近年、海外から将来F1を目指す若手ドライバーが参戦している全日本スーパーフォーミュラ選手権。そのなかでも今年、大きな話題を集めている選手がいる。女性ドライバーのタチアナ・カルデロンだ。スーパーフォーミュラに参戦するタチアナ・カルデロン…

 近年、海外から将来F1を目指す若手ドライバーが参戦している全日本スーパーフォーミュラ選手権。そのなかでも今年、大きな話題を集めている選手がいる。女性ドライバーのタチアナ・カルデロンだ。



スーパーフォーミュラに参戦するタチアナ・カルデロン

 コロンビア出身で現在27歳の彼女は、2011年からヨーロッパでレース活動を開始。2016年から2018年までGP3(現FIA F3)で戦い、昨年はF1直下のFIA F2に挑戦した。さらに2017年からザウバーF1チーム(現アルファロメオ)のテストドライバーに就任し、各レースでチームに帯同している。

 しかし、2020シーズンに関しては、FIA F2でのシート獲得に難航。昨年末の時点ではレギュラー参戦するカテゴリーが決まっていない状態だった。

 そんな彼女に吉報が舞い込んできたのは、クリスマスが終わり、まさに年を越そうというタイミングだった。スーパーフォーミュラのチームに急遽、シートの空きができたのだ。

 そのチームとは、4年ぶりに国内トップフォーミュラに復帰を果たすドラゴ・コルセ。現在もスーパーGT(GT300クラス)で活躍する道上龍が率いるチームだ。昨年まで全日本F3選手権に参戦していたスリーボンド・レーシングとタッグを組み、「スリーボンド・ドラゴ・コルセ」として参戦することが決まった。

 当初は、ヨーロッパで活躍中の松下信治を起用するのではないかと言われていた。だが、土壇場で松下のFIA F2継続挑戦が決まり、スーパーフォーミュラへの参戦を断念。チーム側も12月に入って再びドライバーを探すことになった。そこで、ちょうどシートを探していたカルデロンと出会ったのだ。

「タチアナ(カルデロン)に決めたのは今年の1月に入ってからでした。彼女たちがコロンビアに帰っていると時差もあったりして、契約を結ぶまでに本当に時間がかかりました」

 そう語るのは、チームを率いる道上監督。マシンも組み上げて、富士テストに向けて準備万端の状態だったのだが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でカルデロンが来日できない可能性が突然浮上した。

「実は(入国が)あと1日遅れたら、日本に入ってこられない状況でした。参加する海外ドライバーたちの状況も聞いて、周りのチームも早めに日本に呼ぶという情報をキャッチしました。当初は金曜日(3月20日ごろ)に来る予定をしていたんですが、それを我々も急遽早めて彼女を呼び寄せて、来日したのは3月18日でした。

 ただ彼女たちも、今の情勢で出国するリスクもあります。スペインに住んでいて、ずっと家から出られない状態が続いているなかで、『果たしてテストに行っていいのか?』という不安もあったと思います。そんななかで、なんとか来てくれました」(道上監督)

 まさに紆余曲折を経て、ようやくこぎつけたスーパーフォーミュラでの初テスト。初走行前のカルデロンは”ようやく乗れる”という安堵感にも似た表情を見せた。

 今回の富士公式テストでは、新型コロナウイルスの影響により、一般のパドックエリアの入場は禁止。関係者には事前の問診票提出や、チームごとでの濃厚接触が起きないようにピット間隔を空けたり、パーテーションで仕切りを作るなど、徹底した対応がとられた。

 カルデロンは1日目、午前のセッション開始とともにコースイン。だが、気温と路面温度が下がる状況もあって1周目にスピンを喫してしまった。マシンも組み立てたばかりの新車で今回が初走行ということもあり、細かなトラブルに見舞われ、最初は思うように周回を重ねることができなかった。

 それでもカルデロンは少しずつマシンに慣れていき、セッションを重ねるごとにトップとの差を短縮。最初はトップ3.8秒開いていた差が、2日目午後の最終セッションでは2.2秒差まで縮まっていた。

 もちろん、僅差の戦いが毎回繰り広げられるスーパーフォーミュラの世界で、2.2秒差というのは大きいものではある。だが、ドライバーやマシンも含めて初めてのテストだったことを考えると、決して悪くない結果だったとも言える。

 走行を終えたカルデロンは「新たなチャレンジの第一歩目を踏み出せた」と笑顔を見せ、2日間のテストをこのように振り返った。

「初めてスーパーフォーミュラの車両をドライブしたけど、すごくF1に似ているなという印象です。ダウンフォースが高くて、身体にかかるGフォースもすごい。ただ、タイヤは私が長年経験してきたピレリとは特徴がかなり違って、慣れるのに苦労しました。頭の中で引き出しのチャンネルを切り替えないといけないような感じでした。

 でも、少しでも無理をしてコースオフしてしまうと、貴重なテストの時間が失われてしまうから、一歩ずつ着実に走って感覚を掴んでいって、自信がついてから攻めていくことを意識しました。すべてに満足はしていないけど、いい2日間でした。エンジニアともしっかりとコミュニケーションを取ることができたので。

 もちろん、まだまだ伸びしろはあると思うから、今回の結果については満足していません。学ばなければいけないことが多いし、とくにタイヤに関しては温まり方や限界値など、まだ掴みきれていない。そのあたりを早く習得して、みんなとのギャップを一刻も早く縮めていきたいです」

 なお、テスト終了後に帰国予定だった便が欠航になり、カルデロンはしばらく日本に滞在した。だが、なんとか4月1日にスペイン行きの飛行機が見つかり、帰国の途についた。

 本来なら2020年のスーパーフォーミュラは、4月4日、5日に鈴鹿サーキットで開幕を迎えるはずだった。だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、第2戦・富士、第3戦・オートポリスまでの3戦がすべて延期されることになった。状況次第では、6月下旬に予定されている第4戦・SUGOもスケジュール変更を余儀なくされる可能性が出てきている。

 シーズン開幕の目処が立たず、もどかしい状況が続いている。現在の状況が終息してレースが開催される時、彼女が日本でどんな走りを見せてくれるのか、目が離せない。

 そして、今回の富士テストに参加したTEAM MUGENのユーリ・ビップスのマネジャーが母国エストニアに帰国した際、検疫で新型コロナウイルスの陽性反応が出たことが明らかとなった。

 これにともない、TEAM MUGENは現場にいたメンバーを自宅待機とし、所轄保健所からの指導のもと、スタッフの健康状態や濃厚接触者の確認を進めているが、今のところ新たな感染者は出ていないという。今後もチームから最新情報が入り次第、発表されるとのことだ。