが薄れる




写真:チキータレシーブをするサウスポーの森薗政崇(2020年カタールOP時)/提供:ittfworld

ここまで一般的な左利きのメリットを述べたが、トップ層の選手においてはこの通りではない。トップ層ともなれば、左利きの選手と対戦する機会も多くなり、慣れている場合も多い。むしろ左利きの選手を攻略できなければ勝ち続けることが出来ないと言っても過言ではない。

また近年のバック技術の進歩もあり、フォアハンドとバックハンドで攻撃力に差があまりなくなってきていることも左利きの優位性を下げている要因の一つと考えられる。近年の平野美宇や張本智和の高速バックハンドなどをイメージしてもらえばわかりやすいと思われる。

このような理由から、トップ層においては左利き選手が特段有利になることは少ないとも予想される。

またダブルスのレシーブにおける優位性についても左利きのメリットは薄れている。これはチキータが浸透してきたためである。チキータであれば右利き・左利きに関わらず、ダブルスにおいて台上で強いレシーブが可能である。これにより、ダブルスのレシーブに関していえば左利きのメリットは薄くなっていると考えられる。

左利き選手が増加している理由




写真:早田ひな/提供:ittfworld

ではどうして近年左利き選手が増加しているのか。

ここからは推測になるが、親や指導者が左利きの選手として指導・育成するケースが増えているのではないか。




写真:ドイツOPでの宇田幸矢/提供:ittfworld

2020年全日本選手権優勝者である宇田幸矢や早田ひなも、もともとは右利きであり、私生活では右利きで生活しているが卓球では左利きである。幼少期から卓球を始められる環境においては、元来の利き腕でなくても卓球のプレーには何ら支障がないことが、宇田・早田らの実績によっても明らかになってきている。




写真:リオ五輪の水谷隼/提供:ittfworld

十数年前から日本代表として世界で活躍してきた水谷隼や石川佳純、丹羽孝希などの活躍の影響もあるだろう。メディアで卓球競技が取り上げられるようになり、テレビの前で世界のトップ選手相手に勝ち星を挙げていく、彼らの左でのプレーに憧れた子どもも多いに違いない。左利き選手のお手本やモデルケースが多い時代なのである。

もちろん、その選手が活躍できるかどうかは選手自身にかかっているが、こういった傾向からこれからも左利きの選手は増えていくと考えられる。

右か左かという視点で観てみるのも、卓球観戦の楽しみのひとつかもしれない。

文:ラリーズ編集部