最も印象に残っているJリーグ助っ人外国人選手(7)フッキ(川崎フロンターレ,コンサドーレ札幌,東京ヴェルディ/FW) カ…
最も印象に残っている
Jリーグ助っ人外国人選手(7)
フッキ(川崎フロンターレ,コンサドーレ札幌,東京ヴェルディ/FW)
カタカナ表記の「フッキ」の横には、アルファベットで「HULK」と書いてある。
ああ、『超人ハルク』をポルトガル語で読むと、そんな音になるのだろう。今から13年前のJ2で、当時20歳のブラジル人アタッカーが出場する東京ヴェルディの試合を取材した際、メンバー表を見てまずそう思った。前のシーズンにコンサドーレ札幌でブレイクし始めたとは聞いていたが、実際に観るのはそれが初めてだった。そして数十分後には、度肝を抜かれることに。

まさに超人的なプレーと活躍ぶりで、日本のファンに鮮烈な印象を残したフッキ
アメコミの『超人』よろしく、筋骨隆々とした肉体を持ち、肌、ではなく、シャツの色も緑。パワーはもとより、スピードも常人離れしており、芝を切り刻んで巻き上げていくような迫力満点のドリブルが始まると、止められる者はほとんどいなかった。
開始地点が低い時は、強引な選択や持ちすぎに見えることもあったが、多くの場合、そのまま敵陣深くまで進入した。また左足からの強烈なキックはFKやミドルシュートで威力を発揮し、J2の舞台ではなかなか見られない凄まじい一撃で、2007年ザスパ草津との開幕戦からゴールを奪った。
その試合の2ゴールを含め、開幕から5試合連続で計7得点を記録。最終的には37ゴールを挙げ、後続に11点差をつけてダントツのトップスコアラーとなり、東京ヴェルディのJ1昇格の立役者となった。
本名は、ジバニウド・ビエイラ・デ・ソウザ。通り名の由来は、彼の父が実写版ドラマ『超人ハルク』をことのほか好きだったからだという。それにしても、ここまでぴったりな愛称になると想像しただろうか。ピッチ上のフッキはまさしく、超人そのものだった。
でもひとたび芝生を離れると、謙虚で素朴なナイスガイだったと、書き手と懇意にする当時のチーム広報が教えてくれた。試合や練習では、パワフルな突破や豪快なシュートで相手を吹き飛ばすこともあったが、普段はチームメイトやスタッフといつも笑顔で接し、ファンとも喜んで触れ合ったという。
こんなエピソードがある。
J1昇格がかかった2007年シーズンのホーム最終戦に累積警告で出場できなかったフッキは、試合前にスーツ姿でゴール裏にやってきて、拡声器を使って応援歌を歌い出し、サポーターとともに最高のムードを演出──そしてチームは勝利と昇格を勝ち取った。
鮮烈なパフォーマンスを続けたシーズンの終盤だっただけに、移籍の報告をされるのかと恐れていたヴェルディのファンは、これでさらにフッキを好きになったとか。
ミックスゾーンで何度か間近で話を聞いた時は、ピッチ上の姿よりずいぶん小さく見えたものだ。これはクリスティアーノ・ロナウドやウェイン・ルーニーあたりにも共通することで、躍動感に溢れる彼らが檜舞台で主役を張ると、実際のサイズより大きく見えることがままある。
翌シーズン、所属元の川崎フロンターレに一度は戻るも、第3節後にヴェルディに復帰。J1でも夏までに13試合で7得点をマークし、念願の欧州移籍を遂げ、少年時代から憧れていたポルトの一員となった。
ポルトガルの名門クラブでは、国内のリーグとカップを3度ずつ制し、ヨーロッパリーグでも優勝。この頃からセレソンにも呼ばれ始め、2012年ロンドン五輪の準優勝と2013年コンフェデレーションズカップの優勝に貢献し、2014年ブラジルW杯にも出場した。
ポルトで4年を過ごしたあとは、チェルシーへの移籍が実現に迫りながらも、2012年にゼニト・サンクトペテルブルクへ加わり、ロシア国内のタイトルを2つ獲得。2016年夏からは中国の上海上港でプレーしている。
ゼニトまでのキャリアをみれば、Jリーグから欧州にステップアップした外国籍選手のなかで、パク・チソン──マンチェスター・ユナイテッドでプレミアリーグやチャンピオンズリーグのタイトルを手にした──に次ぐ存在と言える。だから13年前のJ2でフッキが示した無双ぶりは、今になって考えると、当然のことだったようにも思える。
日本でプレーした期間は3年半と短かったけれど、あの強烈な印象は今も鮮明だ。ひとりだけ次元の違うスピードとパワーで敵を蹴散らし、左足から完璧なミートのロケットを放つ。当時の動画を見ると、2部にこんな選手がいたのかと、あらためて驚かされる。
もちろん、30代を超えた今のフッキもすごい。速さを落としながらも強さとスキルを増し、近年のACLチャンピオンズリーグでは古巣の川崎フロンターレや浦和レッズ、鹿島アントラーズらを苦しめている。
ただ、最近はゴシップ紙を賑わせている。3月23日の英タブロイド紙『ミラー』によると、フッキは昨年7月に12年連れ添った妻と別れ、3カ月後にその元妻の姪と付き合い始め、ついに入籍したというのだ。元妻との間には3人の子どもがおり、彼らを含め、親戚一同に「何も隠し立てはしたくないから」と報告も済ませているという。
超人はやはり、時に常人の理解を超えてしまうようだ。